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第三章 死霊都市レムレース
3-15 久々の登校
しおりを挟む二か月ぶりの登校だ。
学校の皆は元気だろうか?とレヴィンはしみじみと思った。
この二か月は本当にあっと言う間であった。
エクス公国への護衛任務に始まり、『南斗旅団』との戦闘があって、旅団を壊滅させ、莫大な報酬と名誉貴族の称号を得た。
迷宮創士に会った後、カルマに戻り、魔の森でレベリング、王都に戻ると、貴族に叙爵されカルマの東を領土として拝領した。
パーティメンバーとの絆がぐっと強まったような気がする。
アリシアと一緒に歩きながら、頭の中で夏休みの事を振り返っていると、彼女が話しかけてくる。
「レヴィン……昨日、貴族になったんだね……何だか遠くに行っちゃったような気がするよ」
「何言ってんだ。当分、何も変わらないぞ? それに貴族になっても俺はレヴィンだ。それが変わる事はない」
アリシアはホッとしたような表情を見せて「解った」と言うと少しはにかんだ。
やがて学校に着くと、アリシアと別れてSクラスへと足を踏み入れる。
教室はざわざわとしていて、とても騒々しい。
レヴィンは、後ろの席のロイドに挨拶すると、席につく。
しばらくロイドととりとめのない会話を楽しむ。
彼は王都で文官をしている男爵の長男である。封土を持つ貴族ではないので、他の街に行く事もなくずっと王都にいたそうだ。
やがてホームルームの鐘がなる。
担任のエドワードが入ってくると、久しぶりの号令をかける。
全員がこうして欠ける事なく集まったことを喜んでいるようだ。
今日の予定は始業式のみである。
大式典場へ全校生徒が集まると始業式が始まった。
国旗掲揚、国歌斉唱、校長の式辞と式が進行していく。
校長の式辞では、レヴィンが貴族になったことが告げられ、館内は大いに湧いた。何もこんな場で発表しなくても……と頭を抱えるレヴィンであった。
式もつつがなく終わり、教室に戻ってくると、クラスメイトから質問攻めにあった。貴族になった事だけでなく、エクス公国での『南斗旅団』壊滅についても色々聞かれた。王都でも朝刊で大々的に報道されていたらしく多くの者が知っていたようだ。エドワードからも葉っぱをかけられた。
「お前なら良い貴族になれるだろうよ。まぁ頑張れよ」
放課後になってもレヴィンの周囲から人はいなくならなかった。
特に女子の目には、英雄の誕生に映ったらしく、レヴィンはきゃあきゃあ言われたり、お茶会に誘われたりと大変な目にあったのである。
結局、ベネディクトの助け舟もあって、午後からマッカーシー家でクラスの面々とお茶会をする事になってしまったレヴィンであった。
クラスメイトの多くが参加するので、ベネディクトも急な準備で大変である。
参加するのは貴族だけでなく平民もである。平民はお茶会など初めての者も多く、馬車で貴族の面々に迎えに来てもらう運びとなった。
ベネディクトには頭の上がらないレヴィンである。
色々取り決めて解散となった。レヴィン邸にもベネディクトが迎えに来てくれるようだ。
ついでにアリシアとシーンも参加する事になった。
ちなみに彼女達も『南斗旅団』を壊滅させたパーティのメンバーだと知られていたので、今日は大変だったようだ。
「あたしは初めてのお茶会だよ~」
「私も……」
二人ともクラスでお茶会に誘われた事はあったものの、実際に参加するのは今回が初めてのようだ。
「まぁ美味しいもんを食べられるからラッキー程度に思っておけばいいよ。今後の予行演習にもなるしね」
「それにしても貴族になったなんて……これからどうなるの……」
珍しく長文をしゃべるシーン。
「変わることなんてないよ。心配しないでいい」
「ん……」
今朝のアリシアと同じ心配をする辺り、気の合う仲間なんだなと思うレヴィンであった。
帰宅してもやる事がない。暇である。
ベッドに寝かせられているリリスにちょっかいを出しているとリリナに怒られた。やることがないので、ベッドに横になっていたらいつの間にか眠っていたようだ。目が覚めるとお昼だったので、簡単に昼食を済ませる。
もうじき迎えが来るはずだ。外にでてぼーっとしていると馬車がこちらに向かってくるのが見えた。こんなところに来る馬車は一台しかいない。御者に手を振って挨拶すると、家の前で馬車は停車する。ベネディクトが降りてきたので、アリシアの家の扉をノックし呼び出すと一緒に馬車に乗る。
次にシーンを拾って貴族街へと向かう。
貴族街の街並みを見て、ここにも邸宅を建てなきゃいけないのかなと、心配になるレヴィン。
今後の開拓村のこともあるし、支度金や税金のこともある。
何も知らないレヴィンは、またマッカーシー家にお世話になるのかと申し訳ない気持ちになった。
