大道探偵事務所

飛鳥弥生

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『大道探偵事務所 参』

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 近年、国内各地は、横行して止まない詐欺、衝動的な傷害事件の多発などの蔓延により、確実に崩壊に向かっていた。
 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。
 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。
 その名は……ダイドー少尉! 一介の探偵にして、弱者の救世主である!

 駅前商店街の雑居ビル二階にある「大道探偵事務所」室内は、主であるダイドー少尉と、旧友の鳩羽美咲{はとばみさき}の二人きりだった。依頼者もなければ、それを告げるチャイムや電話のコール音もなく、外と同じく寒々しい。
「はっ! ここは! ……むぅ、我が事務所であるな。らしくもなく、いつのまにやら眠っていたか。日々の激務がたたったかのう?」
 室内を見渡すと、ソファでふんぞりかえって雑誌を読んでいる鳩羽美咲と目が合った。
「やっとお目覚めかよ。あ、いちおう謝っとく、スマン。でさ――」
 何に対して謝っているのかを説明することなく、美咲は続ける。
「――探偵とかいっても実際はヒマなんだろ? だからちょいと狩りに付き合え」
 黄色いポーチからモバイルゲーム機を持ち出して、返事も聞かずに電源を入れる。
「ふおっ! 鳩羽美咲! ゲームは依存性の高い薬のようなものであり毒であり、娯楽と称した企業からの洗脳である! そんなものに時間を割くくらいならば、禅寺で瞑想にふけって迷走する人生を問い直すがよい!」
「ゲーマーでゲーム系ライターのあたしがゲームやんのは、半分は仕事ですよーだ! 毒でも洗脳でも脳内ハッピーなら大いに結構じゃん。つまんねー日常からヴァーチャルに逃避して人生を浪費すんのが市民の義務なんだよ。ほら、さっさと準備しろ。それともアレか? 自分がヘタで狩りの足手まといになって醜態さらすのが怖いか? ケケケ!」
「ほぁっ! 刹那的達観から一転して挑発とは! 貴様は我輩がPC世界に精通した電子戦術士官さながらの猛者{もさ}であることを失念しておるな! たかがゲーム! 我輩の奥義にかかれば狩りなど朝飯前の昼食後であるからして、華麗なる立ち居振る舞いに驚愕するがいい!」
 長科白を締めくくり、ダイドー少尉は鳩羽美咲と共にモンスターの狩場である草原に出た。
「あたしさ、片手剣から双剣に転向したのよ。新しい武器も作ったし、ちょいと飛竜でも試し切りに……って、テメーはなんでまだ裸なんだよ! 防具はどうした防具は! インナーだけでゴツいランスって、どんなだよ?」
「はーっははは! だから貴様は鳩羽美咲で甘いのだ! 攻撃こそ最大の防御であり、防具とは慢心を生む根源である! 敵の攻撃はかわす! もしくは盾で跳ね返す! 我輩に防具など不要でありランスは漢{おとこ}のロマンである! さあ行くぞ! 我輩の背を見て真の闘いを知るが良い!」
 インナーに重量級ランスを背負った「Dydo」が、討伐ギルド正装+双剣の「Misaki」の先を走り、森の茂みに潜む飛竜へと近付くと、咆哮が響いた。
「おっと、これは大物! こっちは足元狙ってダウンさせるから、好きなようにザクザクやっておくれぃ」
「はぁぁぁーっ! 内臓をえぐる必殺の一撃ぃ! む? 心臓を狙ったのにまだ動くか! ちぃっ! ガーガーとやかましい! ふおっ! 身動きがとれぬぞ! どうした我輩! 爬虫類めが! 体当たりなど盾で、ぬおっ! まだ身動きがとれぬ! 立てよ我輩! 今こそ真の能力を発揮する瞬間であり、ぐはっ! 先々代の顔が脳裏をよぎる。これが走馬灯か!」
「いやいやいや! 即死してんじゃねーよ! っつーか、うるせー!」
 美咲はモバイルゲーム機を片手に「Misaki」を器用に動き回らせつつ、もう一方で雑誌「クラシックバイカーズ」でダイドー少尉の頭をバン! と叩いた。その拍子に「Dydo」がまた倒れた。
「おのれ鳩羽美咲! 貴様が邪魔をするから我輩の分身が火だるまではないか!」
「だから即死すんな! っつーか、せめて一太刀くらい入れろ! 狩りに来て狩られてどうすんだ、この阿呆が!」
 華麗に双剣を振り回す「Misaki」の横、かなり離れた位置で「Dydo」が槍を空に向かって突き上げていた。
「見よ! この鋭利にして輝かしきランスを! これぞ武器! ウェポン・オブ・ウェポンである! そしてこの盾! 重厚にして鉄壁! 攻防を兼ね備えたこの装備こそ無敵の証! さあ爬虫類! かかってこい! む? どこに消えた? 恐れをなして逃げたか?」
「テメーの真後ろだよ! 何、見失ってんだ? って、そこで死ぬかぁー!!」
 美咲の絶叫で狩りの時間は終わった。大きな溜息は双剣使い「Misaki」と鳩羽美咲のものである。
「短いひとときであったな」
「こっちの科白だよ! 狩りとかの以前に根本的に間違ってるよテメーは。ゲームとして成立してなくて涙出てくるぞ? 防具より先に取説{とりせつ}読め。一緒にやってて悲しくなる」
 何の収穫もないデータをセーブしている美咲に、ダイドー少尉が一言。
「だから言ったであろう? ゲームは毒であり洗脳であるとな」
「毒られてなくて洗脳されてない奴が吐く科白じゃねーよ! 小学生でもやれるゲームを、どうやったらああも綺麗サッパリ終わらせられるのか、逆に問いたいぞ? PC世界に精通した電子戦術士官さながらの猛者さまよぅ?」
「それは永遠の謎であり哲学者の領域であって、探偵である我輩の出る幕ではない。一つだけいうならば、ランスは漢{おとこ}のロマン!」
「使いこなせないんなら、爪楊枝でも持っとけ。でもってエンドレスで狩られ続けてろ。ヴァーチャル生き地獄で脳細胞を腐らせて廃人にレッツ・ゴーだ。うん、そうしろ」

 近年、国内各地は、横行して止まない詐欺、衝動的な傷害事件の多発などの蔓延により、確実に崩壊に向かっていた。
 それらは一見すると無関係であるが、政府はこれらの背後に「組織」が存在すること、組織の計画によって犯罪と混乱が発生していることを知らないでいる。
 ただ一人、その事実を知り、組織の陰謀に立ちはだかる男がいた。
 その名は……ダイドー少尉! 一介の探偵にして、弱者の救世主であるがゲームは下手くそである!


 ――おわり
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