せっかくバレンタインだから、チョコレートプレイしよう

橋元 宏平

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前編 人生はチョコレートの箱のようなもの

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「先輩、はい、これあげます」

 綺麗にラッピングされた15㎝×10㎝ぐらいの平たい箱を、後輩が笑顔で差し出してきた。
 可愛らしいピンク色の包装紙に茶色のリボン、赤いハートの飾りが付いている。
 このシーズンなら、どこの店でも扱っているアレなのではっ?

「これ、ひょっとしてバレンタインチョコレートじゃないの?」
「その通り! さすがは先輩ですねっ!」
「拍手付きで褒められても、全然嬉しくないわ。それに、こんなん誰だって分かるべさ」

 こういう物は、可愛い女の子がモジモジはにかみながら手渡してくるもんじゃん?
 三十路のゴリラから気軽に渡されるって、ムードも何もあったもんじゃないよね。
 ドン引きして、受け取りを拒否する。

「あのさぁ、僕、友達から同情のギリチョコとか、ホントありがた迷惑なんだよね」
「そんなこと言わずに、食べて下さいよ。チョコに、罪はありませんて」
「確かに、チョコに罪はないよ。でも、シチュエーションってもんがあるでしょぉ?」
「これ、結構良いヤツなんですよ。絶対美味しいから、食べましょう」
「お前、話聞けや。分かった分かった。そこまで言うなら、食べるけどさぁ……」

 強引に押し付けられ、僕は渋々受け取った。
 僕、こういう可愛い包装紙、結構好きなんだよね。
 別に何に使うって訳でもないんだけど、綺麗だからとっておきたい。
 そぉっとセロテープを剥がして、丁寧に開けていく。
 そんな僕を見て、後輩はもどかしそうに急かす。

「早く開けて下さいや」
「今、慎重に開けてんでしょ! ちっと待てやっ!」

 せっかちなゴリラを制して、上手に開けた包装紙の中には可愛らしい紙箱。
 この箱も、食べ終わったらとっておこう。
 ハートのシールを剥がして、ふたを開けてみる。
 開けた瞬間、ふわりと広がるチョコレートの甘い香り。

「うわぁ……っ」

 中は細かく仕切られていて、ひとくちサイズのチョコが並んでいた。
 全部味が違うのか、形や色が全部違った。
 丸や四角、ハート型、お花型、上に可愛い模様がついてたり、ナッツが乗ってたり。
 スゴく美味しそうだし、可愛いし、思わず顔がほころんでしまう。

 どっかの誰かさんが言った名言で、「人生はチョコレートの箱のようなもの」と言った。
 この言葉の真意は、「開けてみるまで、何があるか分からない神様から与えられた贈り物」
 チョコレートには、ミルク、スウィート、ビターなどいろんな味がある。
 中にはナッツやフルーツ、アルコールが入ったチョコレートボンボンなんてものもある。
 さまざまな味がするチョコレートを、どう味わうかは自分次第。
 一気に噛み砕くもよし、じっくりと口の中で溶かすのもよし。
 そして、チョコレートを食べ終わっても、箱には匂いが残っている。

 さっきのどんよりした気分は吹っ飛び、テンション爆上がり。

「これ、食べて良いの?」
「どうぞ」

 後輩はクスクス笑って、頷いた。
 僕は嬉しくて、ウキウキしながら、綺麗に並んだチョコを選ぶ。

「ど~れ~にし~よ~ぉ~か~なっ♪ よし、これに決~めたっ☆」

 丸いチョコをひとつ摘まんで、口に入れた。
 口いっぱいに広がる、チョコの甘~い誘惑。
 舌で転がして、ちょっと溶けたところで噛んでみた。

 チョコが割れると、中からトロリと溢れ出す甘いシロップはアルコールの味。
 これは、ラム酒かな?
 チョコとラムの風味が調和して、スッゴく美味しい。

「チョコレートボンボンだ! 美味しいっ」
「ふふふっ、喜んでもらえて良かったです。これ全部、中身が違うんですよ」

 後輩が差し出した小さい冊子には、どれに何が入っているか写真付きで説明が書いてあった。
 説明書を読みながら、僕は後輩に笑顔を向ける。

「へぇ~、お前にしては、良いものを選んできたな」
「『お前にしては』って」

 嬉しそうに声を立てて笑っている後輩にも、チョコを勧める。

「美味しいから、お前も食べなよ」
「え? 俺も食べて良いんですかぁ? じゃあ、もらいますね」

 食いしん坊の後輩は、基本的に食い物の誘いは断らない。
 ニマニマと楽しげに選び出す後輩の手を、僕は掴んで止める。

「あ、ちょっと待ってっ」 
「なんです?」 
「これとあれとそれとこれは、僕が食べたいから食べちゃダメさ」
「はいはい。先輩にあげたんですから、いくらでも好きなもの食べて下さい」
「えへへっ、じゃあ次は、ブランデーのヤツにしよっとっ」

 ラム、ワイン、ウィスキー、ブランデー、洋ナシのリキュール、ナポレオン。
 ビターチョコ、ミルクチョコ、スィートチョコ。
 どれもかぐわしくて、めっちゃ美味しい。
 あれもこれもと、パクパク食べてしまった。

 チョコレートボンボンだからと、完全に舐めてた。
 いくら少量とはいえ、酒は酒。
 チョコレートボンボンのアルコール度数は、2~3.5%

 美味しいからと、調子に乗って何個も食べたら、酔っ払ってきた。
 頭がふわふわして、体もポカポカあったかくて、なんだか気持ち良い。
 良い気分になっていると、後輩が僕の目をじっと見つめてクスリと笑う。

「チョコレートは、いにしえより媚薬として使われていたんですよ」
「へぇ~」

 後輩が急に、豆知識的なものを語り出した。

「チョコの香りが脳に働きかけると、快楽物質のドーパミンが分泌されるのだそうです」
「あ、そっか~。だから、チョコ食べると幸せになるのか」
「それに、恋愛感情を起こすホルモンと似た物質が、含まれるんですって」
「なるほどなぁ~。『バレンタインにチョコ』には、ちゃんと意味があったんだ」
「カカオ分が多い方が、興奮作用や催淫効果アップらしいですよ」
「ふぅん。商魂たくましい、チョコ業界の策略かと思ってたわ」

 疑似恋愛ホルモンを嗅がせて、相手に好きだと錯覚させるのか。
 チョコレートってのは、科学的根拠があるのか。
 意外とあなどれないな、あざといぞ、バレンタイン。

「それにアルコールには、催淫効果や本能の開放など、さまざまな効果があります」

 ん? なんか、チョコレートから話が反れたぞ。 
 キョトンとしていると、後輩は僕に近付いてきて、唇に柔らかい感触。
 抱き寄せられて、あったかくて気持ち良い。

 あれ? 僕、キスされてる?
 数年振りのキスの感触に、反応が遅れた。
 後輩が小さく笑ったかと思うと、舌で唇を開かれて深くむさぼられる。
 溶けたチョコとリキュールシロップが、甘く舌に絡み付く。
 甘いチョコと酒の匂い、後輩の分厚い舌で、口の中がいっぱいになる。

「んんぅ……っ、んっん……ふっ」

 上手く息が出来なくて、鼻から声と息が抜ける。
 クチュクチュと、濡れた音がいやらしい。
 舌や歯茎を舐められると気持ち好くて、背筋を伝って腰へ快感が駆けていく。

 なんか、だんだん頭がぼ~っとしてくる。
 しばらくして舌が抜けて唇が離れると、最後に唇をペロリと舐められた。
 すぐ近くにある後輩の顔が、愛しいものを見るような柔らかい笑みを浮かべている。

「キスだけで、トロトロじゃないですか。そんなに、チョコレートボンボン効きました?」
「ふぇ……?」

 アルコールと快感に酔ってぼんやりとしていると、お姫様抱っこされた。

「うわっ?」
「先輩は、自分が愛されてるか、分からないんですよね?」

 ベッドの上に運ばれ、仰向あおむけに押し倒された。
 僕を見下ろす後輩が、興奮した男の顔をしている。

「俺がどれだけあなたを愛しているか、その体に教えて上げますよ」
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