ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

文字の大きさ
14 / 129

第14話 イヌノフグリ

しおりを挟む
 ほとんどの猫たちの病気が治り、薬の作り方も教えた。
 これで心残こころのこりなく、旅立つことが出来る……と思いきや。
 今度は、ぼくたち家族がたおれてしまった。
 ずっとぼくはひとりで集落しゅうらくの猫全員の治療ちりょうをしていたから、疲れてしまったんだ。

 毎日、15匹×1日3回分の薬を作るのは、とても大変だった。
 薬を作っては1匹ずつ飲ませ、なくなったら作るのくり返し。  
 思い返せば1日中休まず、薬を作り続けていたような気がする。

 ずっと薬を触っていたせいで、真っ白だったぼくの毛はあちこち緑色にまっている。
 寝る間もしんで看病かんびょうし続けていたから、睡眠すいみんもろくにっていなかった。

 お父さんとお母さんは集落のみんなを食べさせなきゃいけないから、1日に何度も狩りへ行ってくれた。
 いくらお父さんが狩り好きとはいえ、体力には限界がある。
「みんなを助けたい」という気持ちが強すぎるあまり、頑張がんばりすぎてしまったんだ。

 疲れ果てたぼくたちを見て、集落しゅうらくの猫たちは申し訳なさそうに話し合っている。

「我々を助けたら、今度はお医者さんたちが倒れてしまったにゃあ……」
仔猫こねこのお医者さんはひとりで、みんなの病気を治してくれたからニャン」
「こんなに小さな仔猫なのに、とっても優しい子ニィ」
「今度は私たちが、お医者さんを助ける番にゃー」

 集落の猫たちは「助けてくれたお礼」と言って、ぼくたちのお世話をしてくれることになった。
 穴掘りが得意な猫は、ぼくたちの巣穴を作ってくれた。
 狩りが得意な猫は狩りへ行って、お土産を持って帰ってきてくれた。

「少しでも早く元気になるように」と、作り方を覚えたばかりの薬を作って飲ませてくれた。
 みんなのおかげで久し振りに、お父さんとお母さんと一緒に、ゆっくりのんびり出来た。

 みんなの優しさに触れて、イチモツの集落を思い出した。
 長老ちょうろうのミケさん、茶トラ先生、サビさん……。
 仲が良かった猫たちの顔が、次々と思い浮かぶ。

 集落を守るかのように大きく葉を広げたイチモツの木が、とてもなつかしい。
 イチモツの集落が、恋しくてたまらない。

「ずっと待っているから、いつでも戻っておいで」という言葉を思い出し、切なくなってお母さんの胸の中で泣いた。
 ぼくたち家族は、疲れが取れるまでゆっくりと寝て過ごした。

 だけどいつまでも余所者よそもののぼくたちが、お世話になりっぱなしってのも申し訳ない。
 体力も充分じゅうぶん回復したし、そろそろ旅立つとしよう。

 集落のおさであるクロブチさんに別れを伝えると、別れをしんでくれた。 

「もう、行っちゃうのにゃあ? 君たちは命の恩人おんじんなんだから、もっといてもいいのににゃあ。さびしくなるにゃあ……」

 ぼくたちが旅立つと聞いて、集落の猫たちもお見送りに集まってきてくれた。

「仔猫のお医者さん、助けに来てくれて本当にありがとニャン」
「薬の作り方を教えてくれて、ありがとニィ。仔猫のお医者さんのことは、ずっと忘れないニィ」
「また来てにゃー、いつでも歓迎かんげいするにゃー」

 2週間ほどですっかり仲良くなった猫たちは、あらためて感謝の言葉をかけてくれた。
 お見送りがうれしくて悲しくて、また泣いてしまった。
 別れって、どうしてこんなに悲しいんだろう。

 そういえば、この集落に名前はあるのだろうか?

 立ち寄った集落の名前は、全部おぼえておきたい。

「この集落の名前は、なんというのですミャ?」

 クロブチさんに問うと、ニコニコ笑いながら答えてくれる。
 
「イヌノフグリにゃあ」

 は? なんて?
 その言葉で、涙が止まった。

「ほら、そこにたくさん咲いているにゃあ?」

 言われてみれば集落の周りには、ちっちゃくて可愛いうすいピンク色の花がたくさん咲いていた。
 ここは、群生地ぐんせいち(たくさん生えている場所)なんだろう。

「だから、イヌノフグリっていうにゃあ」

 ためしに、イヌノフグリを『走査そうさ』してみる。

対象たいしょう:オオバコ科クワガタソウ属イヌノフグリ』
薬効やっこう:なし』

 薬には使えない、ただの雑草らしい。  
 なんでよりにもよって、そんな名前にしたんだよっ?
 こんなに可愛い花なんだから、他にもいくらでも付けようがあっただろ!
 ただの「陰嚢フグリ」じゃなくて、「イヌノ」って付けたところに悪意あくいを感じる。

 この集落の名前は、一生忘れないだろう。

 頑張がんばった甲斐かいあって、イヌノフグリの集落の猫たちはみんな元気になった。
 さいわいなことに、ぼくが看病かんびょうしている間にくなった猫は1匹もいなかった。
 ぼくとしては、可愛い猫たちが苦しんでいるのを見るのがえられないだけなんだけど。

