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第一章;始まりの物語
女剣士と呼ばれることナカレ
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気づいたらオギャアと生まれていた。などという話は大体嘘である。だって誰も自分の生まれてきた時の泣き声の記憶なんてないのだから。だからそれは嘘に決まっている。
というか、私がそういうことにしておく。私の物語だから。
これはまあ、とにかく愉快な冒険譚という訳ではないかもしれないけれど、それなりには色々と愉快な経験もして、それなりに恋やら仲間との道中でいざこざもあったりだとかで色々と……して、まあ、それなりに年を重ねていったんでございますよ。
馬鹿みたいな『力』を使いながら。
私は、別に待ち望んでそういう特別な『力』を得た訳じゃない。誰だってそう。生まれた時の泣き声が、自分の意思で決められないのと同じ事で。私はただただ孤独な魂を癒す為だけに、その怪しい力を使う羽目になった、ただそれだけの話。
さて、長々と前文を書いたけれど、私もそろそろ疲れたので、ここらで物語を始めることにする。
つまらないかもしれないから、その時はご容赦下さい。何せただの人間の本物の物語だから。面白い訳ないじゃない。
そこにはただ、素朴な味わいみたいなものがソッと感じられるかもしれないだけだ。
では、以下より始まります。ではまた。
ーーーー
↓
私の記憶にあるのは、顔も分からない誰かのシルエット。逆光がその姿を映し出すけれど、私にはその人達が誰なのかさっぱり分からない。見当もつかない。
推測もさせてくれない、そんな無慈悲な姿をその人達はしていた。小さなローブを肩に掛けていて、ただひたすらに白い光に照らされていて、私はその姿形を見ながら、陰ながら、「恐いな」と思っていた。
恐いな、と思っていたのに、私はただひたすらに、その姿形のことを、密かに追いかけ続けていたのだと思う。そういう夢の話だ……多分。
「イレルヤ、ご飯よ! いつまで寝てんの。早く支度して降りてきなさい。せっかくの卵焼きが冷めちゃうわ」
「うーん、すぐ行く」
すぐ来なさい、と、階下から母さんの声が、飼っている馬の声と一緒に聞こえてくる。養鶏場の鶏達が朝一番に産んだ新鮮な卵は、一日たりとも無駄にはできない。一日経てば大抵は腐ってしまうから。
私は清潔な少し馬の匂いのするシーツを剥いで、裸足のまま床に降りる。硬いベッドに柔らかい綿を詰め込んだ布を敷いただけの簡易的な寝床から、毎朝私は生まれたての芋虫のように生まれ落ち、床で息絶える。そこで母さんが梯子を上がってきて、料理ベラで頭を叩くまでがセットである。
私の頭がいい感じにひりひりとした所で、馬房で掃除をしていた父さんが帰ってきて、目を丸くする父さんを尻目に淀んだ目で朝食を摂るのが私の日課である。
「今日は入学式の日でしょ。急がないと」
「急いだって実りは少ないよ。実るまで待たないといい木の実はできない。馬だってそう。いい感じに気分が乗ってきて初めて動き出すことができる……」
「つべこべ言ってないで、あなたはただ慌てて準備するのが嫌なだけでしょう。その癖ギリギリまで寝てる癖に」
「翌日は慌てなくて済むように事前に準備をしているから大丈夫なのだ」
「何が大丈夫よ。ほら、早く目玉焼き食べなさい。鶏たちが怒るわ。せっかく取ってきたのに……」
「そだね」
私はそれ以上は何も言わずに、野菜と一緒に鶏たちの愛の結晶を焼いたものを躊躇わずにかきこんでいく。そういう美味しさへの飽くなき探究心が、更なる美味しさを連れてきてくれる、そんな気がする。
私はそれらの愛の結晶、もといとんでもなく美味しい卵焼きたちを感謝しながら食べ終え、食器を洗い場へと持って行き、ひよこたちに見守られながら顔を洗い、ついでに簡単な魔法を使って髪留めを作り、髪を後ろで縛る。それから母さんの所へ行って、この髪型と顔色で大丈夫かどうかを聞いて、大丈夫そうならそのまま歯を磨きに行って、大丈夫じゃなさそうならちょっと時間をかけて頬に赤い母さん手製のチークの粉を振りかけてまぶして、もう一度母さんに確認をとる。それからようやく梯子を登って、学校から送られてきた鞄を握り締め、梯子を降りていくのである。