色々考え事をしていると、マッカーシー家に到着したようだ。
邸宅へお邪魔すると、執事のアルフレッドが、何人か既に到着している旨をベネディクトに報告している。
庭先に通されると、そこにはテーブルと椅子がかなりの数揃えられていた。
今日は良い天気だったので、ここで行うようだ。
近くにいたベネディクトに声をかける。
「ベネディクト、急にこんなお茶会を仕切ることになって、大変だったろ? 本当にすまないな」
「別に気にする事はないさ。僕も『南斗旅団』の件で色々聞かれたし、必要なお茶会だったと思うよ」
すると、ごきげんようと言う声がかかる。
先に通されていたクラスメイト達である。
ホストであるベネディクトに挨拶しに来たようだ。
暇なのでアリシアとシーンと話していると、続々と参加者が集まってくる。
中にはロイドやモーガンの姿も見える。
レヴィンはロイド達に手を振ると、彼等もようやく気づいたのか駆け寄ってくる。
人が多すぎて気づかなかったようだ。
「それにしてもすごい人数だね」
「流石はベネディクトだよ。急なお茶会で、しかもこの人数を仕切るんだから」
まぁすごいのは、ベネディクト個人と言うより、マッカーシー家なのだろうが。
すると、ベネディクトが何やら挨拶の言葉を話し始めた。
どうやら開始時間の十四時になったようだ。
ベネディクトの話が終わると、アルフレッドやメイド達がお茶やお菓子を持って現れる。
かなりの人数を動員しているようだ。
それぞれお茶を片手に優雅に会話を楽しんでいる。
レヴィンの元にも多くの人が詰めかける。
特に女子の数が多いようだ。
レヴィンの武勇伝を聞きたがっているのだろう。
レヴィンは嫌味にならない程度に淡々と事実のみを伝えた。
女子は、端的なレヴィンの言葉の行間を勝手に妄想で埋めると、盛り上がってきゃあきゃあと騒いでいる。
色々と自分を売り込むのにも一生懸命だ。
レヴィンもせっかくのクラスメイトなのだから、と仲良くする事にやぶさかではない。初めて話しをする者も多く、周囲の皆にできるだけ公平に話ができるよう頑張っていた。
そこへ見覚えのある一人の少女が姿を現した。
ベネディクトの妹、クラリスである。
彼女は年上だらけのこの場にも物おじせず、レヴィンのそばによると話しかけてくる。
「レヴィン様、お久しゅうございますわ。ご活躍はお聞きしております」
「クラリス、久しぶりだね。元気だった?」
「はい。お陰さまで……わたくしもレヴィン様と一緒に戦いたかったですわ」
「確か職業は騎士だったよね? 鍛錬はしているの?」
「もちろんですわ。いつかわたくしも冒険者になって世界を旅してみたいですわ」
そこへ、他の女子から横やりが入る。
レヴィンはできるだけ無視のような事にならないように頑張っていた。
彼へかけられた言葉を逃さないように必死である。
余裕がないレヴィンなのであった。
クラリスは、女子達からの攻勢にタジタジのレヴィンを心配していた。
会話の主導権が取られたからと言って、その場から離れる事はしない。
彼女は以前からベネディクトに散々レヴィンの話を聞かされ、その憧憬と尊敬の念は天を突かんばかりであった。
であるので、実際に出会った時から好感度はMAXであったのだ。
レヴィンはエリンと言う平民の少女と話をしていた。
少し大人し目だが、表情豊かな女子である。
「本当にすごいです。手配中の盗賊まで倒してしまわれたんでしょう?」
「うん。まぁ運が良かった感じかな? それに皆のフォローがなければ、倒せていなかったよ」
「皆さん魔物相手だけでなく人相手でも、怖くなかったのでしょうか? 私なら震えて戦う事もできなかったと思います……」
エリンは口元を押さえて恐ろしい想像をしているようだ。
顔が強張っている。
「怖かったと思うよ。でも民を虐げる野盗だから勇気を奮い立たせたんじゃないかな? エリンさんは冒険者登録はしてないの?」
「私はしがない呉服屋の長女ですから……危険だと言われて、登録させてもらえないんです」
「でも魔法中学に通わせてるって事は親御さんも魔導士として頑張ってほしい気持ちもあるんじゃないかな? 多分葛藤されてるんじゃない? せっかく時魔導士なのにもったいないよね」
時魔導士は、黒魔導士Lv2で職業変更可能な職業ではあるが、生まれついての時魔導士の数はそれほど多くないと聞いた事がある。
「学校でも私と話して頂けますか?」
「もちろん。友達だから当然だよ」
エリンは、心にキュンときたようで、感激の表情をつくり満面の笑顔になった。
すると、綺麗なドレスを身に纏った少女が会話に入ってくる。
金髪をロール気味にした、いかにも貴族令嬢といった感じの少女である。
「もう、レヴィン様ったら、その子とばかりお話して……わたくしともお話して頂きたいですわ」
そう言う彼女に、レヴィンは頭を高速回転させ始める。
