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第1章
孤独と違和感
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第1章:はじまりの寮生活 ― 孤独と違和感
■入寮の日
■初日・自己紹介
ミーティングルーム。
1年生が一人ずつ前に出て挨拶する。
「○○中学出身、ピッチャーです!」
「シニア日本代表です!」
「ボーイズ全国ベスト4です!」
ざわめきが止まらない。
そして俺の番。
胸を張り、声を出した。
俺「佐伯 青です!群馬県◯◯中学校出身です。ポジションは――捕手を希望しています!」
一瞬で空気が変わった。
「は? 捕手?」
「角石と高橋がいるのに?あいつ特待生バッテリーしらんのか」
「田舎の無名校から? 終わったなあいつ…」
「入学して即詰みやん」
笑いのような、ため息のような、陰湿な空気。
⸻
■角石との初対面
ミーティング後、角石が近づいてきた。
強豪シニアの地区大会優勝に導いたエース。推薦特待生で入学した絶対的存在。
角石「おい。」
俺「え、あ……はい!」
角石は表情一つ変えず言い放った。
角石「勘違いすんな。俺はお前と組むつもりは一切ない。俺の球を受けられる捕手は高橋だけだ。」
俺「……えっ。」
角石「じゃ、頑張って“3年の裏方”でも目指せよ。」
笑っていないのに刺してくるような声だった。
俺「‥‥‥。」
俺(心の声)
(角石たちは最初からバッテリー、スカウトもあって、
仲間もいて……俺とは正反対だな)
(俺は一般入試で、
親が無理して都会に送り出してくれて……
不安ばっかで……正直、胸張れるもんなんて何もねぇ)
(でも――)
⸻
■監督にすら認識されていない現実
初めての紅白戦後。
野村監督「――えっと、あの1年、なんて名前や?」
佐々木コーチ「ああ、えっと……すみません、まだ僕も……」
俺は少し離れた場所で、その会話を聞いていた。
俺(心の声)
ああ……俺って、その程度か。
野村監督は、俺と目が合っても名前を呼ばない。
野村監督「そこの……えーっと……キャッチャー、ちょっとボール片付けといて。」
“そこのキャッチャー”。
名前すらない。
これか強豪校か‥‥
■蒼陵高校硬式野球部の空気
県内外から実力者が集まる蒼陵高校。
部員は総勢70名近く、誰もが甲子園を本気で狙っている。
練習は厳しい。
でも髪型自由、寮の規則は緩く、寮の生活は堅苦しくない、オフの日は外出も自由。
練習は個人の自主練を重んじる傾向がある。
その全部が“野球さえ本気なら、後は自己責任”という監督の方針だった。
だから、
自主練ができる奴が伸びるし、できない奴は置いていかれる。
一年生の俺は、完全に後者だった。
捕手として練習したくても、
相手をしてくれる仲間がいない。
気づけば毎日、
ボール拾い
ボール磨き
グラウンド整備
用具運び
雑務ばかりで終わる。
合間に黙々と筋トレするしかない。
(キャッチボールすら、相手がいねぇ……)
こんな状況で、どう成長しろって言うんだ。
ブルペンから元気な声が聞こえる。
佐々木コーチ
「角石!いい球いってるぞ!高橋もナイスキャッチ!
