ゲームの世界はどこいった?

水場奨

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番外編

5話 譲れないもの

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(side ガルバドゥス)

幼い時から魔力が多かった俺はそのせいでよく寝込んでいた。そして熱に魘されながらみる夢の中で、繰り返し現れる夢があった。
内容は夢であるからかかなり変わっていて、毎回出てくる人物は5人。その中には大人になった己であろう人物も必ず含まれていた。
その内の1人は身につけている垂布の色から王族だとわかったし、剣士は髪の色が鮮やかな赤であることから異国の者だろうと推測できるような、変わった夢であった。

詳しい内容は目が覚めると忘れてしまうが、自分は魔術を使いこなして彼らの盾となっていて、夢の中ではあるが讃えられたり頼られたりすれば誇らしく思えた。
他にも帝国の教会治癒士と賢者と呼ばれる学者がいていろいろな土地を巡り、各地で何かを成し遂げていたのだ。
いつしか夢は夢ではなくなりいずれ現実に起こるのではないかと思うこともあった。
もちろん、自分のような片田舎の平民が、王族や異国の剣士と関わることがあるわけがないとはわかっていたのだが。

そんなある日、夢の内容に変化があった。
どうしてそうできたのかわからないが、国の守護精霊である火焔鳥を孵化させることに成功する夢であった。
普段は目が覚めるとおさまっている興奮も、その日はその高揚のまま目覚めたことを覚えている。

だがそれが自身の運命をこんなにも変えることになろうとは、その時には思ってもみなかった。

「ガルバドゥス、大丈夫か?」
「あ、ああ。続けてくれ」
深く考えこんでいたせいか、話の流れを止めてしまっていたらしい。

「俺は帝国を憎む気持ちはあるが関わりたくない思いの方が強い。このまま距離を保ってお互い不干渉を貫く方が良いと思うが」

「何をほざいてるんだ!!欲にくらんだ王族のせいで、我らにどれだけの被害が出たと!!」

「同胞の恨みは晴らしたいが、今ある仲間をこれ以上死なせるわけにはいかん」

毎日、毎日、俺らはどうにかして帝国に一泡吹かせてやりたいと、議論ばかりしている。
俺だってできるものならしてやりたいさ。
けど、帝国は偉大だ。
そう簡単にやり込められるわけがない。

皆、わかっていても諦められないのだ。
多くの同胞が殺されたからな。

だが皆の想いと俺の考えには隔たりがある。
もし、俺の魔力がこれほどではなかったのなら。
もし、俺が予言された魔術師でなかったのならば。

そうであったのならば、こんな惨劇は起きなかったのではないか。
あれほどまでに誇らしく思っていた夢の出来事が、ただの悪夢に成り果てるとは誰が想像できただろうか。

あの日、教会の巫女が俺を『火焔鳥を孵化させる魔術師』だと告げにきた。
彼女は夢に出ていた治癒士であった。
彼女はその後、学者にも報せに向かうと言って旅立った。
他にも仲間がいるだろうとただせば、いるにはいるのだが皇子と剣士についてははっきりと誰だとはわからなかったと答えた。
それを少しだけ残念に思った。勝手に彼らを魂から深く結ばれた仲間だと感じていたからだろう。

まあでも彼女もお告げでその姿を見たとするならば、いずれ会える、とその時はそれを楽観視していた。

そして火焔鳥の孵化について研究するために、俺と学者は巫女のいる王都へと集うことになった。
学者の知識は凄まじく、言っていることの半分もわからなかったが、いずれ彼なら本当に孵化に成功するであろうと疑わなかった。

孵化には長い年月で傷ついた火焔鳥の卵を癒す巫女の力と、孵化するために必要な魔力量を持つ俺が必要らしく、俺と彼女は学者に言われるがままに卵と接していた。
俺と彼女が傷ついた卵を癒す間、学者は卵を起こす呪文とやらを解読するために書物を広げていた。

巫女は稀有な治癒の魔法を使えたが魔力はそれほど多くはなく、かといって口吸いなどで譲渡するわけにもいかず、手を重ね合って行う魔力の譲渡が非効率だったため、作業はゆっくりと進むことになった。
学者はそれを『ワシもそんな簡単にわからぬから』と責めることは一切なかった。

