【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

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「奥さま、本日の旦那様はとても機嫌が良さそうで鼻歌を歌っていらっしゃいましたよ?」
「クロード様はユーモアもありまして…」
フォルテナが昔を思い出してぼんやりしているとハーネットがそう言った。
「そうなのね。鼻歌なんて歌われるのね……イメージとは違う方だわ。ふふ……私の前ではいつも怒ったような顔をしてらっしゃるから」
「え!私の前ではよく笑われますよ。……奥様にはそうなんですね……」ハーネットはカップから一度顔を上げると目を伏せた。
「そうね。私たち全然仲良くなれなかったの」

沈黙が続く。

こんなネガティブな会話をしては使用人は気を使って話せなくなってしまうのは当然だ。

「……ユーモアってご冗談とかを言われるの?想像できないわ」
「あ、はい!クロードは結構冗談が好きで……いつも笑わせてもらっているんですよ」
「まあ、男性って冗談を言ったりされるのね」
フォルテナは目を見開いた。
自分の知っている数少ない男性は冗談はあまり言わない。
どちらかと言うと無口なイメージだった。
男性はフォルテナの前ではあまりペラペラと話さない。

「ハーネットが聞き上手なのかしらね。私の知っている男性はみんなあまりお話をされない方が多いわ」
「受け身すぎてはいけないのかもしれませんね」
「そうね。そういう方もハーネットと話せば会話が弾むのかもしれないわ」フォルテナは想像した。自分がいつも人と話す時どのような調子なのか……
確かになかなか聞き上手ではないかもしれない。
沈黙が苦手だからこうして質問ばかり相手に投げかけてしまうし……
だから面白い冗談を言えるような仲になれないのかも……

「ハーネットってどのように相手と会話するように心がけているの?私もこれから夫婦でパーティーなんかに行くわよね……その時に」あまり会話が弾まないと旦那様にご迷惑を掛けてしまうかもしれない……フォルテナはハーネットに会話術を伝授してもらおうと思った。
「え!あ……奥様とクロードは一緒にはパーティーに行かれないと思いますよ?」
しかしハーネットは少し雑にそう言った。
「あ……そ、そうかしら?」
フォルテナは動揺してしまった。結構不仲の夫婦でもパーティーには夫婦帯同で行くものだから……てっきり自分も……と思ったのだ。勘違いに顔が熱くなる。
そこまで嫌われているとは……
「ごめんなさい。結構不仲でもパーティーには夫婦で参加するから……私たちもかと思ったのだけれど、そうではないのね」フォルテナは赤面した頬に手のひらを当てた。

「あ……奥様はパーティーに行かれたことは……?」
「私?私はデビュタントだけかしら……」デビュタント以外ではパーティーに行ったことがない。生まれた頃から婚約者が決まっていたから。そこではものすごくたくさんの人と踊らなきゃならなくて……とても大変だった。
デビュタントだからなのか……パーティーはそんなものなのか……
「奥様はクロードのお兄様とご婚約されてましたよね……?」
「ええ、だからパーティーには行かなかったのよ。相手を探す必要がないから……」
ハーネットはしきりに咳払いをすると「……お兄様からお誘いはなかったのですか……?」と声を詰まらせて言った。
「そう言えばなかったわね。普通はあるの?」
「……あ、あると……思いますよ!」
ハーネットが肩を震わせている。

「あら、ハーネット大丈夫?咳もしているし……寒いの?もう夏も終わりだものね……もう今日のお茶会はおしまいにしましょう」フォルテナは自分の羽織っていたカーディガンをハーネットにそっと掛けると窓の外を見た。
だいぶ木の葉が色づいてきた……

窓辺にそっと駆け寄ると窓の下を覗き込む。
そこには大きな庭が広がっていて(また行きたいな……)と思う。

こんなに広い土地だ。
中にはまだ整地されていない野原があるかもしれない。
フォルテナは思った。
リリーが昔言っていたわ。
野原には色んな草花があって……その中にはシロツメクサなるものがあるのよ。その葉っぱはクローバーという名称で……普通は三枚の葉っぱでできているけれど……たまに四枚の物がある……それを見つけると幸せを手に入れることができるのよ!
私……幸せになるのが夢……
ぜひ、四葉のクローバーを見つけて今よりも幸せになりたいわ。

それにパーティーに行かないのは私にとって悪くはないかもしれない。ダンスはあまり好きではないし……人と話すのも苦手だし……何よりたくさん踊るので足が痛くなってしまう。

旦那様以外の人と結婚したらこうはいかなかったかもしれない。妻のことが嫌いだからと言ってパーティーにも同伴させない大人げない人で本当によかった!フォルテナは自分の境遇の恵まれっぷりににっこり笑いながら外を見た。


「今日は少しハーネットと仲良くなれたわ」
フォルテナはハーネットが部屋から出て行くと朝食のとき少し千切って取っておいたパンの欠片を小さなバルコニーに撒いた。
こうしておけば……
たまに小鳥が来るのよね。

フォルテナは陰に隠れると息を潜めて鳥の来訪を待った。

ハーネットにカーディガンを貸してしまったので少し肌寒い……そっと腕を擦った。
その時トントントン……と音がしたのでフォルテナは肩をビクつかせて驚いた。
集中し過ぎてしまったようだ。

「あ……は、はい」
今はハーネットがいないので慌てて扉を開ける。
自分のところに訪問するなんて……誰だろう。フォルテナは首を傾げた。
ドアを開けると花束を持ったクロードが立っていたのでフォルテナは「あ……すいません。今ハーネットはいないんです……恐らくどこか別のとこにいると思うので……そちらで渡してもらえますか?」と頭を下げて扉を閉めた。

クロードがハーネットに花束を渡しに来たと思ったからだ。
以前彼女が言っていた通り……花束をよくクロードからもらう。と
クロードはハーネットがここにいないことを知らなかったのだ。と


「いいなぁ……男性から花束なんて……貰ったことないかもしれないわ」フォルテナは両手で頬を挟むとその場に立ち尽くした。
いくら考えても花束を貰った記憶はない。
デビュタントの時にはダンスのお相手をしてくれた男性が調子良く「プレゼントを贈る」なんて口々に言っていたけれど……「結局誰もくれなかった……」社交辞令だったのだろう。
フォルテナは再びバルコニーの陰に隠れると「プレゼント……も貰ったことないわ……」と自分の女子力の低さを呪った。

「……でも」

チチ……と鳴き声がして小鳥がやってきた。
ツンツンとパンを啄んではキョロキョロ辺りを見渡している。

「今はこんなに近くで小鳥を見られるのだもの……私ってやっぱり少しずつ幸せになってきているわ」そうボソボソと話すとフォルテナはにっこり微笑んだ。
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