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「アインス貴様!!どういうことだ!!」
セドリックがそう大声を上げると腰にさしていた剣をスルリと抜いた。
「キャー!セドリック!?」
「姫様は私の後ろへ下がってください」
セドリックは私の前に立つとその背に私を庇ってくれた。
「セドリック…ここで剣を抜くというのはどういう意味があるかわかっているのか?」王様はこちらを見るとセドリックにそう言った。
「当たり前だ。俺はもう姫様の護衛ではないが一度は忠誠を誓った身…姫様を害そうとする者は例えお前でも許さん」「セドリック…」私は感動で目を潤ませてしまう…
私の側にはもういてくれないと思っていたけれど…
あなたはそんなにも私を思っていてくれたのね…
「なに!?なぜ俺が王妃を害する必要があるのだ?陰謀論か?止めろ…お、俺は…王妃をどんな危険からも守ろうと…思っているというのに…」
「「え?」」
「王妃がお前と会った時…嬉しそうだったからな。だからこうして会わせているのだ。………もう良い、俺は」
王様はそう言うとポカンと口を開けたまま動かなくなったセドリックの横をすり抜けて私の前に膝をついた。
「王妃、お前がセドリックに会いたくなったらいつでも呼んでやるから言え。流石にお前の護衛に戻すことはできんが…いつでも会いたい時に会えばいい」
「……王様?」
「お前が欲しいものをやる。なんでも言え、宝石だって…服だって…俺は…」
「…私…宝石などは…」いらないわ。
王様は私の顔を一瞬だけ見つめると目を反らし「……今日はすまんな。もうそろそろ時間だ。出発の準備をしてくれ」と王様は言ってセドリックと部屋を出て行った。
「王妃様、今日も美しいです」グレースが私に口紅を引き終わるとほぅ…とため息をついた。「え?ふふ…そう?嬉しいわ」確かにグレースの手法によっていつもよりはキレイだ。
「でも…王様のお隣にいても大丈夫かしら…」
まだお披露目されてないとは言え…王様も変装はされるのでしょうけれど…あのように立派な方と私釣り合いがとれるのかしら?
「王妃様?」
「あ…ううん、なんでもないの。鎮静剤を飲んで行こうかな…」まあ、劇場は暗いようだし…大丈夫…大丈夫…
はぁ…王様に殺意がないことはわかったけど…これはこれで緊張しちゃう…
「王妃様、王様がいらっしゃいました」
「あ、はい。今行きます」
王様は扉の隙間からそっとこちらを覗くと「……準備できているか?」と小さな声で言う。「ふふ…はい、準備できました」私は差し出された肘に手を掛ける。
王様は身体を大きく傾けて私がつま先立ちにならないように気を使ってくれているようだ…
申し訳ない…
「あ、あの…歩き辛くありませんか?私…エスコートは大丈夫でございます」私はそっと王様の肘から手を離す。
「いや、歩き辛くはないが…そ、そうか…」
「…はい…」
私達は無言で廊下を進む。
ああ…鎮静剤を飲まなければよかった…
私はこの高級な絨毯のせいで靴音が吸収されてしまうことすらなんだか憎々しげに思った。
背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見て歩く王様の姿を斜め後ろ辺りから私はそっと盗み見た。
「………」
「だ、大丈夫か?………段差があるから」
大きな扉をくぐり外へ出ると階段の前で王様が手を差し伸べてくる。「あ、ありがとうございます」私はそれにそっと手を乗せると階段をゆっくりと下りた。
王様は私が一歩一歩踏み出すのを確認するかのように彼もまたゆっくりと階段を下りている。
夕焼けがこの白を基調に作られた階段を美しく照らす。
「……キレイ……」
「…そうだな……」
私が顔を上げると王様と目が合った。
「……キレイですよね。ほら…地面が真っ赤になって…」私は王様の顔を見てにこりと微笑んだ。王様も私の背後の地面に映る夕焼けを見ているのだろう。顔が真っ赤に染まっている。