お前らこの調子なら未来のエースと正捕手だ!」
角石の140オーバーのストレートに、
高橋の分析力。
二人のテンポはよく、相性は◎。
コーチは明るくて、教えるのもうまい。
部員からの信頼も厚い。
……ただ。
気に入った選手にしか、声をかけない。
だから俺に声をかけられたことは、一度もない。
名前すら覚えられていない。
(俺も、ブルペンでボールを受けたいのに……)
そんな思いだけが、胸の底で燻っていた。
⸻
■寮での孤独
部屋は2人部屋だが、相部屋の1年はほぼ毎晩上級生に呼ばれ遊びに行ってしまう。
俺(心の声)
いいな……友達できて。
休みの日。
他の1年は街へ遊びに行き、笑いながら帰ってくる。
「カラオケ楽しかったー!」
「プリ撮ってきた!」
寮内の堅苦しくなく自由な空気が、俺の孤独感をさらに締めつける。
俺は布団の上でイヤホンを耳に刺し、腹筋をして時間を潰す。
俺(心の声)
誘われることなんて、一度もない。
寮生活ってこんなに静かで冷たいんだな。
■ 夜の自販機前 ― 少しだけ泣いた
夜、喉が渇いて寮の自販機へ。
人気のない廊下に一人。
「ガチャン」と缶が落ちる音がやたら大きく響く。
他の部屋から、笑い声が聞こえてくる。
缶を手に取った瞬間、
胸がぐっと締めつけられ、
目にじわっと涙がにじんだ。
俺(……なんでこんなに苦しいんだろ)
でも、泣く音が誰かに聞かれるのが怖くて、
歯を食いしばって飲み込んだ。
⸻
■ 夜中のベランダ ― 心が折れかける
星がほとんど見えない夜の空。
ベランダに立って、
校舎の影をぼんやり見つめた。
風だけが冷たくて、
誰も俺を呼ばない。
誰も俺に気づかない。
俺(…やめたい。
でも…やめたら、寮を出なきゃいけない。
そしたら学校も辞めないといけない。
そんなの…無理だ)
自分を支えてくれるものは
“辞められない事情”だけだった。
⸻
■ それでも諦めらなかった理由
頭のどこかで確かに思っていた。
俺(こんな扱いされて、なんで辞めないんだろ…)
でも、理由は一つだった。
俺(中学の頃、キャプテンで正捕手だった俺が…
選抜で県代表にも選ばれたこともある俺が、、ここで逃げたら全部嘘になる)
握った拳に力が入る。
俺(絶対に這い上がる。
この一年で心が死んでも。
体だけは…前に)
⸻
■親への電話
ある日の夜。
母から電話が来た。
母『寮はどう? みんな仲良くしてくれる?』
俺「うん……楽しいよ。野球も寮生活も。みんな優しいし。」
言った瞬間、声が震えた。
涙をこぼさないように唇を噛む。
母『よかったぁ……無理しないでね。本当に辛かったら帰ってきていいから』
俺「大丈夫。絶対レギュラーになるから。」
電話を切った瞬間、枕に顔を押し付けた。
俺(心の声)
ごめん。全部嘘だよ……でも、帰れない。帰ったら、本当に終わりだ‥‥
■入寮の日
■初日・自己紹介
ミーティングルーム。
1年生が一人ずつ前に出て挨拶する。
「○○中学出身、ピッチャーです!」
「シニア日本代表です!」
「ボーイズ全国ベスト4です!」
ざわめきが止まらない。
そして俺の番。
胸を張り、声を出した。
俺「佐伯 青です!群馬県◯◯中学校出身です。ポジションは――捕手を希望しています!」
一瞬で空気が変わった。
「は? 捕手?」
「角石と高橋がいるのに?あいつ特待生バッテリーしらんのか」
「田舎の無名校から? 終わったなあいつ…」
「入学して即詰みやん」
笑いのような、ため息のような、陰湿な空気。
⸻
■角石との初対面
ミーティング後、角石が近づいてきた。
強豪シニアの地区大会優勝に導いたエース。推薦特待生で入学した絶対的存在。
角石「おい。」
俺「え、あ……はい!」
角石は表情一つ変えず言い放った。
角石「勘違いすんな。俺はお前と組むつもりは一切ない。俺の球を受けられる捕手は高橋だけだ。」
俺「……えっ。」
角石「じゃ、頑張って“3年の裏方”でも目指せよ。」
笑っていないのに刺してくるような声だった。
俺「‥‥‥。」
俺(心の声)
(角石たちは最初からバッテリー、スカウトもあって、
仲間もいて……俺とは正反対だな)
(俺は一般入試で、
親が無理して都会に送り出してくれて……
不安ばっかで……正直、胸張れるもんなんて何もねぇ)
(でも――)
⸻
■監督にすら認識されていない現実
初めての紅白戦後。
野村監督「――えっと、あの1年、なんて名前や?」
佐々木コーチ「ああ、えっと……すみません、まだ僕も……」
俺は少し離れた場所で、その会話を聞いていた。
俺(心の声)
ああ……俺って、その程度か。
野村監督は、俺と目が合っても名前を呼ばない。
野村監督「そこの……えーっと……キャッチャー、ちょっとボール片付けといて。」
“そこのキャッチャー”。
名前すらない。
これか強豪校か‥‥
■蒼陵高校硬式野球部の空気
県内外から実力者が集まる蒼陵高校。
部員は総勢70名近く、誰もが甲子園を本気で狙っている。
練習は厳しい。
でも髪型自由、寮の規則は緩く、寮の生活は堅苦しくない、オフの日は外出も自由。
練習は個人の自主練を重んじる傾向がある。
その全部が“野球さえ本気なら、後は自己責任”という監督の方針だった。
だから、
自主練ができる奴が伸びるし、できない奴は置いていかれる。
一年生の俺は、完全に後者だった。
捕手として練習したくても、
相手をしてくれる仲間がいない。
気づけば毎日、
ボール拾い
ボール磨き
グラウンド整備
用具運び
雑務ばかりで終わる。
合間に黙々と筋トレするしかない。
(キャッチボールすら、相手がいねぇ……)
こんな状況で、どう成長しろって言うんだ。
ブルペンから元気な声が聞こえる。
佐々木コーチ
「角石!いい球いってるぞ!高橋もナイスキャッチ!