というか、私がそういうことにしておく。私の物語だから。
これはまあ、とにかく愉快な冒険譚という訳ではないかもしれないけれど、それなりには色々と愉快な経験もして、それなりに恋やら仲間との道中でいざこざもあったりだとかで色々と……して、まあ、それなりに年を重ねていったんでございますよ。
馬鹿みたいな『力』を使いながら。
私は、別に待ち望んでそういう特別な『力』を得た訳じゃない。誰だってそう。生まれた時の泣き声が、自分の意思で決められないのと同じ事で。私はただただ孤独な魂を癒す為だけに、その怪しい力を使う羽目になった、ただそれだけの話。
さて、長々と前文を書いたけれど、私もそろそろ疲れたので、ここらで物語を始めることにする。
つまらないかもしれないから、その時はご容赦下さい。何せただの人間の本物の物語だから。面白い訳ないじゃない。
そこにはただ、素朴な味わいみたいなものがソッと感じられるかもしれないだけだ。
では、以下より始まります。ではまた。
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↓
私の記憶にあるのは、顔も分からない誰かのシルエット。逆光がその姿を映し出すけれど、私にはその人達が誰なのかさっぱり分からない。見当もつかない。
推測もさせてくれない、そんな無慈悲な姿をその人達はしていた。小さなローブを肩に掛けていて、ただひたすらに白い光に照らされていて、私はその姿形を見ながら、陰ながら、「恐いな」と思っていた。
恐いな、と思っていたのに、私はただひたすらに、その姿形のことを、密かに追いかけ続けていたのだと思う。そういう夢の話だ……多分。
「イレルヤ、ご飯よ! いつまで寝てんの。早く支度して降りてきなさい。せっかくの卵焼きが冷めちゃうわ」
「うーん、すぐ行く」
すぐ来なさい、と、階下から母さんの声が、飼っている馬の声と一緒に聞こえてくる。養鶏場の鶏達が朝一番に産んだ新鮮な卵は、一日たりとも無駄にはできない。一日経てば大抵は腐ってしまうから。
私は清潔な少し馬の匂いのするシーツを剥いで、裸足のまま床に降りる。硬いベッドに柔らかい綿を詰め込んだ布を敷いただけの簡易的な寝床から、毎朝私は生まれたての芋虫のように生まれ落ち、床で息絶える。そこで母さんが梯子を上がってきて、料理ベラで頭を叩くまでがセットである。
私の頭がいい感じにひりひりとした所で、馬房で掃除をしていた父さんが帰ってきて、目を丸くする父さんを尻目に淀んだ目で朝食を摂るのが私の日課である。
「今日は入学式の日でしょ。急がないと」
「急いだって実りは少ないよ。実るまで待たないといい木の実はできない。馬だってそう。いい感じに気分が乗ってきて初めて動き出すことができる……」
「つべこべ言ってないで、あなたはただ慌てて準備するのが嫌なだけでしょう。その癖ギリギリまで寝てる癖に」
「翌日は慌てなくて済むように事前に準備をしているから大丈夫なのだ」
「何が大丈夫よ。ほら、早く目玉焼き食べなさい。鶏たちが怒るわ。せっかく取ってきたのに……」
「そだね」
私はそれ以上は何も言わずに、野菜と一緒に鶏たちの愛の結晶を焼いたものを躊躇わずにかきこんでいく。そういう美味しさへの飽くなき探究心が、更なる美味しさを連れてきてくれる、そんな気がする。
私はそれらの愛の結晶、もといとんでもなく美味しい卵焼きたちを感謝しながら食べ終え、食器を洗い場へと持って行き、ひよこたちに見守られながら顔を洗い、ついでに簡単な魔法を使って髪留めを作り、髪を後ろで縛る。それから母さんの所へ行って、この髪型と顔色で大丈夫かどうかを聞いて、大丈夫そうならそのまま歯を磨きに行って、大丈夫じゃなさそうならちょっと時間をかけて頬に赤い母さん手製のチークの粉を振りかけてまぶして、もう一度母さんに確認をとる。それからようやく梯子を登って、学校から送られてきた鞄を握り締め、梯子を降りていくのである。
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