そこに私たちの影が延びている。
王様は影もとても大きい。
「ふふ…」
私は影が重なるように少し横にズレる。
私の影は王様の影にすっかり隠れてしまった。
「どうした?」
「ふふ…見てください。王様は影も大きいので…私の影はなくなってしまいました」真っ赤な地面に一つだけ大きな影が延びている。二人いるのに不思議…
「はは…ほ、本当だな。…お前は小さいから。こんなデカイ男の横では隠れてしまうな」王様は私の手を握る手に力を込めると「…行くか」と足を進めた。
「ほら、そっち側に座れ。クッションを用意してもらったから…痛くないか?」王宮の馬車は座面が柔らかくちっとも痛くない。
クッションを背もたれにすると快適な座り心地になりまるで自室のソファで寛いでいる気分になる。
「痛くありません」
王様は向かいの席に足を広げて座ると「そ、そうか…」と腕を組んだ。
私は窓の外をしばらく眺めると前を向き「あの…私…勘違いを…すいませんでした」と王様に謝罪した。
王様は私のことを害する気持ちなんかなかったのに…
物凄く疑って怯えて…避けていたわ。
「…うん?な、なんだ?」
「あの…私王様が私を疎ましく思っているのかと…いつか処刑されてしまうと思っておりました」私はなんだか王様の顔を見ることができなくて俯いた。
今思うと勘違いしていた自分が滑稽に感じたからだ。
「態度がおかしかったと思います。申し訳ありませんでした」
「……気にするな。……俺が悪いのだ………すまんかったな…そんな思いをさせているとは…悪かった」
王様はポツリとそう言うとそれきり黙ってしまった。
私は「そんなことはない」と言おうと口を開こうとしたけれど…この話題はあまり引きずってはいけないような気がしてその言葉を飲み込んだ。
座り心地のよい座席からはあまり馬車の揺れは感じなくてそれもまた…今の私には辛く、ただただ窓の外を見た。
セドリックがそう大声を上げると腰にさしていた剣をスルリと抜いた。
「キャー!セドリック!?」
「姫様は私の後ろへ下がってください」
セドリックは私の前に立つとその背に私を庇ってくれた。
「セドリック…ここで剣を抜くというのはどういう意味があるかわかっているのか?」王様はこちらを見るとセドリックにそう言った。
「当たり前だ。俺はもう姫様の護衛ではないが一度は忠誠を誓った身…姫様を害そうとする者は例えお前でも許さん」「セドリック…」私は感動で目を潤ませてしまう…
私の側にはもういてくれないと思っていたけれど…
あなたはそんなにも私を思っていてくれたのね…
「なに!?なぜ俺が王妃を害する必要があるのだ?陰謀論か?止めろ…お、俺は…王妃をどんな危険からも守ろうと…思っているというのに…」
「「え?」」
「王妃がお前と会った時…嬉しそうだったからな。だからこうして会わせているのだ。………もう良い、俺は」
王様はそう言うとポカンと口を開けたまま動かなくなったセドリックの横をすり抜けて私の前に膝をついた。
「王妃、お前がセドリックに会いたくなったらいつでも呼んでやるから言え。流石にお前の護衛に戻すことはできんが…いつでも会いたい時に会えばいい」
「……王様?」
「お前が欲しいものをやる。なんでも言え、宝石だって…服だって…俺は…」
「…私…宝石などは…」いらないわ。
王様は私の顔を一瞬だけ見つめると目を反らし「……今日はすまんな。もうそろそろ時間だ。出発の準備をしてくれ」と王様は言ってセドリックと部屋を出て行った。
「王妃様、今日も美しいです」グレースが私に口紅を引き終わるとほぅ…とため息をついた。「え?ふふ…そう?嬉しいわ」確かにグレースの手法によっていつもよりはキレイだ。
「でも…王様のお隣にいても大丈夫かしら…」
まだお披露目されてないとは言え…王様も変装はされるのでしょうけれど…あのように立派な方と私釣り合いがとれるのかしら?
