【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

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クロードはニッコニコだった。
庭で直接花束を渡せたからだ。
いつものように包装はできなかったけれど……

おまけに夕食も妻の好きな物ばかりを出してもらったしそれを嬉しそうに食べる妻が見られたクロードはいつもより更にニッコニコだった。

(フォルテナ殿と結婚してからいいことだらけだぞ)

メイソンが今日は執務を全部引き受けてくれたのでクロードはいつもより早く寝室に行くと今日の手帳を眺めた。
フォルテナの字がまるでクロードの字に寄り添っているように見える……
クロードはへらりと口元を緩めると(現実でも俺に寄り添ってくれないだろうか……)と思い首を振った。
(贅沢……贅沢……)


「旦那様!お待たせいたしました」
暫くするとフォルテナがこちらに駆け寄ってくるとクロードの隣に腰掛けた。少しだけベッドが揺れる。

かわいらしい……
クロードは思わずフォルテナを見つめた。フォルテナもまたクロードを見上げて「……旦那様?」と言ったのでクロードは堪らない気分になり思わずフォルテナを抱き寄せた。緊張で手が震える。
その時なんと彼女がそっと目を閉じたのでクロードは鼻がフガフガ鳴ってしまった。
ぷにゅ……と二人の唇が合わさる。
クロードはその柔らかさに興奮した。

フォルテナがクロードの手に手を重ねてきた。
股間が爆発してしまいそうな心地にクロードは思わずフォルテナを押し倒し、その柔らかい手に指を絡ませた。
クロードは興奮していた。
思わず口を開けて舌を差し入れるとフォルテナはそれを受け入れて尚且つクロードの舌を舐めた。
フォルテナの柔らかで小さな舌に舐められてクロードは……
堪らなくなった!!
鼻がいつも以上にフガフガとノイズを奏でている……
ああ、このままあなたの全てを俺のものにしてしまいたい。
クロードはフォルテナを欲望のまま押し倒し、何度も何度も彼女の中で精を放つ想像をした。

「ん……」フォルテナが漏らした吐息で我にかえる。
いかん……そんなことをしては嫌われてしまう……。

クロードは落ち着きを取り戻すとそっとフォルテナをベッドに押し倒したーー




次の日クロードはニッコニコだった。

昨日もとても仲睦まじく過ごせた気がしたからだ。
ニコニコと執務をこなすクロードに、メイソンは微笑ましく感じて「なにかいいことでも?」と尋ねた。
クロードはコクコクと頷くと頬杖をつきながら執務に取り掛かり始めた。
声が出るのなら鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。

今日も庭に誘ってみよう。クロードはそう思い早く執務をこなそうと集中することにした。


しかしその庭でーーーー



『妻は?』
「今はお庭に」
『俺も』「奥様はおひとりをお望みでございます」フォルテナを探し回っていると偶然庭で会ったハーネットにそう突っぱねられてクロードはガクリと肩を落とした。
手に持つ花束はせっかく包装してもらったのに……
直接……

そう思ったがクロードは頭を振った。

自分の欲ばかり優先しては……
フォルテナ殿はひとりがいいと言っている…、

『妻に渡してくれ』
クロードは渋々そう言うとハーネットが「わかりました」とそれを受け取った。



また別の日、愛しい愛しい妻に逢いに行くとクロードはどうしたら良いのかわからない状況に立たされた。

「あ……あの、これ……私なりに旦那様を想って刺繍しました。……あの、技術は未熟ですが……その……」
妻がそう言って差し出してきたのは蜘蛛の刺繍を施したハンカチだった。クロードはゴクリと息を呑む……

なぜよりによって蜘蛛なのだろう……

なぜならクロードの話せなくなった原因はこの蜘蛛だからだ。まさかピンポイントで蜘蛛を……『俺は蜘蛛が苦手で』クロードはそう手帳に書き、フォルテナに見せようと……したその時、
「……受け取っていただけると……その……」
フォルテナは少し寂しそうにそう言ったのでクロードは(妻を悲しませるなど!!)と手帳のページを捲り、ハンカチを受け取り『ありがとう。嬉しい』とお礼を言った。




(……蜘蛛のようか……)


執務に戻ったクロードはぼんやりと頬杖をついた。

『俺は蜘蛛のイメージ?』その質問に

「はい、そうです!」とフォルテナが元気よく返事をしたからだ。クロードはフォルテナはもしかしたら蜘蛛が好きで遠回しに俺のことを……と妄想をしたがあり得ないと一瞬でその妄想を取り下げた。
あまり深く考えると気味の悪い事態になりそうだったからだ。
クロードは忘れるためにとにかく書類にペンを走らせた。


クロードはふとペンを置き、薄目で妻から貰ったハンカチを眺めると内ポケットにしまった。何回か見ていれば慣れてくるかもしれない。



しかしーー



……なんてリアルなんだ……
クロードは妻の刺繍技法に苦しめられた。

……しかし、愛する妻から貰ったものだ……
大切にしたい。

クロードはそれを丁寧に折りたたむと再び胸ポケットに入れた。

……

…………

……愛するなんて……
愛するなんて重いだろうか?
へへへ…

クロードがニヤニヤしているとメイソンが話しかけてきた。

「旦那様、何かいいことがありましたか?」と聞かれて満面の笑みで頷く。
クロードはいつの間にか勃ち上がった陰茎に気付くと慌てて手で抑える。今まで童貞だったせいか少しでも妻を想うと堅くなる……こんなことがバレては呆れられてしまうぞ……クロードは執事にもバレないように猫背になった。



一方執事であるメイソンはーーーー

全て察した上で涙を流していた。
(ぼっちゃま……よかったですね……)

メイソンはクロードがまだ小さい頃からずっとこの屋敷で執事をしてきた。今はだいぶ年をとってしまったが、昔は今よりは若かったのでハーネットの母がいない間に保育という名目で一人ぼっち部屋にいるクロードとバレないようによく遊んであげたものだ。
「メイソン……俺はいつか屋敷を出てく。お前とは会えなくなるんだな」ある時中等部に上がったクロードが廊下でばったり会ったメイソンに言った。
ぼっちゃまと遊ばなくなってどれくらい経つだろうか……
メイソンは自分より目線が高くなったクロードを見てなんとも言えない気分になった。
いつでも帰ってきていいのですよ。とは自分の口からは言えなかったからだ。
「……はい」メイソンは曖昧に返答をした。
いつでもあなたのそばに心はありますよ。そう言いたかったが言って何になるのだ。とも思ったから……
クロードの悲しみは自分には癒せない。結局は自分はこちら側なのだ……とメイソンは思った。

まだ少し幼さの残るクロードは窓から差し込む日差しに照らされて爽やかに笑うと「……騎士になって名を上げたら……またここに来てもいいと言われるかもしれないから。俺、頑張るよ。そうしたらまた会えるよメイソン。……あまり長い時間ではないかもしれないけど」と言った。




その時、ぼっちゃまには自分の目が潤んでしまったのに気付かれてしまったのだろう。とメイソンは思った。年をとって涙腺が弱くなった……ーーーーー






そして十年後の今
メイソンは号泣していた。

よかった……よかったですね。

十年前よりも随分と逞しくなったクロードの大きな背中を眺めながらメイソンはただただ静かに涙を流した。
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