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(今日こそは直接渡したい……!)
クロードは早起きをして庭に出ると花束を作り包装してもらう。
ちゃんと正装もしたし……
踊り場にある大きな鏡に自分を映すとついているかわからない埃をパタパタと手で払った。
毎回朝食を食べてから行くともうフォルテナはいないので、クロードは朝食を後回しにすることにした。情けなくグーグーと鳴る腹を抑えつけて彼は廊下をウッキウキで歩いた。
フォルテナ殿は喜んでくれるだろうか……
クロードは深呼吸をしてからフォルテナの部屋のドアをノックした。
「ハーネット?早いわね。もういただいたの?」
中からそんな声がしたので少し頭を傾げる。ハーネットが何か受け取りに行ったのか?
「……あ、旦那様。ハーネットは今いなくて……」扉を開けてクロードの顔を見たフォルテナはそう言いながら中へクロードを入れてくれた。こちらに背を見せて先をゆくフォルテナの手を引くと跪き花束を差し出した。
「え?……わ、私に?ありがとうございます!」君以外誰に渡すというのか……フォルテナはとても嬉しそうにそう言って中のメッセージカードも読んでくれた。
『あなたを大切に想っています』
「……ええ!?……わ、私にこれを……!?」
……ちょっと気障すぎただろうか…
今回も例に漏れず愛満載の花言葉で作った花束だ。顔が熱い。
フォルテナが「嬉しいです……ありがとうございます」と目を潤ませた。クロードはその時、この女性を一生掛けて幸せにするのだと決めた。
フォルテナを抱き寄せる。
「……え?……」とフォルテナが言ったのでクロードはちょっと大胆すぎただろうか…と動揺したが、フォルテナがそっと寄り添ってきたので物凄く興奮したクロードは彼女をソファまで連れて行くと二人は情熱的なキスをした。
その時トントントンとノックの音がしてハーネットが入ってきたのか声がする……「奥様……申し訳ありません。今日は庭師から花を……」そう言っている……
クロードは(庭師から花?)と思い思考を巡らせた。
フォルテナは庭師から花をもらっているのか……?
そう思い、部屋を眺めるとここには自分のプレゼントした花しか存在していない……
(どういうことだ?)
「そ、そう?……いいの。今日は旦那様がお花をくださったから……」フォルテナがそう言った。(……今日"は"?)
クロードはそれを聞いて一つの考えにたどり着きハーネットを見た。彼女はクロードから視線を外している。
……まさか今までハーネットに渡していた花は……俺から渡したことになっていない?
クロードは立ち上がるとフォルテナに手帳を見せた。
『またあとで』
フォルテナはコクコクと頷くと少しさみしげな顔をしたのでクロードはフガフガとはなを鳴らし、も、も、もしかして……俺と離れたくない?……そんなわけは……はははは!と心の中で自問自答する。
クロードは少し心を落ち着かせてからハーネットの前に立つと『一緒に執務室へ』と手帳に書いて見せた。
クロードの訪問に少し目を丸くしていたメイソンに事情を話すと「……警護を呼びましょう」そう言って彼は部屋を出て行った。クロードはハーネットを見たが、彼女は俯いたままソファに座り一言も話さない。
クロードはただただそれを見つめた。
幼い頃から知る使用人を。
ハーネットの母はクロードの保育をしていた……というか閉じ込めていた。というか。
両親は二男であるクロードをあまり大切にはしていなかったように今ならば感じる。
物心ついた頃にはクロードには既に使用人と同じような小さな部屋を充てがわれ、使用人と同じように生活していた。
唯一違うことはクロードが貴族としての立ち振舞や教育を受けていたことだ。飽くまでもクロードは長男のスペアだった。
いざ長男に何かあった時にはちゃんと機能してもらわなければ困る。しかし、勘違いして大きな顔をしたり、立場を覆すような存在になってはならない。
フローレス家は長男至上主義だった。
クロードは貴族としての教育は痛いほど叩き込まれ、家庭教師もつけられていたので自分の境遇になんの疑問も感じたことはなかった。
二男はこんなものだ。と
小さい頃はとにかくクロードが部屋から出ないように、余計なことをしないように監視と言う名の乳母がついていた。それがハーネットの母だ。
ハーネットの母親は極力クロードとコミュニケーションをとらないようにしているのか無口な女性だった。
優しくもなく、厳しくもない……
ある時少し顔色の悪いハーネットの母親から「娘です」とハーネットを紹介された。使用人の制服を身に着けていたので今日からここで働くのだろう。
俺は「よろしくお願いします」と言った。
ただそれだけ。
ハーネットはその時「よろしくお願いします」と返しただろうか?「はい」と言っただろうか?覚えていない。
ただ大人しそうな子だ。と思った。
両親と兄が亡くなって屋敷に戻って来た時、女性使用人がハーネット以外全員辞めてしまった。
原因がよくわからない、とメイソンも困惑していて俺は恐らく自分自身のせいだろう。と思った。
確かに女性使用人とはあまり一緒に働いたこともなかったが元々使用人のように扱われていた自分の下に就きたくないのだろう。と
彼女たちは皆、紹介状すら拒否していなくなってしまったようだ。追加で頼んでいたはずの使用人はいつになっても紹介してもらえない。
随分と貴族社会から嫌われたものだ。
俺はそう思った。
しかしフォルテナと結婚後暫くすると使用人の紹介を受けた。
来週からはまた新しく使用人が追加されることだろう。
フォルテナと結婚後色々なことがスムーズに進むようになった。
伯爵家の長女と結婚したからか……と、はじめは少々腹立たしさもあったが……
もしかすると……?
