アニンバイツ

飲杉田楽

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過去の章~赤い雨季~

17.その世界で生きていくことは何よりも難しいようだった

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散乱した瓦礫達が足元を
すくい上げるように 
底にころがっているためか、
人々はこのスーパーに
足を踏み入れようとはしなかった。
もし、異形達と 鉢合わせして
しまったらと
想像し、畏怖したからだろう。

しかし、
そんな事は
どうでもいいとばかりに
八田は 歩みを進める。
彼に恐怖という概念はあるが、
周りは怖いもの知らずだと
彼を引き目で見ている。

八田は 生まれつき 左目が見えない。
そのため、左目の黒目が薄く
白内障のようになっていた。
外見で判断してしまうのは
人としてしょうがないことだと
八田自身、
承知の上だったが、
案外、
周りから遠目で扱われる程
無念なことはない。
今となっては鋭い目つきで
周りの外見でしか判断できない
もの達を凝視し、
威圧をかけることなど
容易いことだったが、それでも
幼い頃その目のせいで、
バケモノ扱いされかばった友人が
複雑骨折した形で発見された時は
絶句した。

そんな過去を持つ 悲しき青年は
それから、ずっと1人で、その左目を
隠すことなく、生きてきた。
そして誰よりも冷たく、
誰よりも残酷な心を持ち、
二度と傷つかないようにと
強く願い、独り生きてきた。
勝呂に会うまでは…

おおよそ、一ヶ月前だった。
異形達が それまで均衡を保っていた
青年団のアジトを襲った。
理由は 死体だった。
死亡者は焼かなくてはならない。
そう定められていたわけだが、
彼女を 事故で失った独りの男が
離れたくないという身勝手な一心で
死体を腐るまで取っておいたのだ。
嗅覚が最も敏感とされる
異形徒達にとって、死体の匂いなんてものは
目をつむっていても理解できる。

結果アジトの中にいた、
生存者は死亡、帰還した八田は
独り、絶望した。
かといってそんなに悲しくはなかった
ただひたすら食料調達を行ってきた
八田にとって仲間なんてものは存在するせず
あたり一面に転がったしっとり濡れた
赤い肉塊も、大して心を揺さぶったりは
しなかった。
が、   やはり
、死の匂いは強烈だったのだろう

もうすでに食い散らかされた
青年達の骸に寄ってたかろうとする
醜いその異形達が  この場で唯一生存している
八田を発見したのだ。
『いた、、、、いだぁぁぁぁ!肉っ!』
野蛮人と化した人間達にとって、
殺すこと、食べることの他に
思考する余地はなく、
その
内出血をしたかのような
ボコりと腫れ上がり、赤紫に染まった
足を高速的に回転させながら、
呆然と立ち尽くす八田に
三体の異形が唾液を撒き撒き散らしながら
あたりに転がる臓物を完全に無視し、
蹴り散らかしながら、汚い足音を
鳴らしながら迫ってきた。

八田は 少し錆びかかってはいるものの
鈍器としては優れた才能を発揮するであろう銀色の光沢を途切れ途切れに放つ
鉄パイプを右手に握りしめ、
ドタバタと 、血を撒き散らしながら
手を伸ばす 醜くなった男の足首に
取り敢えずといった感じで
自分の足をねじ込んだ。

床にびっしりと染み付いた血液達が
潤滑剤として機能していたため、
ちょっとした抗力でも
冷静さを失い血肉を求める汚れた男を
転ばすことなど朝飯前だった。
続いて迫り来るは、
赤い鮮血でずぶ濡れたシャツを着た女。 

とはいえど、 性別など異形には関係のないことだと、思いながら 血豆によって
硬くなった右手にしっかりと握りこんだ
鉄パイプの先端にある
腫れ上がった部分をそのみすぼらしい
女の顔面めがけて振った。

鈍い音がするかと思っていたが
案外何も入っていない空箱を殴ったに
等しいくらいの音が少しばかり響くだけで
八田は 返り血を浴びないようにと背中を
向け、すでに目の前に飛びかかろうと
両手を挙げ迫り来るう30代くらいの
中年男性の異形を
左手に持っていた バリバリに冷凍されていた
冷凍食品を詰め込んだスーパーの袋で
ぶん殴った。

半円を宙に描いた袋が遠心力によって
猛スピードで 男をの頬骨を砕きそのまま
返り血を浴びた業務用冷蔵庫のドアノブに
誘導した。

銀色に尚のこと輝きを保つそのドアノブに
鼻を粉砕された男は喘ぐ、が
そんな声聞きたくない、と八田は間髪入れずに右手で 先端が絶賛真っ赤に染まり中の
鉄パイプで男の後頭部を再度
フルスイングした。

肉片がまだ淹れて間もないであろう
湯気を吐き出すコーヒーの入った
マグカップへ
見事に注がれ
他の肉片と どす黒い液体達も辺りに
飛び散っていく。 

しかし、
完全な骸と化したその男の下から
鬼のような形相で唸りを上げたのは
女の異形徒。

鋭く尖った爪は割れてはいるものの
食らったら完全にこっちがウイルスに侵食されるのは一目見ただけで確認できた。
八田は、冷静にそして軽快にバックステップして その女の元はピンク色で会ったであろう鋭い爪の切っ先をするりとかわすと
左手に持っていた冷凍食品入りのビニール袋を隣のオフィス用のデスクの上に投げ、
両手で 血液が滴り落ちる鉄パイプを
握りしめ、構えた。

返り血がびっしりついてしまっている
その鉄パイプにはもう光沢は存在せず
気持ちの悪い滑り気のみが鉄パイプを握る
八田の両手のひらから身の毛がよだつほどの
 悪寒を伝達していた。

大きく足を開き、タイトスカートが
捲れることなど気にする素振りもみせず
女だが、女として生きることを止めた
忘れた、または人間としての記憶を
失った亡者が 八田と対面する。
そして、その後ろで先ほどまで足をひねって倒れていたもう1人の男も白目をむきながら
まるで、野良犬ように 歯軋りを奏でながら 
低い姿勢でこちらを見据えてくる。
そんな2人、否、二体の異形を
右目で睨めつける八田の顔は
人として形容しがたい相貌をしていた。
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