お前らこの調子なら未来のエースと正捕手だ!」
角石の140オーバーのストレートに、
高橋の分析力。
二人のテンポはよく、相性は◎。
コーチは明るくて、教えるのもうまい。
部員からの信頼も厚い。
……ただ。
気に入った選手にしか、声をかけない。
だから俺に声をかけられたことは、一度もない。
名前すら覚えられていない。
(俺も、ブルペンでボールを受けたいのに……)
そんな思いだけが、胸の底で燻っていた。
⸻
■寮での孤独
部屋は2人部屋だが、相部屋の1年はほぼ毎晩上級生に呼ばれ遊びに行ってしまう。
俺(心の声)
いいな……友達できて。
休みの日。
他の1年は街へ遊びに行き、笑いながら帰ってくる。
「カラオケ楽しかったー!」
「プリ撮ってきた!」
寮内の堅苦しくなく自由な空気が、俺の孤独感をさらに締めつける。
俺は布団の上でイヤホンを耳に刺し、腹筋をして時間を潰す。
俺(心の声)
誘われることなんて、一度もない。
寮生活ってこんなに静かで冷たいんだな。
■ 夜の自販機前 ― 少しだけ泣いた
夜、喉が渇いて寮の自販機へ。
人気のない廊下に一人。
「ガチャン」と缶が落ちる音がやたら大きく響く。
他の部屋から、笑い声が聞こえてくる。
缶を手に取った瞬間、
胸がぐっと締めつけられ、
目にじわっと涙がにじんだ。
俺(……なんでこんなに苦しいんだろ)
でも、泣く音が誰かに聞かれるのが怖くて、
歯を食いしばって飲み込んだ。
⸻
■ 夜中のベランダ ― 心が折れかける
星がほとんど見えない夜の空。
ベランダに立って、
校舎の影をぼんやり見つめた。
風だけが冷たくて、
誰も俺を呼ばない。
誰も俺に気づかない。
俺(…やめたい。
でも…やめたら、寮を出なきゃいけない。
そしたら学校も辞めないといけない。
そんなの…無理だ)
自分を支えてくれるものは
“辞められない事情”だけだった。
⸻
■ それでも諦めらなかった理由
頭のどこかで確かに思っていた。
俺(こんな扱いされて、なんで辞めないんだろ…)
でも、理由は一つだった。
俺(中学の頃、キャプテンで正捕手だった俺が…
選抜で県代表にも選ばれたこともある俺が、、ここで逃げたら全部嘘になる)
握った拳に力が入る。
俺(絶対に這い上がる。
この一年で心が死んでも。
体だけは…前に)
⸻
■親への電話
ある日の夜。
母から電話が来た。
母『寮はどう? みんな仲良くしてくれる?』
俺「うん……楽しいよ。野球も寮生活も。みんな優しいし。」
言った瞬間、声が震えた。
涙をこぼさないように唇を噛む。
母『よかったぁ……無理しないでね。本当に辛かったら帰ってきていいから』
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