【R18】9番目の捨て駒姫

mokumoku

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「うわぁ…たくさん人がいるんですね。もう夕方なのに…」
「ほら、ティ…ティシュアはぐれてしまうから…手、手を」王様は私に手を差し出した。
私はそれをそっと握る。

「はい、アインス様」
「ほら、あっちが入口だ」王様は私の手をギュッと握るとゆっくりと入口に向かい歩き出す。
「お前は何もせずとも良いから…黙ってついてこれば」王様に私の緊張が伝わったのかそう小さな声で言われた。
私はまさにどうしたら良いのかわからず胸がドキドキしてしまっていたのでホッと安堵の息を吐く。

大きな扉が壁一面に何枚も並んでいる。
私がどこから入ればいいのかしら…!と思っているとドアマンがその一つを美しく流れるような動作で開けてくれた。
王様がそこをくぐるので私もいそいそと着いていく。

中は木製の床、木製の壁、木製の天井と全てが木で統一されていてオレンジ色の灯りが優しく中を照らす。
…劇場なんて初めてだわ。
王様と一緒でなければ…右も左もわからなかった…
入口の直ぐ側には受付ゲートがあってその中にいる人にチケットを渡す。パチリと穴が開けられてまたそれは王様の手元に戻ってきた。
「外に出る時に必要なんだ」
私の視線を感じたのか王様がそう言った。
「そうなんですね」王様は胸ポケットにチケットをしまうと中央階段を進む。これもまた木製で艷やかな表面に彫られた模様が美しい。
階段には一段一段絨毯が敷き詰められていて
私はそれを踏みしめる。
落ち着いた木の色合いに臙脂色が溶け込んでいてまるで元から対であったかのようだ。




階段を上がるとまたしても扉があって、少し重たそうなそれを王様が開ける。私は先に入るよう手で促されて扉を潜るとすぐそこに二人掛けのソファが見えた。
両サイドには小さなテーブルがあり、既に軽食と飲み物が並べてある。
「わあ…バルコニーみたいですね」
私がソファの前に立つと眼の前には今まで見たこともない位に大きなカーテンがある。私は思わずバルコニーの縁に手をついて下を見下ろした。カーテンの前には小さな椅子が等間隔にたくさん並んでそれはチェスのボードのようだ。
「わあ…」
後ろからシャ…と小気味よい音がしたので振り返ると王様が扉の前にあるカーテンを閉めてくれている。「落ちないように気をつけろよ」王様は少し慌てたように私の側まで来るとソファに座らせた。
「凄く高い席ですね」
「…ああ、大衆席というわけには流石にいかんからな…」王様は瓶の栓を抜くと二つのコップそれぞれに中身を注いでいる。

「お酒でございますか?」
「ああ、弱いのにしてもらったから…」
私はそれを受け取ると口をつけた。

「甘い…」おいしいわ。
「……そうか」

王様はソファにもたれると足を広げてぐいっとそれを一気に飲み干した。「………本当だ。甘いな。……なんて甘いんだ」
私はなんだかその言葉が寂しげに聞こえたので俯く。

王様…なんだかいつもと様子が違う…
何かあったのかしら…

私はどうしたら良いのかわからなくてテーブルにのったプレートの上からチーズをピンで刺し王様の口元へ運ぶ。
「お酒を注いでくださったので…お返しです。ふふ」



「…そうか…」
王様は私の肩を抱くと口を開けたので私はそこにチーズを寄せた。「どうぞ?」「ああ」
王様はそれを口に含むと別の瓶からお酒を自分のコップに注いでいる。
「それは?」
「これは…度数が高いから………俺用だ」そう言って一気に飲み干した後私にそっとキスをした。
「………苦い」
「俺には苦い位がちょうどいいんだ…何もかも」
「ん…」
王様はそう呟くと舌を差し込んでくる。
苦かった舌先が私の唾液と合わさって甘くとろけるような心地になった。王様の吐く息で…私も酔ってしまいそう。

鎮静剤を持ってくればよかった…さっき服んできたのに…全く効いている気がしない…
でも…お酒と相性が悪いかしら…?お酒と服まないほうがいい?
だから効果が切れてしまったの?







王様は私の腰を強く抱くと硬くなった男性器を押し付けてくる。
私は鎮静剤を飲んでいるのにも関わらず性的興奮を感じて陰部がギューッと切なくなって混乱する。
変なの…
鎮静剤が効いてない…


私たちが離れると舌先同士が糸で繋がった。
それは淡いオレンジ色の下でキラリと輝く。



「ティシュア…」
「アインス様…もう一度…」
「わ、わかった…もう一度…もう一度な…」王様は私が寄せた唇にもう一度吸い付くと舌を差し込んでくる。
甘く蕩けそうな心地なのは…お酒のせいかしら…

王様に包まれて私は見えなくなってしまったのではないかしら。大切なものに触れるような優しい手付きで王様は私の頬に触れた。「ティシュア…」私も手をのばすと王様に触れた。

大きくて…

うっすらとある頬にかすめたような傷跡をなぞる。
「気になるか」
「……戦った跡です」あなたが国を護るために戦った跡だ。「気になります…あなたの勲章だから」「俺のこの傷を…勲章と呼ぶか…ははは」王様は目を伏せると笑った。

「勲章だわ。あなたが命を掛けて護ったものへの」
私は少し寂しそうにしている王様がなんだか愛しく感じてそっと抱きついた。彼は私の背に回していた手に力を込める。

「あなたは戦って取り戻した。傷だらけになって」
「ティシュア…」
「誇りに思います。私の夫は…素敵な人だわ」



私は王様に抱きつくとキスをした。
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