彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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30話 多すぎる情報

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「シフォン、ここに来て」
呼んでみて現れなかったら恥ずかしいなーと、小さく呟いた声を、目の前の王は聞き取ったようだった。
王の合図で彼の前に護衛が立つのと、シフォンが俺の横に現れるのがほぼ同時だった。
このひとやりおる。

「な、なぜここに神獣様が」
大生神オオウルカミ様といえば、ビアイラの森に住む伝説の神獣様ではないか」
「本物なのか?」

ただ、一斉にその場にいた者達がざわめいたことからもわかるように、王も護衛も驚いて止まってしまったけども。

『我は人の世に興味はないが、契約者サフィを害する者の排除には動くぞ。のう、人族の王よ』

「け、契約者だと?!」
そして思わず口を出してしまったと思われるのは、王ではなく横に立っているおじさんだった。
王は暫く言葉が出せなかったようだが、ようやく事態を飲み込んだように姿勢を正した。

「大生神様はそこのサリスフィーナ殿へ、力の譲渡をされただけではなく、契約をもされたのですか?」
『如何にも。サフィは我の最後の力の譲渡者であり、契約者だ。サフィが死ぬとき我も逝く』
「え!?」
そんなの初めて聞いたよ!

『我の治世は既に2000年を過ぎた。既に新たなる森の支配者神獣が誕生し全てを引き継いだ。今はその者が一帯を守護しておる』
「代替わりされたということですか」

クゥのことだよな?
あんなに小さいのに、あの森を統べられるのか?
ちょっと心配になる。

『その通りだ。我がコレを気に入り運命を共にすると決めた以上、サフィに手出しをする者を我は決して許さぬ』
シフォンは威嚇と威圧を全身に纏わせた。
部屋にいる大人が皆汗ばんでいるのがわかる。

「……シフォン」
シフォンが俺を守ろうとしてくれているんだ。
さっき言ったことが本当ならば、シフォンは俺のせいで寿命が短くなってしまったというのに。

『そもそもが川の澱みは王族の呪いが発端ではないか。王子の命を奪う呪いに御山殿が怒り、国を走る御山みやまの命泉の流れに影響が出たのだ。まずは呪いをおこなった者達を引きずり出し、御山殿の許しを得るのが先であろう』

シフォンは黒い川の理由を知っていたらしい。
てか国民が苦しむことになった原因が王族にあると、民が知ったらヤバくないか?
俺はそっと王様の顔を見た。

「な、なんと、それでは川の穢れはリキューリクの死と関係があったということですか」
王は目を見開いて呆然とシフォンの言葉に反応した。

『ん?王子は生きておるであろう?代わりになった御母堂が犠牲になったのだから。故に呪は完全とならず、穢れもあの程度で済んだ。もし王子が死んでおれば、この国全体が汚泥と化しておる。あの者は御山殿の愛子ぞ』

「は?」
部屋にいた人達の口が、ガクーンと開きっぱなしになった。
ここでも真っ先に意識が戻ったのは王様だった。

「なるほど相分かった。大生神様、情報に感謝しますぞ。ゼリフォン、リキューリクの捜索を開始すると共に、事件の洗い直しを始めよ」
「はっ」
王の目に薄っすらと水の膜が浮かんでいる。
「……そうか、生きていてくれたか」
王様、いい人だ。息子さん、見つかるといいな。

『それから我らがサフィに与えた土地であるが、サフィに何かあれば直ぐに森へ引き上げる故、心しておけ。欲に目を眩ませサフィから土地を取り上げれば、森の住民けもの達が一斉に町へ出て暴れるからな』
神獣に聖戦を宣言され、護衛達の顔が引きつった。
ああ、うん。あの領主、やりそうだもんなー、そういうの。
んで最終的に戦いの場に赴くのはお兄さん達だもんね、多分。

『それからルイベル川を浄化したのはサフィであるが、同じことはもうできん。あれは素質のあるサフィが、命をかけて川の浄化を願ったため叶ったのだ。その際サフィは1度死んでおる』
「え?!」
「は?」
おれ、死んでるの?!

