哀れな私記帳

みのり

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中編

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  十一月二十日
 十七日まではレストランの廃棄物を食べてた。たまに食べ残しがあったりして、肉が食べられたんだ。今日も廃棄物を物色しようと向かったわけだけど、なかったんだ。ゴミを溜め込んでたコンテナが回収されて、食べられるような物がなかった。街中のどこに行ってもコンテナがない。一斉に回収されてしまったようだ。
 三日も食わず、空腹は絶頂だったのが良くなかった。
思考が回らなくて、気がついたときには、凄惨というほかなかった。ああ、今思い出しても愚行に対して吐き気がする。あれほどシャワーで洗い流したはずなのに、仄かに残る血漿の香りが鼻腔をくすぐる。自分が立っていたのはグミエ通りの肉屋だった。二週間前に強盗にあったという場所だ。自分は窃盗という大罪を犯してしまった。ガラス窓を突き破って、色んな肉を片っ端から食い散らかしてた。初めてその店を訪れたとき、一目したときから初任給が入ったなら購入しようと楽しみにしていたハムの原木、天井から吊るされてて見るだけで面白かった丸焼きチキン、そして棚に並ぶ部位の品々。それら全て、意識が朦朧としていた自分が食べ尽くしていたんだ。生肉の鮮血が口髭や手足の毛にまとわりついていた。一体何キログラムもの肉をこの胃に収めたのか皆目見当もつかない。
それでもなお、お腹は満たされちゃいないんだ。喰うことに渇望してる。二度寝しても三度目を願うように、さらなる獲物を求んだ。こんな事を考えていると、またヨダレが溢れてくる。このヒビの入ったグラスみたいな口は、唾液を漏れ出してしまう。飲み込むのが大変なんだ。
実は二週間前も自分が襲撃したんじゃないかって思う。もう、二件も窃盗をしてしまったのではないか。私はもう救いようのない獣であるのだろう。いっそ、このまま野生の狼として自然の中に住んでしてしまったほうが自分、ひいては皆のためなのかも。幸い近くにカランク国立公園もあるんだ。でも、それは良くない。
おやすみ、ミシェル
  自分に言うのは擽ったい


十一月二十一日
この苦しみを私一人で背負い込む必要はないえのかもしれない。告解のために私は懺悔室に初めて足を踏み入れた。シスターはどこまでも澄んだ温かさを持ち合わせていた。これまで、どんな物を口にして生きてきたのか話しているうちに、また津波のような空腹が訪れた。その日も生ゴミだろうと口にしておくべきだった。
どこからか、いい匂いが鼻を撫でていった。甘美で芳醇な油の匂いだ。その匂いから色々な情報が入り込んできた。水のように柔らかな肉、バターのように舌の上で溶け出す上質な油、普段から肉だけではなく野菜も摂取したバランスの良い欠陥のない筋細胞だって、匂いで分かった。そして仄かに香る雌の匂いとバラの香水。思い出すだけで今もヨダレが溢れてきてしまう。
おかしいんだ、食べてしまうなんて、人間を。普段の豚や牛を食べるように、なんの抵抗もなく食べてしまった。懺悔室のパーテーションが蹴り破られていて、そのわずか三畳ほどの空間で襲ったのだ、彼女に悲鳴の一つ挙げさせること無く。その後は、腹を膨れさせたライオンがそうするように、帰巣し始めたんだ。
他人事みたいに言ってるけど、全て私なのだ。でも私という意識は何者かが襟を抓み、身動きが取れなくなっている。
それから、屋根伝いに帰宅してたんだ。もう、この頃には真っ暗闇でも昼間のように景色が見れた。そのような視覚を持ち合わせてたからこそ、親友を見つけてしまったんだ。
悪友と車で移動していた。彼がしてくれるであろう助けの数々を想像しながら、彼らを追いかけたんだ。

車の行く方向からしてパトリスの自宅方面だと考えたので、街を横切るようにして、先回りをはたした。パトリスが友人らを見送ったあと、自宅に入ろうとするパトリスに私は「やあ、パトリス」と声をかけたんだ。彼は私に会いたくなかったとでも言いたげにゆっくり振り向くと、突如として走り去ったんだ。去ったと行っても見逃してはいない。この狼の強健ではいとも容易く追いつけてしまうのだ。また、パトリスに声を掛けても無視されてしまう。
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