『お前は妻専属の使用人になる前』
『手紙を出す係をしていたか?』
クロードはそうハーネットに問うた。
クロードは早起きをして庭に出ると花束を作り包装してもらう。
ちゃんと正装もしたし……
踊り場にある大きな鏡に自分を映すとついているかわからない埃をパタパタと手で払った。
毎回朝食を食べてから行くともうフォルテナはいないので、クロードは朝食を後回しにすることにした。情けなくグーグーと鳴る腹を抑えつけて彼は廊下をウッキウキで歩いた。
フォルテナ殿は喜んでくれるだろうか……
クロードは深呼吸をしてからフォルテナの部屋のドアをノックした。
「ハーネット?早いわね。もういただいたの?」
中からそんな声がしたので少し頭を傾げる。ハーネットが何か受け取りに行ったのか?
「……あ、旦那様。ハーネットは今いなくて……」扉を開けてクロードの顔を見たフォルテナはそう言いながら中へクロードを入れてくれた。こちらに背を見せて先をゆくフォルテナの手を引くと跪き花束を差し出した。
「え?……わ、私に?ありがとうございます!」君以外誰に渡すというのか……フォルテナはとても嬉しそうにそう言って中のメッセージカードも読んでくれた。
『あなたを大切に想っています』
「……ええ!?……わ、私にこれを……!?」
……ちょっと気障すぎただろうか…
今回も例に漏れず愛満載の花言葉で作った花束だ。顔が熱い。
フォルテナが「嬉しいです……ありがとうございます」と目を潤ませた。クロードはその時、この女性を一生掛けて幸せにするのだと決めた。
フォルテナを抱き寄せる。
「……え?……」とフォルテナが言ったのでクロードはちょっと大胆すぎただろうか…と動揺したが、フォルテナがそっと寄り添ってきたので物凄く興奮したクロードは彼女をソファまで連れて行くと二人は情熱的なキスをした。
その時トントントンとノックの音がしてハーネットが入ってきたのか声がする……「奥様……申し訳ありません。今日は庭師から花を……」そう言っている……
クロードは(庭師から花?)と思い思考を巡らせた。
フォルテナは庭師から花をもらっているのか……?
そう思い、部屋を眺めるとここには自分のプレゼントした花しか存在していない……
(どういうことだ?)
「そ、そう?……いいの。今日は旦那様がお花をくださったから……」フォルテナがそう言った。(……今日"は"?)
クロードはそれを聞いて一つの考えにたどり着きハーネットを見た。彼女はクロードから視線を外している。
……まさか今までハーネットに渡していた花は……俺から渡したことになっていない?
クロードは立ち上がるとフォルテナに手帳を見せた。
『またあとで』
フォルテナはコクコクと頷くと少しさみしげな顔をしたのでクロードはフガフガとはなを鳴らし、も、も、もしかして……俺と離れたくない?……そんなわけは……はははは!と心の中で自問自答する。
クロードは少し心を落ち着かせてからハーネットの前に立つと『一緒に執務室へ』と手帳に書いて見せた。
クロードの訪問に少し目を丸くしていたメイソンに事情を話すと「……警護を呼びましょう」そう言って彼は部屋を出て行った。クロードはハーネットを見たが、彼女は俯いたままソファに座り一言も話さない。
クロードはただただそれを見つめた。
幼い頃から知る使用人を。
ハーネットの母はクロードの保育をしていた……というか閉じ込めていた。というか。
両親は二男であるクロードをあまり大切にはしていなかったように今ならば感じる。
物心ついた頃にはクロードには既に使用人と同じような小さな部屋を充てがわれ、使用人と同じように生活していた。
唯一違うことはクロードが貴族としての立ち振舞や教育を受けていたことだ。飽くまでもクロードは長男のスペアだった。
いざ長男に何かあった時にはちゃんと機能してもらわなければ困る。しかし、勘違いして大きな顔をしたり、立場を覆すような存在になってはならない。
フローレス家は長男至上主義だった。
クロードは貴族としての教育は痛いほど叩き込まれ、家庭教師もつけられていたので自分の境遇になんの疑問も感じたことはなかった。
二男はこんなものだ。と
小さい頃はとにかくクロードが部屋から出ないように、余計なことをしないように監視と言う名の乳母がついていた。それがハーネットの母だ。
ハーネットの母親は極力クロードとコミュニケーションをとらないようにしているのか無口な女性だった。
優しくもなく、厳しくもない……
ある時少し顔色の悪いハーネットの母親から「娘です」とハーネットを紹介された。使用人の制服を身に着けていたので今日からここで働くのだろう。
俺は「よろしくお願いします」と言った。
ただそれだけ。
ハーネットはその時「よろしくお願いします」と返しただろうか?「はい」と言っただろうか?覚えていない。
ただ大人しそうな子だ。と思った。
両親と兄が亡くなって屋敷に戻って来た時、女性使用人がハーネット以外全員辞めてしまった。
原因がよくわからない、とメイソンも困惑していて俺は恐らく自分自身のせいだろう。と思った。
確かに女性使用人とはあまり一緒に働いたこともなかったが元々使用人のように扱われていた自分の下に就きたくないのだろう。と
彼女たちは皆、紹介状すら拒否していなくなってしまったようだ。追加で頼んでいたはずの使用人はいつになっても紹介してもらえない。
随分と貴族社会から嫌われたものだ。
俺はそう思った。
しかしフォルテナと結婚後暫くすると使用人の紹介を受けた。
来週からはまた新しく使用人が追加されることだろう。
フォルテナと結婚後色々なことがスムーズに進むようになった。
伯爵家の長女と結婚したからか……と、はじめは少々腹立たしさもあったが……
もしかすると……?
『お前は妻専属の使用人になる前』
『手紙を出す係をしていたか?』
クロードはそうハーネットに問うた。
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