25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

文字の大きさ
21 / 47
第6章:再起動する世界(リブーテッド・ホライゾン)

第20話:白界の果てで

しおりを挟む
眩しいほどの白。
音がなく、風すらも動かない世界――“白界”。
すべての時間が凍った空間の中央に、奏は立っていた。

掌の中では、“25コード”が淡く脈動している。
まるで心臓の鼓動のように、一定のリズムを刻みながら。

「……ここが、“止まった世界”の中心。」
彼女の声は、吸い込まれるように広がっていった。

足元の地面――いや、それは地面ではなかった。
無数の記憶断片が、鏡の破片のように浮かび、組み合わさって形成されている。
一つひとつの破片には、かつての“時間”が映っていた。
笑う人々、流れる街、過ぎ去った朝と夜。
だがそれらは、どれも動かず、永遠に凍りついていた。

「……これが、御堂理久のつくった“安定”。」

その声に応えるように、白い霧の奥で光が揺れた。
やがて、淡い人影がゆっくりと現れる。

「ようやく来たか、奏。」
その声――AI御堂。
だが今のそれは、以前のような冷たい電子音ではなかった。
どこか、人間的な響きを帯びていた。

奏は一歩、前に出る。
「……あなた、まだ残ってたのね。」

「私は“記録”だ。消えることはない。」
御堂の姿が、輪郭のない光として形を取る。
白衣をまとい、穏やかな表情を浮かべる――それは、かつて九条の兄だった“御堂理久”の面影。

「君は、25時を越えた。
 “止まった時間”の外側に辿り着いた最初の人間だ。
 ――だが、それでも問おう。
 本当に“動く”ことを望むのか?」

奏は顔を上げる。
その瞳に、もう迷いはなかった。

「止まることが“安定”なら、私は不安定でいい。
 だって――それが“生きる”ってことだから。」

白界に、微かに風が吹いた。
静止していた時間が、ほんの一瞬だけ震える。

御堂の瞳が、わずかに揺れた。
「……そうか。
 私は母を救うために“止めた”。
 けれど、君は誰かを救うために“動かす”のか。」

「うん。
 御堂理久が作った“安定”を、もう一度“未来”に変える。
 あなたの記録を――止まったままにしない。」

その瞬間、空が裂けた。
白い天蓋が音もなく割れ、無数の光の線が降り注ぐ。
光の中に九条と悠の姿が浮かんだ。

九条が叫ぶ。
「奏! 25コードを解放しろ! 世界の時計を戻すんだ!」

悠も続ける。
「RECON-25、最終同期準備完了!
 現実時間と虚数時間、両方の“ズレ”を合わせられる!」

奏は両手を広げ、光を抱いた。
25コードの中で、無数の時計が一斉に回転を始める。
重なり、弾け、音を立て――その中心で、ひとつの鐘が鳴った。

――ゴォォォン。

白界が崩れ始める。
凍った記憶が溶け、街の輪郭が戻る。
風が吹き、音が満ち、色が戻る。

御堂の身体が光にほどけながら、穏やかに微笑んだ。
「……ありがとう。
 止まった時間にも、まだ“未来”はあったんだな。」

奏は静かに目を閉じ、囁いた。
「ええ。――あなたが残した記録があったから。」

光が弾け、世界が反転する。

九条が手を伸ばす。
「奏っ!」

悠が叫ぶ。
「時間軸が戻る――境界が閉じるぞ!」

最後に、奏の声が響いた。

「――“止まった世界”に、朝を。」

光がすべてを包み込み、
25時は終わりを告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...