「王妃様?」
「あ…ううん、なんでもないの。鎮静剤を飲んで行こうかな…」まあ、劇場は暗いようだし…大丈夫…大丈夫…
はぁ…王様に殺意がないことはわかったけど…これはこれで緊張しちゃう…
「王妃様、王様がいらっしゃいました」
「あ、はい。今行きます」
王様は扉の隙間からそっとこちらを覗くと「……準備できているか?」と小さな声で言う。「ふふ…はい、準備できました」私は差し出された肘に手を掛ける。
王様は身体を大きく傾けて私がつま先立ちにならないように気を使ってくれているようだ…
申し訳ない…
「あ、あの…歩き辛くありませんか?私…エスコートは大丈夫でございます」私はそっと王様の肘から手を離す。
「いや、歩き辛くはないが…そ、そうか…」
「…はい…」
私達は無言で廊下を進む。
ああ…鎮静剤を飲まなければよかった…
私はこの高級な絨毯のせいで靴音が吸収されてしまうことすらなんだか憎々しげに思った。
背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見て歩く王様の姿を斜め後ろ辺りから私はそっと盗み見た。
「………」
「だ、大丈夫か?………段差があるから」
大きな扉をくぐり外へ出ると階段の前で王様が手を差し伸べてくる。「あ、ありがとうございます」私はそれにそっと手を乗せると階段をゆっくりと下りた。
王様は私が一歩一歩踏み出すのを確認するかのように彼もまたゆっくりと階段を下りている。
夕焼けがこの白を基調に作られた階段を美しく照らす。
「……キレイ……」
「…そうだな……」
私が顔を上げると王様と目が合った。
「……キレイですよね。ほら…地面が真っ赤になって…」私は王様の顔を見てにこりと微笑んだ。王様も私の背後の地面に映る夕焼けを見ているのだろう。顔が真っ赤に染まっている。
そこに私たちの影が延びている。
王様は影もとても大きい。
「ふふ…」
私は影が重なるように少し横にズレる。
私の影は王様の影にすっかり隠れてしまった。
「どうした?」
「ふふ…見てください。王様は影も大きいので…私の影はなくなってしまいました」真っ赤な地面に一つだけ大きな影が延びている。二人いるのに不思議…
「はは…ほ、本当だな。…お前は小さいから。こんなデカイ男の横では隠れてしまうな」王様は私の手を握る手に力を込めると「…行くか」と足を進めた。
「ほら、そっち側に座れ。クッションを用意してもらったから…痛くないか?」王宮の馬車は座面が柔らかくちっとも痛くない。
クッションを背もたれにすると快適な座り心地になりまるで自室のソファで寛いでいる気分になる。
「痛くありません」
王様は向かいの席に足を広げて座ると「そ、そうか…」と腕を組んだ。
私は窓の外をしばらく眺めると前を向き「あの…私…勘違いを…すいませんでした」と王様に謝罪した。
王様は私のことを害する気持ちなんかなかったのに…
物凄く疑って怯えて…避けていたわ。
「…うん?な、なんだ?」
「あの…私王様が私を疎ましく思っているのかと…いつか処刑されてしまうと思っておりました」私はなんだか王様の顔を見ることができなくて俯いた。
今思うと勘違いしていた自分が滑稽に感じたからだ。
「態度がおかしかったと思います。申し訳ありませんでした」
「……気にするな。……俺が悪いのだ………すまんかったな…そんな思いをさせているとは…悪かった」
王様はポツリとそう言うとそれきり黙ってしまった。
私は「そんなことはない」と言おうと口を開こうとしたけれど…この話題はあまり引きずってはいけないような気がしてその言葉を飲み込んだ。
座り心地のよい座席からはあまり馬車の揺れは感じなくてそれもまた…今の私には辛く、ただただ窓の外を見た。
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