25階の残響(レゾナンス)

空木 輝斗

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第7章:時の残響(レゾナンス・オブ・ゼロ)

第39話:侵入者〈インベーダー〉 外側から来るもの

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零層の白い空間がきしんだ。

黒い裂け目から溢れだした“眼”の群れは、
形を持たないはずなのに、確かな重さと圧力を帯びて迫ってくる。

《――――ミツケタ》

無数の視線が、悠と“起源の悠”を同時に貫いた。

息が凍る。
心臓をつかまれるような、嫌な感覚。

(なんだこれ……!
 見られてるだけなのに、体温が奪われるみたいだ……!)

横で、起源の悠が短く吐き出した。

『正体は“観測眼(インサイト・ノード)”。
 外側に巣食う、世界に寄生する“観測の虫”みたいなもんだ。』

「虫……?」

『これは比喩じゃない。
 あいつらは“世界が確定する瞬間”だけを食う。
 未来の骨組みを食い荒らす寄生者だ。』

その言葉と同時に、黒い眼の群れが急降下してくる。

悠は思わず後退りしたが――

『下がるな! 距離を空けると“未来”を侵食される!』

起源の悠が手をかざした。

その瞬間、白い空間に光の線が走る。

きらり、と細い筆線のような光が宙に浮かび、
眼の群れが“ぴたり”と動きを止めた。

(……なにこれ……?
 手を振っただけで、敵の動きが……)

起源の悠は短く言った。

『観測者の力は“世界の線を見分ける”こと。
 外側の存在にはない“因果の線”を引くと、あいつらは動けない。』

眼がわずかに震える。

《――――キョウイテン……カクニン……》

「キョウイテン……?」

『観測者の“選択”が形になる場所。
 あいつらにとっては猛毒みたいなもんだ。』

だが、次の瞬間――

黒い裂け目がさらに大きく広がり、
別種の影がゆらりと姿を現した。

“人影”だった。

だが、輪郭しかない。
目も口も鼻も、存在しない。

ただ、
「人間の形を模倣している」
だけの影。

《――――モドレ……カンソクシャ……》

悠の背中が冷たくなる。

(戻れ……?
 なんでこいつら、“観測者”を知ってるんだ?)

起源の悠が低く呟いた。

『……やっぱりか。
 あいつら、観測者を“食って”増えたんだ。』

「は……?」

『25回のループの途中で、観測者が生存できた未来だけを丸かじりした。
 その記録を“影”として模倣してる。
 だから……俺たちの姿を知っている。』

影が一歩、こちらへにじり寄る。

零層の地面がひび割れた。

《――――オマエタチハ……
 ミライノ……ジャマ……》

「未来の邪魔!?
 ふざけんな、こっちの台詞だろ!」

悠が叫んだ瞬間――
黒い眼が一斉に飛びかかってきた。


世界が一瞬、消える。

視界がノイズで塗りつぶされ、
耳鳴りのような観測波が骨を震わせる。

(……終わった……ッ)

だが、次の瞬間――

ぽん、と肩に手が置かれた。

『悠。
 “見る”ことをやめるな。』

起源の悠が静かに言った。

『観測者の力は、戦う力じゃない。
 けど――逃げない力だ。
 “見続ける”ことで、敵の因果が浮かび上がる。』

世界が鮮明に戻った。

黒い眼の群れが、
細い“線”で縫い合わされるように見える。

(……これは……
 あいつらの動きの“未来予測”……?)

起源の悠が頷く。

『そうだ。それが観測者の防御。
 “未来のどこに来るか”を視て、その線を切る。』

手を前に出すと、
悠の指に光が宿る。

無意識に、一本の線を描いた。

瞬間――
迫ってきた眼が“裂けた”。

《――――ッッッ!!》

たった一本の線。
しかしそれは敵の“確定未来”を切断する力だった。

(……すげえ……
 これが……観測者の力……!)

だが、喜ぶ暇はなかった。

黒い影が一歩前に出る。

その動きは、
先ほどまでの眼とは比べものにならない。

明確な意志を持った“侵入者”。

《――――ダレカガ……ソトガワデ……オキタ……
 オマエタチヲ……ツナイダ……
 オマエタチハ……エサ……》

「餌……?」

影が腕を伸ばす。

零層が歪む。
因果線がちぎれ、空間が崩れ出す。

起源の悠が目を見開いた。

『やべえ……!
 “あいつらの世界”とこっちが直結し始めてる!!』

崩れゆく白い空間。
そこへ、影の声が響いた。

《――――ツギノ……ループハ……ナイ》

(……ループが終わる……?
 じゃあ、次が最後の……?)

影が手を伸ばす。
空間が黒い霧に飲まれ始めた。

これは――

“25階の残響”そのものが消える前兆。

起源の悠が叫ぶ。

『悠!
 絶対に手ェ離すな!!』

「なにを――」

『今から“外側の外側”へ跳ぶ!
 この空間じゃ勝てねえ!』

影が迫る。

因果がちぎれる。

未来が削られる――――

起源の悠が悠の手をつかむ。

その瞬間。

零層が、“裏返った”。
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