【R18】9番目の捨て駒姫

mokumoku

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「……おい」王がそう一言呟くと女性騎士が近寄ってきてお酒のおかわりを注いだ。「…座ってもいいぞ、大丈夫か?」王が彼女に労う言葉を掛けると女性騎士はゆっくり首を振り「大丈夫です」と凛とした声で答えた。

王はこの女性騎士と姉…どちらが好きだったのだろう。
どちらもかしら?
男性なんてそんなものよね…

私はぼんやりと二人のやり取りを眺めた。
その視線に気付かれてしまったのか王がこちらをちらりと見た。私が咄嗟にニコリと微笑むと凄い勢いで目をそらされてしまったのでこれは失敗だったわ…と私は反省するのでした。

こ、怖い… 






「……はぁ…」
食事が終わり、自室に戻った私が深ーいため息を吐いていると使用人が「マッサージをさせていただいてもよろしいでしょうか?」と私に聞いてくれた。

「あ…結構です」申し訳ないからいいわ…

私がそう告げると使用人は、ではハンドマッサージだけでも…と手に香油を垂らしてくれた。
「本日はお疲れ様でございました…長旅でございましたでしょうに、このような忙しない婚礼…」私の母程年齢差がありそうな使用人が少し声を詰まらせて言った。
その後「…大変失礼いたしました。過ぎた真似を…」と自分の発言を窘めた様子を見せたので「いいえ…温かい言葉に嬉しく思います」とゆったりした口調で言った。
優しい言葉が嬉しかった。

久しぶりにこんな温かい声を掛けられた。


母は元気だろうか…女の私を産んで
相手にされなくなってしまった…かわいそうな母。

母もまた、女である自分を全力で利用してのし上がってきた女性だ。男に媚び、気に入られていくうちに遂に王へ接近することが叶った。
冷静で優秀な王妃様と対にあるような純朴で天真爛漫な母は、舞踏会で会った王に猛アピールをかけたようだ。
王妃様に飽きてきていた王は豊満な身体を持つ母にその時は夢中になった。


「泥棒猫!!!」
王妃様にそう言われながら水を掛けられた時は閨事のチャンスだ。「大丈夫か…」話を聞きつけた王が部屋を訪問してくれるから。
「う…申し訳ございません。私が…王に夢中になったばかりに…」そんなときは誰も責めずに弱々しいふりをするのよ。と母は太った腹部をポリポリと掻きながら結婚する私にアドバイスをしてくれた。
かつて王に寵愛を受けた令嬢の姿はない…
「よろしくて?男なんてバカなんですからね?愛なんて求めてはなりません。彼らは一人の女性に対して最長3年しか愛を保つことができない生き物なのよ?最長3年よ!?」
私は目をギラギラさせた母の顔をぼんやり眺めながら紅茶に口をつけた。
「その間に必ず子を作りなさい!そうすれば、あなたの立場は揺るぎないものへとなりましょう。男児だとなおよし!」母は立ち上がると私の手をギュっと握った。
クリームパンみたいな手…

私がこれから立たされる苦境は母も存じ上げている。
母は苦しげに眉を寄せると「…死んでは終わりなのよ」と言った。
その時の私にはその言葉の意味がよくわからなかった。
私は王女なのだから国のために死ななければならないときもある。王女ではない母にはわからないのだ、と









「王妃様、初夜の支度を致しましょう」
「え?…はい…」…あるんだ…初夜。
私はなんとなくないのでは?と思っていた初夜があることに驚いた。私は廊下を案内されると広い浴場に通される。使用人たちにスルスルと服を脱がされて身一つになる。


広間程ある大きさの浴槽には湯が並々と溜められていて、このような量の湯をどうやって用意したのか…と私は目を見開いた。
まるで部屋中がお湯に満たされているようだ。

私の国では湯を用意するのは大変だった…少しずつ鍋で沸かして運ぶのだ。「我が国では地層から湯が湧き上がる場所がございまして」私の様子に心中を察してくれたのか使用人がそう教えてくれた。
なるほど…湯が湧き上がってくるのならこのようにたくさん用意できるわね。
私は身を清められて湯に入るように促されると私の腹部程の深さで少し温めの湯がこの国の暑さに適していて心地よい…私は等間隔に立ち並ぶ柱を眺めながら奥へと進む。
美しい彫刻が施された壁からは湯が絶え間なく流れていて私の感覚では贅沢なそれにそっと手を浸す。
「そちらの湯は飲むと身体の中から毒を出してくれると言われております」
湯浴み着を着て私に付いてくれている使用人がそっと教えてくれた。なるほど、毒をのまされたらこれをゴクゴク飲むとしましょう!私は手で湯を受けるとそっと口をつけた。
………変な味!

その時背後からバシャバシャと豪快な水をかく音がしたので私は振り返る。王が来たと思ったからだ。
この国は浴場で初夜を迎えるのか、と


そこには想像通り王が立っていて
彼はなんだか驚いたような顔をした後股間を手で隠し、「わーーーー!」と悲鳴を上げた。





え?なに?なんで?





「王様?どうなさいましたか…?」私がザプザプと湯をかいて王の元へと近付くとお湯から肩上だけを出した王は「や、や、やめろ!近づくな!」と言われたので命令に従い立ち止まる。
「……はい」
「む…胸を揺らすな!」
「あ、はい」
私はそう言われたので胸を手で押さえた。
揺らすつもりがなくても揺れてしまうからだ。
「や…柔らかそうな感じを強調するな!!」
「え?は、はい…」
「グニュっとするな…く…くそ!!うぅ…!」王様はうめき声を上げると物凄い勢いで浴場から出て行った。
私も使用人もそれをポカンと眺めるしかできず無言になった私達の後ろでは豊かに湧いた湯がジャバジャバと水音を立てた。



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