彼はやっぱり気づかない!

水場奨

文字の大きさ
30 / 55

30話 多すぎる情報

しおりを挟む
「シフォン、ここに来て」
呼んでみて現れなかったら恥ずかしいなーと、小さく呟いた声を、目の前の王は聞き取ったようだった。
王の合図で彼の前に護衛が立つのと、シフォンが俺の横に現れるのがほぼ同時だった。
このひとやりおる。

「な、なぜここに神獣様が」
大生神オオウルカミ様といえば、ビアイラの森に住む伝説の神獣様ではないか」
「本物なのか?」

ただ、一斉にその場にいた者達がざわめいたことからもわかるように、王も護衛も驚いて止まってしまったけども。

『我は人の世に興味はないが、契約者サフィを害する者の排除には動くぞ。のう、人族の王よ』

「け、契約者だと?!」
そして思わず口を出してしまったと思われるのは、王ではなく横に立っているおじさんだった。
王は暫く言葉が出せなかったようだが、ようやく事態を飲み込んだように姿勢を正した。

「大生神様はそこのサリスフィーナ殿へ、力の譲渡をされただけではなく、契約をもされたのですか?」
『如何にも。サフィは我の最後の力の譲渡者であり、契約者だ。サフィが死ぬとき我も逝く』
「え!?」
そんなの初めて聞いたよ!

『我の治世は既に2000年を過ぎた。既に新たなる森の支配者神獣が誕生し全てを引き継いだ。今はその者が一帯を守護しておる』
「代替わりされたということですか」

クゥのことだよな?
あんなに小さいのに、あの森を統べられるのか?
ちょっと心配になる。

『その通りだ。我がコレを気に入り運命を共にすると決めた以上、サフィに手出しをする者を我は決して許さぬ』
シフォンは威嚇と威圧を全身に纏わせた。
部屋にいる大人が皆汗ばんでいるのがわかる。

「……シフォン」
シフォンが俺を守ろうとしてくれているんだ。
さっき言ったことが本当ならば、シフォンは俺のせいで寿命が短くなってしまったというのに。

『そもそもが川の澱みは王族の呪いが発端ではないか。王子の命を奪う呪いに御山殿が怒り、国を走る御山みやまの命泉の流れに影響が出たのだ。まずは呪いをおこなった者達を引きずり出し、御山殿の許しを得るのが先であろう』

シフォンは黒い川の理由を知っていたらしい。
てか国民が苦しむことになった原因が王族にあると、民が知ったらヤバくないか?
俺はそっと王様の顔を見た。

「な、なんと、それでは川の穢れはリキューリクの死と関係があったということですか」
王は目を見開いて呆然とシフォンの言葉に反応した。

『ん?王子は生きておるであろう?代わりになった御母堂が犠牲になったのだから。故に呪は完全とならず、穢れもあの程度で済んだ。もし王子が死んでおれば、この国全体が汚泥と化しておる。あの者は御山殿の愛子ぞ』

「は?」
部屋にいた人達の口が、ガクーンと開きっぱなしになった。
ここでも真っ先に意識が戻ったのは王様だった。

「なるほど相分かった。大生神様、情報に感謝しますぞ。ゼリフォン、リキューリクの捜索を開始すると共に、事件の洗い直しを始めよ」
「はっ」
王の目に薄っすらと水の膜が浮かんでいる。
「……そうか、生きていてくれたか」
王様、いい人だ。息子さん、見つかるといいな。

『それから我らがサフィに与えた土地であるが、サフィに何かあれば直ぐに森へ引き上げる故、心しておけ。欲に目を眩ませサフィから土地を取り上げれば、森の住民けもの達が一斉に町へ出て暴れるからな』
神獣に聖戦を宣言され、護衛達の顔が引きつった。
ああ、うん。あの領主、やりそうだもんなー、そういうの。
んで最終的に戦いの場に赴くのはお兄さん達だもんね、多分。

『それからルイベル川を浄化したのはサフィであるが、同じことはもうできん。あれは素質のあるサフィが、命をかけて川の浄化を願ったため叶ったのだ。その際サフィは1度死んでおる』
「え?!」
「は?」
おれ、死んでるの?!

『それを我が子が気に入ってサフィに命を継ぎ足しての。そのサフィの心の在り方に酷く感化された故、我が契約を結ぶに至ったのだ。正確に言えば、サフィは既に人のことわりから外れておる』
「え?!」
「は?」
俺、もう人間じゃないってこと?
いやいやいやいや、さすがにそれはないわ~。
びっくりしたー。
王様達を脅して揶揄からかうなんて、もうお茶目さん!

てか、それにしてもシフォンさん、衝撃な事実が多すぎない?!

「は、はは?ご、ごほんっ。あ、ああと、サリスフィーナよ……これで其方が川を浄化したと証明された。命をかけてまでの功労者に褒美を与えねばならん。報酬に何が欲しいだろうか」
やっぱり1番正気に戻るのが早かった王様がなんか言ってる。
え……と、褒美、ご褒美くれるの?!!
なんだろ。何がいいかな。
金とか物とかより、普通では得られない権力的なやつの方がいいよな。

…………あ!

