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第14章
クリスマスの夜
しおりを挟む冬の夜の寮。
青は机に向かい、
静かに参考書を開いていた。
ページをめくる音が規則正しく響く。
ベッドの端に座った蒼太は、
その背中を見つめている。
蒼太は、
何かを言いたげにしながらつい口を開く。
「……先輩。ひとつ言ってもいいですか」
青は鉛筆を止め、振り返る。
「どうした、蒼太」
「……最近、全然……二人で過ごせてないです。
恋人になったのに、ちょっと寂しいです」
蒼太はやっぱり言うんじゃなかった
という顔をしている。
だが青は、優しく微笑んだ。
「……ごめんな。
蒼太がそんなふうに思ってたなんて……
気づけなかった」
蒼太は少し寂しそうに眉を下げる。
「いえ……先輩が受験勉強頑張ってるの、
‥‥分かってますし。
無理させるつもりもありません」
そう言いながらも、
青の隣に座りたい気持ちが溢れそうになる。
「でも……」
と、蒼太は小さく付け加えた。
「たまには……息抜きも必要だと思います。
だから……その……
一緒にいてほしいです‥‥
‥‥少しでいいので」
青の胸の奥がじんと熱くなる。
(……蒼太、気遣ってくれて……
それでも俺を求めてくるなんて……
こいつ、本当に可愛いな……)
青は椅子から立ち上がり、
無言のまま蒼太の後ろにまわり、
そっと腕を回す。
「……蒼太。ありがとうな。
そんなふうに思ってくれて」
蒼太の肩がわずかに震える。
「先輩……」
顔を振り返る前に、
青の唇がそっと首元に触れた。
「クリスマス……オフだろ。
一日だけ息抜きしよう。
蒼太と……ちゃんとデートしたい」
蒼太の瞳が一気に輝き、
嬉しさと照れが混ざった声が漏れる。
「……本当に? 先輩」
「本当だよ。
俺も……蒼太とゆっくり過ごしたい」
そう言って、
青は蒼太の顎をやさしく持ち上げる。
「今日は……これで我慢な」
唇が触れ、
いつもより深く熱を帯びたキスが落ちる。
蒼太は少し震え、
青の腕にしがみつく。
「……先輩……もっと……」
「だめ。
今日はここまで。
続きは……クリスマスにしよう」
蒼太の頬が赤くなる。
だけどその瞳は、幸せに満ちていた。
冬の冷たい空気とは対照的に、
二人の部屋には、
恋人同士の温かい時間が静かに灯っていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
クリスマス当日
朝の駅前。
冬の風が冷たいのに、
胸はどこかそわそわあたたかい。
青が改札前で待っていると——
「先輩!」
蒼太が駆け寄ってくる。
「……同じ部屋から来たのに、
駅で待ち合わせなんて……変じゃねぇか?」
そう笑いかけると、
蒼太はちょっと頬を赤くしながら言った。
「こういうの……憧れてたんです。
恋人って、駅で待ち合わせして
デートするイメージで」
青の胸が一瞬で温かくなる。
(……かわいいな、こいつ)
「そっか。じゃあ今日は、
その“憧れ”全部叶えような」
蒼太は恥ずかしそうに笑って、うなずいた。
青は蒼太と電車に乗って、
東京方面に向かっていた。
初めての二人での遠出、
蒼太はちょっとした旅行気分だ
最初に訪れたのは、
マクセル アクアパーク品川
館内は青い光に包まれ、
大きな水槽の前で、
ふたりは自然に歩幅を合わせる。
「先輩! あれ見てください」
蒼太が指さすのは、ゆったり泳ぐマンタ。
「お前、ほんと子どもみたいに喜ぶな」
「だって……こんなの見たことないですよ」
その横顔があまりにも嬉しそうで、
青は水槽よりも蒼太ばかり見てしまう。
イルカショーでは、
歓声と拍手の中、
肩が軽く触れた瞬間、二人とも赤くなった。
(……デートって、こんなに楽しいんだな)
水族館を出た時、
二人の距離は朝より確実に近くなっていた。
夜、青と蒼太は、
恵比寿ガーデンプレイスの
クリスマスツリーを見に行った
ツリーの広場は
イルミネーションと人の流れで
いっぱいだった。
巨大なクリスマスツリーの前で
立ち止まった蒼太は、
ぽつりと呟く。
「先輩……こんな日に、
一緒にいられるなんて……
僕、本当に幸せです」
その言葉に胸を打たれ、
青は自然と蒼太の手を取った。
「……えっ、先輩……!?」
蒼太の目が大きく開く。
青は少し照れながらも、
片方の手で蒼太の指を絡めるように握る。
「大丈夫だよ。
この人混みじゃ、誰も見てねぇって」
蒼太は、ゆっくりと笑って、
ぎゅっと握り返す。
恋人として初めてつないだ手は、
驚くほど温かかった。
* * *
寮の部屋に戻ると、
デートの楽しさがまだ体に残っていて、
ふたりはしばらく無言のまま、
静かに笑い合っていた。
しかし蒼太がふと、視線を落とす。
「……明日から僕、冬合宿です。
先輩は冬期講習……
またすれ違いになりますね……」
しゅんと落ちる肩。
胸の奥に小さな痛みが走る。
青はそっと立ち上がり、
机の引き出しから小さな箱を取り出した。
「……蒼太。
これ、渡したかったんだ」
蒼太は驚いて涙ぐみそうになる。
「先輩……忙しいのに……
僕のために考えてくれたんですか?」
「当たり前だろ。
恋人に、何もなしってのは……
俺が嫌なんだよ」
包みを胸に抱えて嬉しそうに笑う蒼太。
その顔に、青の胸はまた温かくなる。
ふたりは自然と見つめ合った。
もう、言葉はいらない。
そっと唇が触れ、
次の瞬間には、
今までで一番深く、
長いキスになった。
二人の体温が混ざり合い、
呼吸さえ重なる。
そして、そっと消灯のスイッチが押される。
部屋が暗くなり、
吸い込まれるように二人は同じベッドへ
——寄り添うように潜り込んだ。
どちらが手を伸ばしたか分からない。
どちらが抱き寄せたのかも分からない。
ただ、確かに感じた。
蒼太の温もり。
青の鼓動。
安心と甘さが溶けていく夜。
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