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少年
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しおりを挟むガイルを連れて家に帰った時の家族の反応は様々だった。父は目と口をぽかんと開けて唖然としていたし、母さんは目を少し見開いただけですぐに料理の支度に戻って行った、妹は何故か大喜びで、ガイルの周りを駆け回っては飛行服の裾を引っ張ったりして遊んでいた。ガイルがそれをうざがって払い除けようとしていたが、僕はわざと無視した。別に恨みがあったわけではない。何となくそのほうが面白そうだからだ。
食卓の席に、人がもう一人入り、少し和室の居間は窮屈になる。ガイルは妹に懐かれたせいで、母さんと妹の間に陣取ることになった。その真向かいには眉間に超皺を寄せた父さんが酒を持って控えている。僕はいつも通り、その隣だ。
突然の客ということで食べ物がないかとも思ったけれど、お盆の上にはちゃんとガイルの分の焼き魚や煮物、野菜のおひたしと味噌汁が置かれていた。白米もたんまりと。
皆で手を合わせて、「頂きます」と言ったが、ガイルは始めはしようとはしなかった。明らかに動揺した様子で、でもやがて真似をするようにして、手を合わせた。
「頂きます」
「そっちの国には、食べ物に感謝する風習がないのかい、ええ」
父が早速酒を注ぎながら、ガイルに向かって言う。今も酒を注ぎながら、値踏みするようにちらちらと目線を向けている。
「ええ、どうなんだい? まあ、別にいいけどよ。国が違えば、風習も違う、……あんた、子供だよな?」
僕は父さんの方を見た。
ガイルは奇妙に長い沈黙を取った後、ただ頷いた。
「そうか」と父は言い、「なら酒は無理だな」と言って、一人であおろうとする。足元をよく見ると、お猪口が一つ多かった。どうやら、始めから彼に出すつもりだったらしい。
少し気まずい沈黙が流れたので、僕はとりあえず、料理に手をつけることにした。
すると、その途中で、唐突にガイルが「いや」と言った。
僕が見ると、その大きな鳶色の瞳は、真っ直ぐに父さんの方に向けられていた。
「本当は、飲めるんだ。……色々と事情があって、今はナリはこんなになってるが、本当は飲めるんだ……。ついでに、この国の酒の味を知っておきたい。いいだろうか」
僕は父さんの方を見る。父さんは、二度ほと瞬きをしてから、「なんでい」と言った。そして徐にお猪口を床から取り出し、ちゃぶ台の上に置いて、瓶を傾けて、なみなみと注ぎ始めた。
「そういうことは、初めに言っておいて欲しいがな……。こっちからしたら、一体、敵なのか味方なのか、わかりゃあしねえ」
「……敵かもしれないだろう、いいのか?」
彼を見る父さんの瞳が、一瞬鋭く光った。
「……敵、か……まあ、そうだわな。怪しい奴に間違いはねえよ。こいつの友達だなんて言われて鵜呑みにする程俺たちは馬鹿じゃねえ。裏山の騒ぎだって知らない訳じゃねえしな。でもな、俺は一緒に酒が飲める奴が欲しいだけなんだよ。極端な話、酒が飲めるなら、俺にとってはそいつは友達みたいなもんだ。今はな……だから妙に考え事なんかせずに、俺が用意した酒を飲め。これは特別な奴だからな。折角用意したのに、飲ませられねえとあっちゃ勿体ねえったら……お前は飲めねえぞ、足人。お前は正真正銘の子供なんだからな」
僕は何も言わずに、目を細めて父さんを見た。
父さんは嬉しそうに酒を注ぎ、それをガイルに渡した。
ガイルはそれを受け取って、小さく「ありがとう」と言った。その流れでいきなり酒をあおって、酷くむせた。それに一同が皆笑った。
僕は笑いながら、彼の年齢が外見より遥かにいっているとは薄々感じてはいた。というより、彼が病室のベッドに寝ている時から、強く違和感を感じていた。実際の年齢から醸し出される内的なものから来る雰囲気と、眠っている子供の姿からは、明らかな齟齬があった。とは言ってもそれは感覚的なものだったから、父さんが始めから彼のことを成人かそれ以上の人間と見做していたことに僕は驚いていた。
ちゃぶ台を挟んで、いつの間にか二人は酒の話題で盛り上がっている。僕はその間で一人、その様子を観察しながら、味噌汁を静かに啜っていた。
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