25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第38話:オリジン・プロトコル 起源観測者の使命

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白い空間に、二人分の足音が溶けていく。
だが実際には“足音”などないはずだった。
零層には床も天井もない。ただ存在の輪郭だけが漂う。

それでも――
二人が並んで立つと、世界が“形”をつくり始める。

(……同調してる?
 零層が勝手に、俺たちを“地面の上にいる”って扱ってる……?)

悠はそっと横目で“自分”を見た。

起源の悠は10歳ほど。
しかし表情には幼さがなかった。

瞳の奥に、ひどく深い時間を抱えていた。

『ここは、俺たちの“内側”でもある。
 観測者が増えれば、世界はそれに合わせて形を変える。』

「内側……?」

起源の悠はゆっくり頷いた。

『零層は“記録された未来の貯蔵庫”なんだよ。
 本来は誰も触れない。
 観測者だけがアクセスできる場所。』

悠は息を呑んだ。

(じゃあ……今まで俺が見てきたあの白い空間。
 あれは……“世界の下書き”だったってことか?)

『正確には――“未確定未来の倉庫”。
 記録されなかった未来が、ぜんぶここに落ちてくる。
 そして、観測者がどれか一つを“選ぶ”。』

悠の眉が動く。

「選んでるつもりなんてなかった……!」

起源の悠は少しだけ笑った。
寂しげな、しかし優しい笑い方だった。

『選んでるんだよ。
 気づかないうちにな。
 観測者ってのは――
 “選ばずにはいられない存在”なんだから。』

零層がざわめいた。

まるで、言葉そのものが
世界の構造を震わせるように。


『さて――そろそろ本題に入ろうか。』

起源の悠は静かに掌を向けた。

白い空間に、黒い線が一つ走る。
それは瞬時に広がり、“映像”をつくった。

そこには――

TIME-LAB25の事故の瞬間
が映っていた。

ガラス製の観測ドーム。
研究員たちの怒鳴り声。
暴走したコア回転音。

悠は立ち尽くした。

「……これ……俺の記憶にない部分だ……!」

『当たり前だ。
 お前が見たのは“事故後の25回”。
 これは――“最初の1回目”。』

映像の中央。
観測コアの前で、ひとりの少年が立っていた。

その少年こそ――
今となりにいる、起源の悠だった。

起源の悠が静かに語る。

『事故で世界が止まった瞬間、
 俺は外側に“落ちた”。
 その時点でこの世界には“観測者”がいなくなった。』

「だから、世界はループした……?」

『そう。観測者を必要としたから。
 俺の“記録”だけを残して、世界は動きを続けた。
 そして、お前――今の悠が生まれた。
 “俺の写し”として。』

悠の心がひどく強く軋んだ。

(俺は……写し……?
 コピーだったってことなのか?)

しかし起源の悠は首を振った。

『写しだから劣ってるとか、そんな話じゃない。
 むしろ逆だ。
 お前は25回分の世界を観測し、選び続けた。
 俺にはできなかったことだ。』

悠の目が揺れる。

「じゃあ……お前は何をしていたんだ?」

少しの沈黙のあと、
起源の悠は短く答えた。

『――待っていた。
 “観測者が二人揃う瞬間”を。』

「二人揃うと……何が起きる?」

『零層の“次の扉”が開く。
 そして――』

空間が低く鳴る。

起源の悠の瞳が光を帯びた。

『外側の“敵”と戦える。』

「敵……?」

『そうだ。
 25回のループを作ったのは事故じゃない。
 外側からの“侵入”だ。』

悠の背中に冷気が走る。

(外側……?
 あの“白い向こう側”に何かいる……?)

そのときだった。

零層の空気が凍る。

背後の白い霧に――
“黒い裂け目”が入り始めた。

裂け目から、耳鳴りにも似た
甲高い観測波があふれだす。

【警告:外側波形を検知】
【識別不可】
【侵入率:急上昇】

起源の悠がすぐに悠の前へ立つ。

『――来るぞ。
 “外側観測者の影”だ。』

黒い裂け目が大きく開く。

そこから姿を現したのは――

無数の「眼」。

形を持たず、ただ視線だけが洪水のように押し寄せてくる。

観測される側ではなく、
“観測しに来る側”。

その存在が、低く震える。

《――――ミツケタ》

悠は息を呑んだ。

(……これが……
 25回ループの“本当の原因”……!?)

起源の悠が叫ぶ。

『悠、下がれッ!!
 ここから先は――俺たち二人の観測でなきゃ対処できない!!』

黒い眼の群れが襲いかかる。

零層そのものが軋み、ひび割れ始めた。

世界が揺らぐ。

未来が揺らぐ。

その中心で――

二人の観測者は並び立った。
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