青と蒼

ハマジロウ

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第12章

幼なじみの絆



夕暮れの校舎裏。

引退式が終わり、

グラウンドから離れた二人は

並んでベンチに腰掛けていた。



角石は制服の襟を緩め、大きく伸びをする。



「……終わったなぁ、野球部生活」



高橋は隣で笑う。



「うん。三年間、よく頑張ったね」



角石は少し照れたように鼻をかいた。



角石は少し間を置いて、空を見上げた。



夕焼けの色が、ゆっくりと薄れていく。



「……なあ、智也」



「ん?」



「俺さ、最近みんなから言われるんだよ」



「なにを?」



「“角が取れた”とかさ。

 “話しやすくなった”とか。

 ……前は怖かったって」



照れくさそうに、苦笑いする。



高橋は、少しだけ頷いた。



「うん。そうだね。

 剛志、ずっと無理してたし」



「……そうか?」



高橋は、優しく続ける。



「でも、それは俺のためだったんだよね」



「あの約束を果たすために‥‥

 “俺がエースになる”って、

 必死だったから」



一呼吸置いて。



「でもね。

 本当の剛志は、昔のまんまだよ」



角石は黙って聞いている。



「素は優しくて、

 誰よりも努力家で、

 不器用なくらい真っ直ぐだった」



「……まっすぐ、か」



角石は自分の手を見つめる。



「俺、フォーク投げられなかったしさ。

 結局、ストレート投げるのが

 性に合ってるみたいだな」



少し、自嘲気味に笑う。



高橋は首を振った。



「うん。

 そのままでいいよ」



「変わらなくていい。

 剛志は、剛志のままでいい」



角石は一瞬だけ目を伏せ、

それから小さく息を吐いた。



「……なんだよ。

 そんなふうに言われたら……

 もう、力抜くしかねぇじゃん」



高橋は、静かに微笑んだ。







しばらく角石は静かに物思いにふける



日は沈みかける



「……あとさぁ」



「なに?」



「ごめん。約束……果たせなかった。

 “お前を甲子園に連れてく”って……

 俺、あんだけ言っといて……

 何もできなかった」



声が震えた。



「俺……お前のこと、守りたかったのに。

 ほんとは一番、俺が守られてた。

 結局、最後まで……お前に甘えてた」



唇を噛む角石の横顔は、

夏の誰より苦しげだった。



高橋は少しだけ微笑んで、

角石の横顔をじっと見つめる。



「剛志」



「……なんだよ」



「俺は、甲子園なんかより、

 剛志のそばにいられたことの方が

 大事だったよ」



「……は?」



高橋は真っ直ぐな声で続ける。



「捕手として…いや、それよりも。

 “角石剛志の捕手”でいられただけで

 十分だった。


 正直……レギュラーとか、プロとか……

 そんなのより、剛志の隣が良かった」



「…………っ」



その瞬間、角石の耳まで真っ赤になった。



「お、お前……それ……

 俺のこと、相当好きじゃねぇと

 出てこねぇ言葉だぞ……?」



高橋は一切目をそらさず、

真顔のまま言った。



「——そうだよ」



「……っ」



高橋がわずかに身体を寄せる。



高橋は少し間を置いてから、静かに言った。



「……剛志。

 俺は、お前のこと本気で好きだよ」



「……バカ。

 そんな顔で言われたら……

 ……もう俺、どうなっても知らねぇからな」



けれど、声はどこか嬉しそうだった。



照れ隠しに、角石は話題を変える。



「と、智也……

 そういやさ……

 お前、俺のこと、いつから好きなんだ?」



高橋は一瞬だけ視線を上に向け、

懐かしいものを探すように目を細めた。



「いつって言われると……難しいけど」



「子どものころから、

 ずっと一緒に野球やってたし、

 その頃は“好き”とか考えたことなかった」



「……じゃあ?」



「はっきり自覚したのは、中学一年のとき」



「中一?

 なんで?」



高橋は小さく笑って、続けた。



「あのときさ。

 地区大会で俺、捕球ミスして負けただろ」



「……ああ」



忘れたくても忘れられない試合。



「俺、ベンチ裏で泣いてた。

 みんなの前じゃ平気なふりしてたけど」



角石は、思い出したように眉をひそめる。



「……あのとき、急にいなくなったよな」



「うん。

 そしたらさ、剛志が来た」



「“俺がもっと投げきれなかったのが悪い”

 って言って、

 何も責めずに、ただ隣に座ってくれた」



「……そんなこと、したか?」



「したよ」



高橋ははっきり言った。



「俺がどれだけ自分を責めても、

 剛志は一度も俺を責めなかった」



「そのとき思ったんだ。

 ——あ、この人の隣にいたいって」



角石は言葉を失う。



「勝ちたいとか、

 エースと組みたいとかじゃなくて」



「“剛志の隣で、剛志の球を受けていたい”

 それだけだった」



少し照れたように、目を逸らす。



「それが、好きなんだって気づいた」



角石は耳まで真っ赤になり、

慌てて視線を落とす。



「……そ、そうか……」



しばらく沈黙。



「……なんだよそれ。

 そんなの聞いたらさ……」



拳を握りしめて、小さく呟く。



「……俺、

もっと早く気づくべきだったじゃねぇか」



高橋は、そっと笑った。



「いいんだよ。

 今、気づいてくれたなら」



二人の間に、

あたたかい沈黙が流れた。









日は沈み

あたりにはもう誰も残っていない



「あー、そ、そうだ! 進路の話!

 智也、同じ大学でさ……

 バッテリー、また組もうぜ!」



高橋の目が一瞬で輝いた。



「もちろんだよ。

 嬉しい……めちゃくちゃ嬉しい」



「お、おお……そんな喜ぶか?」



高橋はゆっくり、角石の手に触れた。



「野球してる剛志も、

 頑張ってる剛志も、

 素直になった剛志も……

 全部俺は好きなんだよ」



「……っあ、ああ……

もうわかった、わかったから……」



照れすぎて後ろにのけぞりながらも、

手は離さない。



高橋はそんな角石を見て、少し笑い、

そっと頭を撫でた。



「これからも、
 
 俺の前では無理しなくていいよ。

 本音でいてくれれば、十分だから」



角石は俯きながら、小さく頷いた。



「……智也の前だと、なんかさ……

 力抜けるんだよな。

 ……あの頃のまんまに戻れる」



「それでいいんだよ。

 剛志は剛志のままで、

 俺の隣にいればいい」



角石はついに耐えきれず、

顔を手で覆いながら笑ってしまう。



「……ほんとお前……

 甘えさせすぎなんだよ……」



高橋は優しく肩に寄り添った。



「甘えたい時は、全部俺に甘えればいい。

 これからも、ずっと一緒だから」



角石は、

恥ずかしさの中に滲む幸福を隠しきれず、

かすかに笑って応えた。



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