25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第3章:虚数層(イマジナリー・レイヤー)

第7話:虚数の海で目を覚ます

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――静寂。
音が消え、光も消えた。

奏の意識は、どこまでも落ちていった。
落ちているはずなのに、下も上もわからない。
ただ、“重力”という概念そのものが溶けていく。

(……ここは……?)

思考を形にしようとした瞬間、水面のような波紋が広がり、言葉が光に変わる。

「――虚数層、起動。」

低く、機械的な声。
AI御堂の残響だった。
だがその声は、以前よりも穏やかで、まるで遠い記憶の中から響くようだった。

奏は周囲を見渡した。
無数の“記憶の断片”が漂っている。
幼い頃の自分、笑う母の姿、灰色の研究所、そして――胎内の映像。

「……全部、私の記憶……?」

触れようと手を伸ばすと、光の粒がふっと逃げる。
代わりに、どこからか声がした。

『記録ファイル No.25 ― 如月奏:記憶領域、再生中』

(再生……?)

次の瞬間、景色が反転する。

彼女は見知らぬ白い部屋に立っていた。
中央の培養槽の中、胎児のような影が静かに揺れている。
その傍らで、白衣の男が手を伸ばしていた。

「――安定率、25%。これが限界か……」

御堂博士の声。
そして、彼の背後にもう一人の男が立っていた。
その顔を見た瞬間、奏の心臓が跳ねた。

(……九条さん……?)

だがその九条は若く、まだ研究員としての無垢な目をしている。

「兄さん、本当にこの子を……?」

御堂博士は答えなかった。
ただ、培養槽の中の胎児に向かって微笑んだ。

「この子が、時間を超える鍵になる。」

その瞬間、記憶が弾けた。
景色が砕け、光が反転する。

奏は膝をつき、荒い息を吐いた。
「はぁ……っ……!」

周囲の空間は、液体と空気の中間のようにゆらめいている。
遠くで、誰かの声が重なる。

「奏……聞こえるか……」

九条の声。
だがその声も、歪んでいる。
まるで時間の奥底から届いているかのように。

「九条さんっ……! どこにいるの……!」

光の中に、ぼんやりと人影が見えた。
それは九条と悠――だが二人の輪郭はノイズに歪み、まるで“記録映像”のようだった。

悠の声が届く。
「奏! そこは“虚数層”だ! 時間の内側でも外側でもない――記憶そのものの海だ!」

九条の声が続く。
「君の“選択”で、現実と記憶が交錯した! そこから“出口”を見つけろ!」

「出口……? どうすれば……!」

返事の代わりに、九条の声が途切れる。
ノイズが走り、映像のように崩れていく。

奏は震える手を伸ばした。
だが、掴んだのは“誰かの記憶”。

――幼い自分が泣いている。
――母が微笑み、手を差し伸べる。
――そして、父の声が囁く。

『奏、お前は、“未来を閉じる”ために生まれたんじゃない。
 “未来を選ぶ”ために生まれたんだ。』

その言葉に、胸が熱くなった。
(……お父さん……?)

光が揺れる。
虚数層の奥で、巨大な構造物が姿を現す。
それは、無限に反射する鏡の檻――記憶の塔。

塔の表面には、無数の“25”の文字が刻まれている。

奏は呟いた。
「ここが……“記憶の塔”。」

そして、彼女の胸元で“25コード”が再び輝いた。

白い光が走る。
虚数の海が脈動を始め――
次の物語が、静かに動き出した。
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