そんな穏やかな日々に暗雲が立ち始めたのは、研究のための部屋にフォルムルト殿下が顔を出したことがきっかけであった。
殿下は孵化した火焔鳥を自分に寄越すよう、加護を己に与えるよう迫ったが、火焔鳥は人間に制御できるような存在ではなく俺達は酷く困惑することとなった。

それを皮切りに事態は急変した。

学者は真実真理を突き止めることに生涯をかけていた。
巫女は清貧で平かに人々を癒すことを望んでいた。
俺は2人とは違い、贅沢や名誉に左右される人間であったが、その頃には学者を第2の父と、巫女を愛しいひとと定めていた。
2人に軽蔑されるくらいなら、寄越される金銀財宝に手をつけぬくらいには傾倒していた。
だから彼等からの甘言には乗らず、2人と足並みを揃えることにしたのだ。

そして状況は変わった。

懐柔できぬのならばあとは脅嚇きょうかくあるのみ、と。
親や兄弟、親しい友人らが捕らえられた。
酷い拷問を受け息絶えて行く家族と仲間を目の前に、俺の心は折れた。

そんな俺に学者は言った。
お前達は彼等にくだれと。
学者の知識なく孵化は成らない。
お前達だけでも恭順を示して、この難を逃れよと。
学者を悪に仕立てれば良いと。

こんな境遇となっても、学者は学者であった。
神聖なる火焔鳥を欲にまみれた彼等に渡すことはできない。
あのような輩ではなく今上皇帝に、皇太子にこそ火焔鳥はふさわしいのだ、と。

だが俺は初めて学者の言葉に賛同できなかった。

皇帝が、皇太子が、この状況を放置しているのは何故なのか。
俺らを選んでおきながら、この過酷な現実に叩き込んだ神とは一体どんな存在なのか。
火焔鳥など存在しなければ、これほどの無念にあうこともなかっただろうに。

捕らえられた学者を国に置いて、泣き崩れる巫女を抱えながら俺は逃げた。
学者の研究のこしたモノは、誰にも奪われないよう全て焚書した。
火焔鳥の卵も全て割ってしまえと床に叩きつけたが、真っ黒な石になっただけで割れることはなかった。

この卵が誰かの手に渡った時どうなるのか。
既に中身は死んでいるかもしれないが、巫女と2人で癒した卵が簡単に死ぬとも思えず、また、自分で床に叩きつけておきながら死んでほしくはないとも思え、真っ黒になった卵を置いて去ることができなかった。

これは俺らの絆と犠牲の証なのだ。
他の誰にも、あの王族達にこの火焔鳥を所有する資格など有りはしない。
故に卵は袋につめて持ち去ることにした。

そして道中、何度も夢の仲間が手を差し伸べてくれるのではと期待しては、そんなことが起こるはずもなく、落胆することになった。

こうして俺らは生き残った仲間と共に帝国を抜け、北の部族に拾われたのだ。
北の部族は奔放で自由だった。
強い者が正義だとばかりの喧嘩っ早さには辟易するが、行き場のない俺らを快く迎えてくれたことには感謝している。

始めたばかりの農作業でまだ食うのに困ることはあっても、誰にも何も強制されはしない。
帝国の近くに小さな家と土地を譲り受け腰を据えた俺らは、やっと命を奪われない安堵を得たのだ。
そしてようやくこれまでの恨みや悲しみを口にできるようになった。

幼い時から今もまだ見るこの夢は、一体なんだというのだろう。
願わくば彼らが俺らに気がついて『よお兄弟、大変な思いをしたな』と肩を叩いてくれやしないだろうか。
俺らの仲間を屠った王族を、夢の皇子が成敗してはくれないだろうか。

何としてでも一矢報いたい者達が、今日も帝国まで走る。
俺はそれを見送りながら、あれ以来体調を崩し気味の巫女つまに寄り添い、空を仰いだ。





ーーーーーーーーーー

ヒイライビから見える世界とガルバドゥスから見える世界は、それぞれの立場からだいぶ違うものがあります

なんかシリアスが続いておりますが、番外編なのでコミカルにサクッと終わる予定です
主人公がナローエなので重い話になりようが無いともいいますが……

※直しを入れようとしてなんかおかしなことになりました
誤作動有りましたらすみません
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