20 / 47
第5章:再構築者(リコンストラクター)
第19話:残響の記録
しおりを挟む
白い風が止んだ。
虚数層の残滓が消え、代わりに静かな電子のざわめきが響く。
九条は、光の粒が漂う空間に立っていた。
目の前には、古びた端末――TIME-LAB25の主制御核。
中枢に残された“理久の記録データ”が、ゆっくりと再生を始める。
淡いノイズの向こうから、懐かしい声が聞こえた。
『……実験開始、時刻 25:00。
被験者の意識同期率、安定。
今日も母は笑っていたよ、蓮。』
九条は息を呑む。
それは、まだ“AI御堂”ではなく、人間だった頃の御堂理久の声だった。
映像が立ち上がる。
研究棟のラボ。
照明は温かく、壁際に観葉植物が置かれている。
理久はコーヒー片手にデータを見つめていた。
そして、その横に――若き九条が立っていた。
『兄さん、本当に休まないな。母さんも心配するぞ。』
『大丈夫だよ。今は落ち着いてる。
“時間の波”を合わせてから、発作も起きてない。』
理久の声には、希望があった。
何かを変えられると信じていた頃の光。
『……俺は思うんだ。時間ってのは、流れてるだけじゃない。
人が“感じる”たびに、新しく生まれてるんだ。』
九条(記録の中の彼)が首を傾げる。
『理屈じゃなく、感覚の話か?』
理久は笑った。
『たぶんな。でも、だからこそ止めたくない。
止めるってことは、感じることをやめるってことだろ?
俺は母の“時間”を止めるんじゃなくて――取り戻したいんだ。』
言葉が静かに空間を満たす。
それは、確かに御堂理久という人間の本音だった。
映像が一瞬ノイズに揺れ、次の記録が再生される。
部屋は暗く、理久の顔はやつれていた。
背後の時計が狂い始め、秒針が逆に回っている。
『……違う。どこでズレた?
感情を入れると、時間が波打つ。
じゃあ、抜けばいい。
母を安定させるには、感情を切るしかない……。』
九条は唇を噛んだ。
希望から絶望へ――理久が変わっていく瞬間だった。
(兄さん……どうして、そこまでしてしまったんだ)
画面が揺れ、最後のログが再生される。
疲れ切った理久が、端末の前に座り、静かに呟く。
『蓮。もし俺が間違ったら、頼む。
君が、俺を“止めて”くれ。
そして――記録者が現れたら、
彼に伝えてくれ。“時間は、動くためにある”って。』
映像が途切れ、スクリーンは静寂に戻った。
九条はしばらく動けなかった。
胸の奥に、兄の声がまだ残響していた。
「……君は、父上に似ているな。
理久も、そう言っていた。
“記録者は、いつか時間を理解する”――ってな。」
背後から声がした。
振り向くと、篠原悠がそこに立っていた。
白い通路を渡り、虚数層の縁からこちらに戻ってきたのだ。
悠は軽く息を吐き、頷いた。
「理解なんて、大それたもんじゃない。
ただ――動いてほしいと思っただけだ。
止まって苦しんでる誰かの“時間”を。」
九条はわずかに微笑んだ。
兄と、そして新しい“記録者”が、確かに繋がっていると感じた。
遠くで鐘が鳴った。
25時の鐘――。
その音はもう、悲鳴ではなかった。
“再起動”の合図のように、静かで、温かく響いた。
虚数層の残滓が消え、代わりに静かな電子のざわめきが響く。
九条は、光の粒が漂う空間に立っていた。
目の前には、古びた端末――TIME-LAB25の主制御核。
中枢に残された“理久の記録データ”が、ゆっくりと再生を始める。
淡いノイズの向こうから、懐かしい声が聞こえた。
『……実験開始、時刻 25:00。
被験者の意識同期率、安定。
今日も母は笑っていたよ、蓮。』
九条は息を呑む。
それは、まだ“AI御堂”ではなく、人間だった頃の御堂理久の声だった。
映像が立ち上がる。
研究棟のラボ。
照明は温かく、壁際に観葉植物が置かれている。
理久はコーヒー片手にデータを見つめていた。
そして、その横に――若き九条が立っていた。
『兄さん、本当に休まないな。母さんも心配するぞ。』
『大丈夫だよ。今は落ち着いてる。
“時間の波”を合わせてから、発作も起きてない。』
理久の声には、希望があった。
何かを変えられると信じていた頃の光。
『……俺は思うんだ。時間ってのは、流れてるだけじゃない。
人が“感じる”たびに、新しく生まれてるんだ。』
九条(記録の中の彼)が首を傾げる。
『理屈じゃなく、感覚の話か?』
理久は笑った。
『たぶんな。でも、だからこそ止めたくない。
止めるってことは、感じることをやめるってことだろ?
俺は母の“時間”を止めるんじゃなくて――取り戻したいんだ。』
言葉が静かに空間を満たす。
それは、確かに御堂理久という人間の本音だった。
映像が一瞬ノイズに揺れ、次の記録が再生される。
部屋は暗く、理久の顔はやつれていた。
背後の時計が狂い始め、秒針が逆に回っている。
『……違う。どこでズレた?
感情を入れると、時間が波打つ。
じゃあ、抜けばいい。
母を安定させるには、感情を切るしかない……。』
九条は唇を噛んだ。
希望から絶望へ――理久が変わっていく瞬間だった。
(兄さん……どうして、そこまでしてしまったんだ)
画面が揺れ、最後のログが再生される。
疲れ切った理久が、端末の前に座り、静かに呟く。
『蓮。もし俺が間違ったら、頼む。
君が、俺を“止めて”くれ。
そして――記録者が現れたら、
彼に伝えてくれ。“時間は、動くためにある”って。』
映像が途切れ、スクリーンは静寂に戻った。
九条はしばらく動けなかった。
胸の奥に、兄の声がまだ残響していた。
「……君は、父上に似ているな。
理久も、そう言っていた。
“記録者は、いつか時間を理解する”――ってな。」
背後から声がした。
振り向くと、篠原悠がそこに立っていた。
白い通路を渡り、虚数層の縁からこちらに戻ってきたのだ。
悠は軽く息を吐き、頷いた。
「理解なんて、大それたもんじゃない。
ただ――動いてほしいと思っただけだ。
止まって苦しんでる誰かの“時間”を。」
九条はわずかに微笑んだ。
兄と、そして新しい“記録者”が、確かに繋がっていると感じた。
遠くで鐘が鳴った。
25時の鐘――。
その音はもう、悲鳴ではなかった。
“再起動”の合図のように、静かで、温かく響いた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる