前世を思い出したら超絶ドアマットヒロインになっていたんですが。

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レイヴン

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「建国祭…」
「うん、大丈夫だよ、今は休んでて」

小さな声で呟くユフィに返事をして、ソファに寝かせる。締め切った部屋の中には鉄の臭いが充満していた。

窓を覆ったカーテンを勢い良く引くと埃が舞う。

「ケホッ……掃除くらいしてよ…」
「えー、でもさー掃除させたら物の場所分かんなくなるしー、本が日焼けしちゃうし…仕方ないんだよぉ」
「はぁ…叔父さんの血のせいで彼女の気分が悪くなったんだよ」
「そうかなー?僕は光の魔力の匂いしかしないけど…この子、魔法も凄かったけど…魔力がすごいよねっ、それにまるでヒトじゃないみたいな量の魔力をずーーっと垂れ流してる」

埃が飛ばないようにゆっくりと2つ目の重いカーテンを引いて窓を開けると、かすかに土の香りがする。

フィの治癒魔法は初めて目にするものだった。ユフィの手に包まれた叔父の傷がみるみるうちに塞がっていた。

それに、空気が暖かくなるあの感じは抱き合った湖を思い出す。それだけではない。ユフィはあの包むような温度を常に纏っていた。

「あれが魔力だっていうの…?」
「うんうん…やっぱり光魔法使いってバケモノみたいだよねー、それに魔力制御も出来ていないみたいだし…学園に通った方がいいだろうねぇ」
「勝手なことはやめてよ」
「あははっ…言っとくけどー、君もだよ?今は僕の弟子って立場になってるけどさ、どっちの家も継ぐ気がないならいつまでもここには置いとけないよー?僕も息子を準備しないといけないし?……あ、なんだか体の調子も良くなったみたい、ちょっと実験してくるねー」

ケイルがすっかり傷のなくなった手のひらの上に、3つ程、重なった魔法陣を展開させるとその場から一瞬にして姿を消した。

「ねぇ…フィ、フィはどうしたい?」

ソファの上で寝息を立てるユフィの頬に触れると、柔らかくて暖かな感触が手に伝わる。窓を開け、冷たい空気が入り込んでくるのにユフィに触れるとその寒さも痛さも感じなくなる。

この暖かさを知っているのは僕だけで良かったのに

ユフィに特別なちからなんてなくていい
僕が暖めるから、ただ僕の前で笑って、僕が涙を拭いて、僕のことで怒って、僕の胸で眠って欲しい

ユフィに魔力なんてなければいいのに

「ん…ヴィー?」
「起きたの?もう少し寝ててもいいよ」
「いいえ、大丈夫よ」

おかしいな、フィはいつだって僕の顔を不安そうに覗き込んでいたのに
どうしてそんなに平気そうな顔をするの?

「…」
「ん?どうしたの?フィ」

ユフィが顔を近づけてくる。真意の読めないその行動に、ニィっと笑ったその口元から挑発されているような気がして、恐ろしくなる。

ユフィが僕の心の奥底を暴こうとしている気がした。その顔には怯えも恥じらいもない。

ユフィなのにユフィじゃない

唇に生暖かい空気がぶつかって、思わずその顎を掴んだ。

「…誰?」
「ヴィー、痛いわ」
「違う」
「……ふふ、あなたが抱えているその素直な気持ちを教えて?」

手の甲を這うユフィの手は相変わらず愛しさを募らせる温度で、その赤い瞳はユフィに対する僕の想いや執着に期待しているような…そんな興味で輝いている。

「おかしいわね…まだ子供だからかしら…」

懐疑的な顔のままのレイヴンに興味を失ったユフィが顎に置かれたレイヴンの手を払い、ため息をつく。

「ねぇ、ヴィー!私行きたいところがあるの!」
「……」
「大丈夫よ、すぐに戻るわ」

ユフィが指差したのは森の奥。レイヴンは誰もたどり着いたことのない精霊の森のことを思い出した。レイヴン自身も奥深くまで入ったことがあるが、足場は悪く、生い茂る草木のせいで深い溝や崖があることにも気付きにくい場所だ。

「きゃっ」

蔦のように伸ばした魔力をユフィの足首に纏わせて、その動きを止める。

「…お前」
「ちょっとぉ…ヴィー!怖いわっ、離してっ…ひぃ」

魔力を手繰り寄せ、ユフィを再びソファに座らせるとその細い首を掴んで、片手で黒竜の血が入った瓶の栓を抜いた。

「お前、精霊か?」
「ヴィー、お願いやめて、何するの?」
「ふーん、ちょうどいいや」

馬乗りになり、ユフィの顔の上でガラス瓶を傾けると必死に抵抗して、まぶたをぎゅっと閉じる。ユフィの眉間に零れた血はすぐに青くなって目頭に溜まる。

「目を開けてくれないと、どんどん苦しくなるよ?」

やわやわと下顎に指が沈んでいく。少し息の荒くなったユフィの顔が徐々に赤くなり、レイヴンの手が止まった。

「フィ…戻ってきて」
「おね、がい…手をは…な、して」

レイヴンが手を離すと、ユフィが自分の顔を手で覆う。暖かい空気が流れてくるのを感じる。恐る恐る覗いてみれば、瞳は赤いままだった。

「もうっ…こんな汚いものを私にかけないでよっ」
「瞳の色が紫に変わらないのなら……眼球を取ればいいだけだよ」
「…い、いやよ?」
「………」
「…どうしましょう、うーん。わ、分かったわ、分かったからそんなに足首を絞めないでっ」
「何が分かったの?眼球を取るってこと?そしたらフィは戻ってくるの?」
「取らないでくれるっ?あなたは私の見た目が好きなんじゃないの?」
「見た目なんかどうでもいいよ」
「私はちゃんとあなただけを愛してあげられるわ」
「そんな安い愛は要らない、それに…フィが自覚する前に時間をかけて…いつか愛してもらうつもりだから他の愛なんて必要ない」
「恐ろしい子…まぁ、いいわ!ただ…あの子はここに…この体に戻ることを望むかは私にも分からないから」
「どういうこと?」
「さぁ?とりあえず…私は眠るからその間に瞳を染めてちょうだいね」

電池が切れたかのようにパタリと背もたれに倒れたユフィの身体をレイヴンはゆっくりと横に倒す。

今度こそ抵抗しなくなったユフィの上まぶたを持ち上げ、そこに黒竜の血を垂らすとじわりと広がった青が塗りつぶすように赤い虹彩を侵食した。
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