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山芋とアスパラガスは仲良くなれない
しおりを挟む唐突にもほどがある。
何故彼女がその幽閉されている禍々しき白銀を綺麗な星空広がる素晴らしき今日という今日に限って許容してしまったのかは
わからない
おそらく一生わからない。
そう思って目を閉じた。
草木の香りが鼻腔を若干掠めたかと感じてからおおよそ2秒後…
重い衝撃が音となって澄んだ空気を震わせて鼓膜に届いてきた。
あまりにも重厚なその音は衝撃にさらに重さを加えて
僕の鼻や歯を震わせた。
痛みが来る。
生きている証拠だと髪を撫でる風に言われているかのようだ。
学校の屋上で僕は好きな彼女に
刃を向けている。
本当だったら、
こんなことしなくたって
良いはずなのに、
どうして彼女はその刀を、抜いたのだろう。
問いただしたいはずなのに
彼女の目を見て僕は沈黙を貫くことしかできない。
否、沈黙を貫いていた方が楽だと感じた。短い時間ではあるかもしれないけれど 心に痛みが幾度のとなく矢のように飛んでくることから避けられるとそう感じた
目を閉じてからどのくらいの時間で僕がその行動に
移ったのかは不明だ。
意思なんてものはそこにはなかったんだと思う。
次に目を開いた時には
火花が散っていた。
しっかりと彼女の振るった刀を僕は自分の剣で 受け止め一瞬の隙を読んで火花ごと切っ先を削ってその刀を跳ね除けていた。
いや
、確かに刀ではあるのだけれど、
少し違うのかもしれない。
刀なのだけれど風貌は、確かに刀ではない。僕の刀は少し変わった形状をしている。
どこかみずみずしく青々と…
まるでアスパラガスのような…
否、アスパラガスである。
僕は彼女から漏れ出てる紅いオーラを不気味なほどに纏ってるその刀を
どこからどう見てもアスパラガスな刀、通称、
『パラ尾』で斬り返した。
不思議なことにこのアスパラガスはスーパーで売っているどのアスパラガスよりもアスパラガスガスしていて強固な壁と勘違いしてしまうほど頼もしく強固な素材で出来ていた。
美味しいのかはわからないが
どこから香ばしい香りもする
いっそのこと齧ってしまおうか…硬くて歯が砕けそうだから湯がいてみようか…僕がそんなこんなことを考えて少しほくそ笑んだその時だった。
彼女が刀を地に刺したかと思うとポケットから
アスパラガスを取り出し
かぶりつき始めた。
これはおそらくぼくの刀など食べるに足らないアスパラガスだと
侮辱しているが故の
行動なのだろう
彼女はアスパラガスをガスガスガスガスと噛み続けると再び刀を手に持った。
何もつけないでアスパラガスを食べた彼女はどこかたくましく
凛々しかった。
僕はそこで敗北したような
気がした。
マヨネーズをつけずにあの
アスパラガスをガスった彼女の強靭な心に敗北した気がした。
味付けなどいらない
愛さえあれば
なんでもできる。
彼女はいつもそのようなことを口にして山芋を生でかじっては
読書をしていた。
懐かしい思い出だが、正気を失った彼女がまだ正気を取り戻す可能性があるということをアスパラガスを生で口にしたという事実が物語っている気がして…
僕は少し安堵した。
そして再び強く、強く僕も
アスパラガスを握りしめ構えた。
キィィ
ドアが開いた。
彼女と僕が再戦しようと刀を構えてから3秒後のことだった。
ドアから姿を現した人物をみて彼女は刀を地に落とした。
そこにいたのは、
彼女がよく齧っていた山芋を作っている農家の山田さんだった。
『や、山田アンソニー太郎さん…ど、どうして…』
彼女の目が驚きと正気を取り戻した。
僕は現在の状況がよくわからない。
…がしかし、
一つだけ分かることがあった。
山芋農家のアンソニーさんが
僕のアスパラガスを殺すような目で見ていることに、
それもそのはず山田アンソニー太郎は 2年前アスパラガスを愛でて添い寝する会の会長と幹部ら合わせて十人を伝説の山芋刀カユミで病院送りにしているのだから…
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