(誰だったっけ誰だったっけ誰だったっけ)
「もちろん。クラスメイトなんだから当然だよ」
「まぁ、わたくしは、レヴィン様と友達以上になりたいですわ」
何言いだすんだこいつと思いつつ、名前を思い出す事に必死なレヴィンである。
「あ、ありがと。それに様なんてつけなくてもいいですよ? 呼び捨てで結構」
「解りましたわ。ではレヴィン、あなた今付き合っている方はいらっしゃいますの?」
どうやら肉食系女子のようだ。ぐいぐいくる。
「いや、そう言う人はいないけど」
「でしたら、この不肖、ジャスティーナと是非お付き合いしてくださいませんこと?」
名前が解ってとりあえずホッとするレヴィン。
「そ、そうだね。でも僕も貴族になったばかりで、これからもっと精進していかなければならないし、忙しくもなると思う。そう言うのはちょっと早いかな」
「まぁ、爵位の事をおっしゃっていますの? わたくしは子爵家令嬢ですから何も気にする事はございませんわ!」
やんわりと断った程度では、全く動じる様子はない。たくましい女子である。
すると、そこへクラリスが口を挟む。
「レヴィン様は、断っていらっしゃるんですのよ? お分かりにならないのかしら?」
「あら? そう言うあなたはどなたかしら? ここにお子様の居場所はなくってよ?」
「わたくしは、ベネディクト兄様の妹のクラリスと申しますわ。レヴィン様とは親しくさせて頂いておりますの」
何か、バチバチと見えない火花が散っているような気がして、レヴィンは後ずさる。
その場から逃げだすと、たまたま近くにいたロイドとモーガンの下へと流れ着く。
「大変そうだね。お疲れ様」
その言葉に癒されるレヴィン。
とりあえず心が少し癒されたので、今後は体を癒そうと甘いお菓子に手を伸ばす。
「貴族って大変なんだな。今後もこんな事が増えるのかと思うとぞっとするよ」
「そう言えば、こういう場に必ず顔をみせるイシュタルが来ていないね。珍しい事もあるもんだ」
おそらく彼は、手柄を上げたレヴィンの事が気に食わないのだろう。
しかも、護衛依頼を断ったせいで英雄になり損ねたのだ。
「まぁ彼は気まぐれだしな」
モーガンもあまり良い印象を抱いていないようだ。
オレンジ色の憎い奴なのかも知れない。
レヴィンは話題を変えて何か変わった情報はないか尋ねてみた。
「二人共、夏休みはどうだったんだ? 変わったこととかないん?」
「僕は朝に話した通りだよ。モーガンはどうだい?」
「俺は、噂を聞いた程度だがね。王国はどこかに出兵するんじゃないかって話がある」
「出兵? インペリア王国への援軍とかかな?」
ロイドが予想を口にする。
インペリア王国は、ブルージュ山地でアイオロス王国に敗れると、一時占領したゲルニード地方を奪還され、戦線は膠着状態に陥っているのだ。
「その可能性は高いかも知れないな。同盟国として参戦するのかも……」
モーガンもその可能性を肯定する。
「へぇ……北の帝國とかへの備えは十分なのかね?」
アウステリア王国は北のヴァール帝國と争っていると聞く。
「どうだろうな。そこまでは解らないが、ヴァールハイト辺境伯がいるから大丈夫なんじゃないか?」
「イシュタルの親父さんか」
確かにヴァールハイトの騎士団は精強らしい。
「他に何かある?」
「これは、親父が言ってたんだが、最近、国王の側近に預言者を名乗る者が取り立てられたそうだ」
(預言者? 職業の預言士とは関係あるのかな?)
「預言者って言うからには何か預言できるのかな?」
ロイドも興味があるようだ。
「神託みたいなのができるのかもね。いつも茶色のローブのフードを被っていて銀色の長い髪が少しのぞいているくらいしか特徴がないらしい」
「普通に怪しいな」
レヴィンもロイドも思わず笑ってしまった。
その後もとりとめのない話をしていたのだが、再び、ジャスティーナやクラリス、貴族の女子に見つかって追い回されるハメになるレヴィンであった。
そんなこんなでお茶会はお開きとなった。
てんやわんやのお茶会だったが、レヴィンには楽しいと思えるものだった。
来た時と同じように、貴族の馬車が平民の生徒を送って行くようだ。
何台もの馬車がマッカーシー邸から出て行った。
レヴィン達もベネディクトに送ってもらう事になっている。
行きと違うのは帰りの馬車にクラリスも乗り込んできた事くらいだろうか。
シーンの家を経由し、レヴィンの家の前に到着する馬車。
レヴィンとアリシアは、お礼を言って馬車から降りる。
去って行く馬車の窓からクラリスが身を乗り出して、ずっと手を振っていた。
それを見送ってから、家に入るレヴィンであった。
明日から授業再開である。
また、新しい魔法を覚えるぞ!と張り切るレヴィンであった。
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