青い月の下で

大川徹

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破(青い月編)

18節『運命を決めたあの日』

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 雨が降っている。しとしとと静かな和室に雨音が反響し、湿った臭いが鼻腔をくすぐった。

 ここはどこだろう。僕は気付けば、薄暗い和室の中に立っていた。頭がぼんやりとして、前後の記憶が見つからない。ふと顔を見回してみれば、畳の上に二人の人間がいるのに気付いた。一人は白い布団で寝ていて、一人はそのすぐそばで正座をしている。

 「神主……?」

 髪は黒く、顔のしわもないが彼が神主だとすぐにわかった。その姿には一切の隙がないからだ。そして、布団で寝ているのは――おそらく雨宮雫だ。その顔には白い布がかけられ、長い黒髪が対照的に目に映る。

 ああ、そうかと僕は思った。これは彼女が死んだ日の夜だ。それに気づいて、意識がはっきりしてくる。なぜかわからないが、僕は全ての始まりを見ている。

 では、瞳はどこにいるんだろう。僕はそっと歩いて部屋をすり抜けると、すぐに見つかった。彼女は薄暗い廊下の隅で震えている。今よりも一回り小さい。近づいてみると、彼女は小さな声で何かを呟いている。

 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」

 まるで呪いのようだと僕は思った。
 霊体でも抱きしめられないかと近づいた時、後ろから肩に触れられる感触がする。振り向いてみると、雫だった。

 「お前が見せているのか」
 「ええ。私を倒した以上、あなたには知る権利があります」

 その言葉を聞いて合点がいった。

 「これが瞳のトラウマなのか」
 「はい。瞳のせいではないのに、あの子は全て自分の責任にしてしまった。霊力のない私のせいにしてしまえば、苦しまなかったでしょうに」

 雫は目を細め、彼女をじっと見た。

 「私は死ぬ前からこうなってしまうのではないかと思っていました。なので、当時を変えられなくとも未来は変えられると月の破壊を思いついたんです」
 「神主は知っているのか?」
 「いいえ、言ってませんから。でも、私が巫女の中では異端だというのは知っています。私はあなたと同じ――自分が愛するもの以外は全てどうでもいいのです」

 本当かよと雫を見ると彼女は首を横に振った。

 「だが、瞳を依代にしようとしたり散々な目に合わせたじゃないか」
 「あのままでは月がなくなった後に自殺でもしようじゃないですか。なら、結果は同じ。私はあの子に覚悟があり、強さを持って生きるなら別の方法を考えていました」
 「もしかして萩谷を何度もけしかしたのは……」

 「ええ。私はあの子が立ち上がってくるために鬼になりましたよ。それでも最後に決着をつけたのはあなたの機転あってこそでしたね。二人なら月の破壊も任せられるでしょう」
 「瞳が無事で、月だけを破壊できる方法があるんだな?」
 「ええ。氷見さんに手伝ってもらうことになりますけどね」

 その言葉とともに目の前の光景が白んだ。夢が覚めかけている。

 「だが月を破壊するってことは雫は……瞳ともう二度と会えなくなる」
 「あなたが私と同じ立場なら、同じことをしませんか?」
 「……そうだな。全く同じだ」

 人の気持ちがわからない僕だが、それは理解できる。そうだとすると今の雫の気持ちは。

 「だから、僕にこの光景を見せたな」
 「ええ。ほんのささやかな恨みというわけです。この景色を一生目に焼き付けてください。そして、瞳を救ってください」
 「言われなくとも。絶対にだ」

 そう言うと雫は満足したようにうなずいた。
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