 自分の努力がむくわれると、やっぱりうれしい。
 喜ぶ猫を見るのは、嬉しい。
 感謝されれば、もっと嬉しい。

「シロちゃん、大活躍だいかつやくだったニャー」
「みんなからシロちゃんが感謝されると、私たちも嬉しいニャ」

 められると、もっともっと嬉しい。
 これからも頑張って、たくさんの猫をすくえたらいいな。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 次の集落を探して歩いていると、少し遠くに黒っぽい動物が動いているのが見えた。
 ある日森の中、くまさんに出会った。
 たぶん、大きさは3m以上。
 ちょうど獲物えもの仕留しとめたところらしく、ガツガツと肉に食らいついている。
「くまさん」なんて、可愛い生き物じゃない。

 お父さんもお母さんも警戒けいかいして、ぼくを抱えて木のかげかくれる。
 お父さんはひそひそ声で、ぼくとお母さんに話しかけてくる。

「あれは、アルクトテリウムニャー。とっても危ない動物だから、気付かれないうちに逃げるニャー」
「今はお食事中だから、きっと安全に逃げられるニャ」
「ミャ」

 ぼくたちは音を立てないように、すたこらさっさっさーのさーっと逃げ出した。
 アルクトテリウムが完全に見えなくなったところで、ぼくたちはひそめていた息を大きく吐き出した。
 
「気付かれなくて、助かったニャー……」
「無事に逃げられて、良かったニャ。シロちゃんも、そろそろおなかがいたかニャ?」
「空いたミャ」
「じゃあ、私たちでも狩れそうな獲物えものを探しましょうニャ」
「シロちゃんの為に、美味しいお肉を狩るニャー」 

 お父さんの狩り好きは、相変わらずだ。
 イヌノフグリの集落では1日に何度も狩りに行って、毎日クタクタになっていたのに。
 ここ1週間くらいは寝っぱなしだったから、久々に狩りがしたくて仕方ないようだ。

 ぼくだって看病でいそがしかったから、狩りに出るのは2週間ぶり。
 よ~し! ぼくも頑張って狩るぞっ!

 しばらく森の中を歩いていると、ウマの顔をしたイヌみたいな動物が、木の葉をモシャモシャ食べているのを見つけた。
 確か、ヒラコテリウムとかいう草食動物。
 草食動物なら、狩れる。
 イチモツの集落にいた頃、お父さんとお母さんと一緒に何度か狩ったことがある。

 お父さんは声をひそめて、ぼくとお母さんに言う。

「ちょうどいいところに、ヒラコテリウムがいるニャー。よし、みんなで狩るニャー」
「分かったニャ」
「ミャ」

 お父さんの合図でぼくたちは一斉いっせいに、ヒラコテリウムへ飛び掛かった。
 ヒラコテリウムはみついたぼくたちをはらおうと、めちゃくちゃに暴れながら森の中を走り回る。
 ぼくは振り落とされまいと、必死につめと歯を立てる。
 最後にはお父さんが急所きゅうしょであるあごの下をみちぎって、仕留しとめた。
 やっぱり、お父さんは狩りが上手い。

 正確せいかく獲物えものの急所をねらって、みつく。
 ぼくもいつかお父さんのように、狩りが上手くなりたいな。

 ヒラコテリウムの赤身あかみ部分は、新鮮しんせんで魚臭くないマグロの赤身みたいな味がした。
 脂身あぶらみ部分は、マグロの大トロみたいで美味しかった。

「うみゃいうみゃい」と言いながら、ぼくたちがヒラコテリウムを食べていると。
 ゆっくりと、何かが近付いてくる音がした。
 ヒラコテリウムの血の匂いにさそわれて、別の動物が来たのかも。  

 ぼくたちは食べるのをやめて、警戒けいかいする。
 もし危険生物だったら、いつでも逃げられるように身構みがまえた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――
犬の陰嚢イヌノフグリとは?】
 春になると、3~5mmのうすピンク色の花を咲かせる雑草。
 7~10mmの青い花が咲く方は、大犬の陰嚢オオイヌノフグリ
 毒にも薬にもならないし、食べても美味しくない。
の形が、犬のキ〇タマブクロに似ているから」が、名前の由来ゆらい
 誰が名付け親か知らないけれど、ネーミングセンスがひどい。
 


Arctotheriumアルクトテリウムangustidensアングスティデンスとは?】
 今から200万年前くらいに生息せいそくしていたといわれている、史上しじょう最大のクマさん。
 推定すいてい体長約3~4m
 推定体重約1600~1750㎏
 生息せいそく当時は、最大にして最強の陸生りくせい肉食にくしょく哺乳類ほにゅうるいだったらしい。


Hyracotheriumヒラコテリウムとは?】
 今から5600万年前くらいに生息せいそくしていたといわれている、ウマの祖先。
 全然ウマらしくない見た目で、どちらかというとウマっぽい顔をしたイヌ。
 体の高さは35cm前後。
 体重は不明。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

スケルトンなボクは君にテイムされたい!

うなぎ358
ファンタジー
~もふもふじゃなくても可愛いと言ってくれた君をボクは守ると決めた~ 七十七階層あるダンジョンの最下層。ここには猫スケルトンのニャーと、ドラゴンスケルトンの爺ちゃんが二人だけで住んでいる。 ニャーは人間と地上に興味深々で、いつも爺ちゃんに外の世界の話をせがんだ。 そんなある日、いつかダンジョンの外に行ってみたいと言っていたニャーの願いを、爺ちゃんは叶えることにした。 ついに外の世界へ飛び出したニャーは盲目の少女サアヤと出会う。 毎週金曜日お昼ごろ更新。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

処理中です...