青と蒼

ハマジロウ

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第2章

2年目の春〜出会い

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第2章  2年目の春、初練習 ― 埋もれた才能と、静かな出会い

■キャッチボール開始

春の陽射しが照り返すグラウンド。

2年になった俺は、端の方で黙々と準備をしていた。

角石と高橋は相変わらず主役のようなオーラで、
1年の注目もほぼ全て彼らに向けられていた。

自主練の時間、俺は相方も決まらず、寮で過ごすときと同じ、
「どこにも属してない空気」のままだった。

そんなとき――背後からおそるおそる声がした。

岡谷「せ、先輩……あの、もしよかったら……キャッチボール、お願いできますか?」

控えめで、目を伏せがちな声。
けれど、丁寧で誠意のある声だった。
たしか、新入生の、岡谷‥‥。
挨拶のとき、投手希望と言ってたか‥‥、俺は何故か印象によく残っていた。

俺「いいぞ。組もうか。」

岡谷「ありがとうございます……!」

他の1年の視線がチラッとこちらに向く。

「2年のあの人と組むんや…?」
「空気みたいな先輩と?」
「もったいなくね?」

そんなヒソヒソが聞こえたが、俺には慣れた音だった。



■岡谷のストレート

岡谷「じゃ、じゃあ……軽く投げますね。ストレートです。」

彼のフォームは綺麗だが、球速は普通。
角石の豪速球と比べるとどうしても迫力に欠ける。

俺(心の声)
ああ……ストレートは角石の方が上だな。
でも、このピッチャー……リズムがいい。嫌いじゃない。

周りの1年がざわつく。

「ストレート120キロ程度か、球遅くね?」
「角石先輩の140キロに比べたら…」
「エース候補じゃないな」

岡谷はその声が聞こえているのに、顔色一つ変えない。



■変化球へ

数球投げたあと、岡谷が小さく息をつき、控えめに言った。

岡谷「せ、先輩……次、変化球投げてもいいですか?」

俺「おお、いいよ。受ける。」

岡谷「ありがとうございます……」

周囲の視線がまた集まる。



■“本性”の変化球

投げた瞬間分かった。
ストレートとは別物のボールが来た。

鋭く横に切れるスライダー。
ボールが沈むチェンジアップ。
縦に大きく割れるカーブ。

そして――

岡谷「……最後、フォークいきます。まだ安定してないんですけど……!」

1年でフォーク?
角石でさえ試合では使わないナイーブな球種だ。

強烈に落ちたフォークがワンバウンドする。

俺は迷わず体を沈め、完全に止めた。

バシィィィン!!

空気がひと呼吸止まった。



■ざわつき

「え…止めた?」
「先輩すげぇやん」
「1年のフォークを完璧に…?」

岡谷は驚いたように俺を見る。

岡谷「せ、先輩……すごいです。あ、あの角度の落ち方、全部読んで……」

俺「今のいいフォークだったよ。お前、ストレートより変化球の方が“本命”だろ?」

岡谷はハッとし、少し恥ずかしそうにうつむいた。

岡谷「……はい。ストレートは自信なくて……。
でも、変化球で勝負したいんです。」

俺「大丈夫、全然いい。お前の球、好きだよ。」

岡谷は、初めて柔らかく笑った。

岡谷「先輩にそう言ってもらえると……すごく、嬉しいです。」



■監督の視線

グラウンドの端。
監督が帽子を指でつまみながら、じっと俺らを見ていた。


野村監督「……あのキャッチャー、あんなんできたか?」
佐々木コーチ「いえ。ずっと空気扱いで、名前覚えられてませんでしたし。」

野村監督「名前、なんやったっけ?」
佐々木コーチ「たしか、佐伯です。」

野村監督「……覚えとこ。
あれだけの種類の変化球を“ノーミス”で止める捕手なんて……そうおらん。」

野村監督はメモ帳に静かに書き込んだ。

“2年 佐伯
 捕手能力:要再評価”

「ミットワーク◎ キャッチ能力 予想以上。要注目」



■練習後

片付けの最中、岡谷がもじもじしながら近づいてくる。

岡谷「あ、あの……先輩。」

俺「ん?」

岡谷「ぼ、僕……できれば、これからも自主練、先輩と組ませてもらえたら……嬉しいです。」



俺の胸の奥に、熱いものが広がった。

ずっと“空気”だった俺に、初めて届いた真っすぐな言葉。

俺「……おう。組もう。これからも。」

岡谷「……はいっ!」

その笑顔は、この学校で初めて向けられた“味方の笑顔”だった。
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