「でしたら欲しい物があります」
「なんだ?可能な限り叶えよう」
シフォンの後ろ盾を得てしまったからか、若干警戒を含めた声音がする。

中洲ビアイラの人々のおよそ5年分の市民権を国で保証してください。航路が繋がらず払えなかった5年間の税を納めたことにして欲しいのです。急に交流が断たれたことで、親と別れたり死別したり、路頭に迷っている者がたくさんいます。彼らが5年分の税を納めることはとても難しいことです」
これが叶うならば、男衆みたいに命をかける必要がなくなる。
せっかく5年を生きて乗り切ったのに、明日からの日々に絶望など持たせたくない。
来年の分は今から頑張ればいいのだから。

「そのようなことでよいのか?其方の利になることがないようだが」
「利ならばあります。彼らは苦楽を共に乗り切った同士ですから、家族のようなものです。家族の幸せを願うのは当たり前のことでしょう?」
あまり望み過ぎると良くないからな。俺、悪役お兄ちゃんだし。
殺されないようにするためには、高望みは禁物なのだ。

「なるほど、これが大生神が保護したくなる清らかさということか。相わかった。川を浄化するのに必要な費用を思えば、中洲の者達の税くらい大した額ではあるまい。5年分の税の未納を不問としよう」

「あ、ありがとうございます!」
やたー!
これで心配事が1個減った!

「その代わりと言ってはなんだが、サリスフィーナよ。もう1つの川の浄化のため力を貸して欲しい。ついては魔法について学んだ方が良いであろうな」
「左様でございますね。せっかく浄化の才があるのですから学べば、ルイベル川のようにはいかなくとも、役に立てることでしょう」
うんうんと2人で意見がまとまったようだ。
俺の力が少しでも川の浄化に役立つなら手伝うとも。

「では、我が学院への推薦をしておこう。我が後見に名乗りを上げておくので安心して通いなさい」
は?
「あ、あの、俺、学校には行きたくありません」

「ん?なぜだ?王立学院といえば誰もが通いたいと望むのに誰でも通える場所ではない、誉高い場所であるぞ」
「それでもです。俺は勉強が好きではありません。もうそれはご褒美ではなく、罰です」
涙目で訴えると皆が信じられないと凝視しているのがわかる。

でも、でもな!
やっと学校が終わって大人時間を楽しんでいた身としては、もう学校なんて行きたくないだろ!

「ははははは!学業そのものに興味がないか」
「気持ちはわからなくないですが、勉強したくないとこうまではっきり言えるのは、平民の特権ですなあ」
「なるほど。これほどまでに価値観が違うものですか」

「だが、其方の家が商家であるならば、貴族と繋ぎを取るのもいいことだと思うが」
ああああ!そうだった!
俺ん家商家だったわ……。
やっぱりマズいかなー。
あー、うーん。

あ!

「あ、あの!それでしたら、弟を学院に呼んでください。学ぶことも好きだし向上心がすっごくあります。家を継ぐのも弟ですから」
「うーむ、わかった。提案を受け入れよう。だがサリスフィーナ、其方も通え。成績の関係のない研究生として魔術棟でその技術を磨くように」

えええええ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

コスプレ令息 王子を養う

kozzy
BL
レイヤーとしてそれなりに人気度のあった前世の僕。あるイベント事故で圧死したはずの僕は、何故かファンタジー世界のご令息になっていた。それもたった今断罪され婚約解消されたばかりの! 僕に課された罰はどこかの国からやってきたある亡命貴公子と結婚すること。 けど話を聞いたらワケアリで… 気の毒に…と思えばこりゃ大変。生活能力皆無のこの男…どうすりゃいいの? なら僕がガンバルしかないでしょ!といっても僕に出来るのなんてコスプレだけだけど? 結婚から始まった訳アリの二人がゆっくり愛情を育むお話です。

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

魔王の事情と贄の思惑

みぃ
BL
生まれてからずっと家族に顧みられず、虐げられていたヴィンは六才になると贄として魔族に差し出される。絶望すら感じない諦めの中で、美しい魔王に拾われたことですべてが変わった。両親からは与えられなかったものすべてを魔王とその側近たちから与えられ、魔力の多さで優秀な魔術師に育つ。どこかに、情緒を置き去りにして。 そして、本当に望むものにヴィンが気付いたとき、停滞していたものが動き出す。 とても簡単に言えば、成長した養い子に振り回される魔王の話。

【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜

亜沙美多郎
BL
 前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。  この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。  その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。  騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。  中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。  茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。  転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。  それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。  リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。  Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。  リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。  いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。 しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。 エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。 弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。 お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。 ♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡ ※独自のオメガバース設定があります。 ※予告なく性描写が入ります。

処理中です...