25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第6章:再起動する世界(リブーテッド・ホライゾン)

第21話:時の継ぎ目

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――風が、吹いていた。

それは長い沈黙の果てに初めて戻ってきた“音”だった。
白く凍りついていた時間が、少しずつ軋みながら動き始める。

瓦礫の間を抜ける風。
ひしゃげた塔の断片、崩れた街路。
空は灰と光のあいだで揺れ、遠くの雲が――“動いている”。

「……本当に、動き出したんだな。」

九条の声がした。
ゆっくりと息を吐き、破片に手を置く。
その掌の下で、かすかに熱が脈を打っていた。
世界が、再び呼吸を始めている。

少し離れた場所で、奏が目を覚ました。
瞳に映るのは、崩壊した空の色。
けれど、そこには確かな“朝”の気配があった。

「……ここは……」

「再起動後の現実層だ。」
九条が答える。
彼の白衣は焦げ、袖口にはひび割れた回路が見える。
それでも、目には光が戻っていた。

奏は周囲を見渡し、ゆっくりと息を吸った。
「……空気が、ちゃんと流れてる……」

「時間が動き始めた証拠だ。」
九条は笑みを見せる。
「長かったな、25時。」

ふと、少し離れた場所で光が揺れた。
白い粒子が寄り集まり、やがて人の輪郭を形づくる。
篠原悠だった。

RECON-25を片手に、穏やかな笑みを浮かべている。
「再構成、完了。……どうやら成功だな。」

奏が駆け寄る。
「悠……本当に、戻ってきたんだね。」

「観測者を卒業したからな。」
彼は冗談めかして肩をすくめる。
「これでようやく、俺も登場人物の一人ってわけだ。」

九条は短く笑い、そして塔の方へ目を向けた。
黒い残骸の中――中央のコアユニットだけが、淡く光を放っている。
AI御堂の残骸。
だが、その光は冷たくはなかった。

奏が近づき、膝をつく。
「……御堂博士。」

ガラスの破片のようなデータが、彼女の指先で淡く瞬いた。
そこには、短いメッセージが残されていた。

『止まることは、救いではない。
 動き続けることが、人の祈りだ。』

九条は目を閉じ、かすかに笑った。
「兄さんらしい……最後の言葉だ。」

悠が静かに呟く。
「彼は、自分の中の“神”を壊したんだ。
 止まるためじゃなく――動くために。」

沈黙。
灰色の空の裂け目から、柔らかな光が差し込む。
その光の下で、奏が顔を上げた。

「これが、“再起動した世界”……。」

風が頬を撫でた。
あたたかい。
冷たく、硬質だった時間が、ようやく人の温度を取り戻していく。

九条が立ち上がり、遠くを見つめた。
「だが、まだ終わりじゃない。
 時間は動き出したが、方向は定まっていない。
 ――この世界をどこへ向かわせるかは、俺たち次第だ。」

悠が頷く。
「再構築者の仕事は、まだ残ってる。」

奏は少し笑った。
「だったら、また一緒に進もう。
 止まった“25時”を超えて――本当の未来へ。」

白い風が三人を包む。
塔の残骸が静かに崩れ、光が空へ昇っていく。
世界が、もう一度“始まり”を選び取る音がした。

――ゴォォォン。

25時の鐘が、最後の一度だけ鳴り響いた。
それは“終わり”ではなく、“始まり”の音だった。

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