『それを我が子が気に入ってサフィに命を継ぎ足しての。そのサフィの心の在り方に酷く感化された故、我が契約を結ぶに至ったのだ。正確に言えば、サフィは既に人のことわりから外れておる』
「え?!」
「は?」
俺、もう人間じゃないってこと?
いやいやいやいや、さすがにそれはないわ~。
びっくりしたー。
王様達を脅して揶揄からかうなんて、もうお茶目さん!

てか、それにしてもシフォンさん、衝撃な事実が多すぎない?!

「は、はは?ご、ごほんっ。あ、ああと、サリスフィーナよ……これで其方が川を浄化したと証明された。命をかけてまでの功労者に褒美を与えねばならん。報酬に何が欲しいだろうか」
やっぱり1番正気に戻るのが早かった王様がなんか言ってる。
え……と、褒美、ご褒美くれるの?!!
なんだろ。何がいいかな。
金とか物とかより、普通では得られない権力的なやつの方がいいよな。

…………あ!

「でしたら欲しい物があります」
「なんだ?可能な限り叶えよう」
シフォンの後ろ盾を得てしまったからか、若干警戒を含めた声音がする。

中洲ビアイラの人々のおよそ5年分の市民権を国で保証してください。航路が繋がらず払えなかった5年間の税を納めたことにして欲しいのです。急に交流が断たれたことで、親と別れたり死別したり、路頭に迷っている者がたくさんいます。彼らが5年分の税を納めることはとても難しいことです」
これが叶うならば、男衆みたいに命をかける必要がなくなる。
せっかく5年を生きて乗り切ったのに、明日からの日々に絶望など持たせたくない。
来年の分は今から頑張ればいいのだから。

「そのようなことでよいのか?其方の利になることがないようだが」
「利ならばあります。彼らは苦楽を共に乗り切った同士ですから、家族のようなものです。家族の幸せを願うのは当たり前のことでしょう?」
あまり望み過ぎると良くないからな。俺、悪役お兄ちゃんだし。
殺されないようにするためには、高望みは禁物なのだ。

「なるほど、これが大生神が保護したくなる清らかさということか。相わかった。川を浄化するのに必要な費用を思えば、中洲の者達の税くらい大した額ではあるまい。5年分の税の未納を不問としよう」

「あ、ありがとうございます!」
やたー!
これで心配事が1個減った!

「その代わりと言ってはなんだが、サリスフィーナよ。もう1つの川の浄化のため力を貸して欲しい。ついては魔法について学んだ方が良いであろうな」
「左様でございますね。せっかく浄化の才があるのですから学べば、ルイベル川のようにはいかなくとも、役に立てることでしょう」
うんうんと2人で意見がまとまったようだ。
俺の力が少しでも川の浄化に役立つなら手伝うとも。

「では、我が学院への推薦をしておこう。我が後見に名乗りを上げておくので安心して通いなさい」
は?
「あ、あの、俺、学校には行きたくありません」

「ん?なぜだ?王立学院といえば誰もが通いたいと望むのに誰でも通える場所ではない、誉高い場所であるぞ」
「それでもです。俺は勉強が好きではありません。もうそれはご褒美ではなく、罰です」
涙目で訴えると皆が信じられないと凝視しているのがわかる。

でも、でもな!
やっと学校が終わって大人時間を楽しんでいた身としては、もう学校なんて行きたくないだろ!

「ははははは!学業そのものに興味がないか」
「気持ちはわからなくないですが、勉強したくないとこうまではっきり言えるのは、平民の特権ですなあ」
「なるほど。これほどまでに価値観が違うものですか」

「だが、其方の家が商家であるならば、貴族と繋ぎを取るのもいいことだと思うが」
ああああ!そうだった!
俺ん家商家だったわ……。
やっぱりマズいかなー。
あー、うーん。

あ!

「あ、あの!それでしたら、弟を学院に呼んでください。学ぶことも好きだし向上心がすっごくあります。家を継ぐのも弟ですから」
「うーむ、わかった。提案を受け入れよう。だがサリスフィーナ、其方も通え。成績の関係のない研究生として魔術棟でその技術を磨くように」

えええええ。
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