Citrus 柑橘探偵

みのり

文字の大きさ
5 / 16
1幕 白峰高校殺人事件

5話 第二の犯行

しおりを挟む
一晩が明けて家から出ると外は雨がポツポツと降っていた。
 雨は嫌いだからと早く現場に向かう。

 校門の前に来た時、1人の男子生徒が学校の中に入っていった。
 まだ、学生が来るには早すぎる時間だった。
 ただ、部活かなんかだろうと思い見逃していた。

「おはようございます」
 朝一で聞いたのは予想をしていた通りに奈津子さんだった。
 でもお互いに朝だからか、静かに挨拶を交わした。

「それなんですか?」
 やはり、犬やら猫やらは鼻がいいようで、持っていた紙袋に目をやった。
「見ます?犬は柑橘苦手だと思いますけど」
「犬じゃない、馬鹿にすんな」

 そういうもんだから、紙袋を開けて中を見せた。
「何ですかこれ、レモンですか?」
 柑橘は少しだけ苦手なようだ。顔が酸っぱそうだ。
「レモンだよ。食べたくなったんだ」
「にしても量が多くはないですか?何十個入ってるんですか?」
 紙袋を指でツンツンしている。一体なにをしたいのかは分からないが、なんとなく可愛い。

「8個だよ」
「へぇ、そんなに食べるんですか」
 そういうと、また現場の検証に戻っていった。

 昨日、俺が気絶していた間に松原さん達が推理材料を探していてくれたようで、その内容を昨夜メールで送ってくれていた。

 今日も学校は通常通りに開校するようで、体育館には立ち入り規制がかかっていたので安心だった。
 体育館は為の打つ音が拡張されて響いている。

 事情聴取も終わり、残すはこの現場にある物だけだ。この事件に関しては捜査一課もお手上げだろう。それほど、完璧に近かった。

「解きますか」
 体育館の真ん中に座り込み、目を瞑る。
 ビデオを再生させるように事件に推理を立てていく。

「やっぱダメですね」
 俺が諦めたのは一分も経たなかった。
 逃走の足取りが取れなければ何も手がつけられなかった。

 松原さんと話をしていると、学校のチャイムが鳴った。
 学校の予定表を貰っているから時間を見ると、始業の時間だった。

「チャイムも鳴ったし、気を入れ直して証拠を探すか」
 松原さんの音頭で再び探し始める。
 ステージの上に吊るされている金網の橋を改めて調べると、ホコリのついていないところがあった。
 橋の側面に値するところだった。
 背景より壁側にはホコリが付いており、コントロール室に向けて所々ホコリが無かった。

「松原さん、犯人はやはりココを通って逃げたみたいです。不規則にホコリがないところがあります」
「そうか、でもまず仮にそこを通ったとして、そこからどうやって鍵を開けたっていうんだ?」
 脚立の下から松原さんが聞いてくる。

「犯行がコントロール室にいた東君である確率があります」
「いや、それは不可能だ。コントロール室と繋がるドアは特殊で内鍵がない。外から開けるにも、うちから開けるにも先生が所持していた鍵が必要だ」

 鍵が必要か。また厄介な。先生は校長先生と常に隣にいたと聞いている。周りの人間も証言しているから、先生の関与はない。

 誰かが鍵を盗んだとも言い難い。

 物思いに耽っている時、体育館の入り口から男性の先生が走って来た。
「警察の方!生徒が死体で見つかりました!」

「なんだって!いま行きます!」
 松原さんが警察らしく言うと、奈津子さんと1番に駆けて行った。
 僕もすぐに後をついて行く。体力的問題ですぐに差が開いたが、かろうじて見失わなかった。

 集まる生徒達を掻き分けて、案内されたのは、教室が1つもない5階の男子トイレだった。
「ここの1番奥です」
 先生達がトイレの前に集まっており、恐怖で震えていた。

「奈津子、警察を呼べ。名探偵、一緒に来てくれ」
「分かりました」
 そう言うと、松原さんは白い手袋をはめてトイレの中に入って行った。

「これは、悲惨だな。個室いっぱいに血飛沫が飛んでいる。」
 1番奥の個室は洋式トイレで、便座の上に座り込むように死体があり、まるでペイントされたように個室が赤くなっていた。
 そして、殺されていたのは今朝見かけた男子学生だった。

「でも、この現場おかしくないですか?なんで、犯人のいたであろう場所にも血飛沫が付いてるんだろう。これじゃあ、犯行は人じゃない」

「言われてみれば、そうだな。じゃあなんだ、この壁の血は。血じゃないのか?」
 しかし、壁に着く色は血の色だった。生臭い鉄の匂いもそのままにする。

「松原さん、ハンカチを貸してもらえませんか?」
「なんだ?気持ち悪くなったのか?」
「いえ、そういうわけでは」

 松原さんからハンカチを受け取ると、ハンカチで壁の一部を拭き取った。
「おい、あんまり現場をいじるな」

 そんな警告も無視して元の色が見えるまで擦る。
 こんなもんかな?

 ハンカチに付着した匂いを嗅ぐと、それは血の匂いじゃなかった。
「これ、血糊ですね。全部が血なわけじゃないと思います」

「なんで、わざわざ血糊を塗る」
 確かにそうなんだ。被害者のダイレクトメッセージでもあるのだろうか。でも、こうもなっては血と血糊を分けるのが大変だ。

 もし、ダイレクトメッセージじゃなかったとして、だとしたら、捜査の撹乱。

「分からないです。でも、いま分かるのは、恐らくこの被害者がビデオテープの持ち主です」
「なんで分かる」
「この被害者の左手には盗まれたのと同じサイズのメモリーの形だけ血がない」

 皮の厚い彼の手には唯一皮膚が見えるようにメモリーの形があった。

「犯人はメモリーを奪うために殺したということか?」
「そう考えるのが妥当でしょう」

 メモリーの行き場は分からないので、まずはこの人の人間関係を洗うのが良いだろう。
 そうすると、恐らくは東君が捜査線上に浮上するはずだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...