ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

文字の大きさ
22 / 129

第22話 受け継がれる医師

しおりを挟む
 翌朝、患者さんは嬉しそうにニコニコ笑っていた。

「あんまり痛くなくなったニャン」
 
 確認の為、捻挫ねんざした場所にさわってみると熱とれが引いていた。 
 猫の自然治癒力しぜんちゆりょくって、スゴい。 
 猫は軽い捻挫くらいなら、3日で治るって本当なんだ。

 なんにしても、元気になってくれて良かった。
 猫が苦しんでいる姿を見ると、とてもせつない気持ちになるから。

「助けてくれたお礼に、ボクの縄張なわばりへ招待しょうたいするニャン」

 患者さんはまだ歩き方がぎこちないけど、ゆっくりと歩いて自分の縄張りまで連れて行ってくれた。
 縄張りでは、たくさんの猫たちがのんびりとくつろいでいた。

 1匹の猫がこちらに気付いて、患者さんに声をかけてくる。

「おかえり。ずいぶんと帰って来るのが遅かったけど、どうしたニャオ?」
「パサン(野山羊のやぎ)を狩ろうとしたら、崖から落ちてケガしちゃったニャン……」

 しょんぼりする患者さんを、縄張りの猫が優しくなだめる。

「ケガしても、帰って来てくれて良かったニャオ。ところで、後ろにいるのは誰ニャオ?」
「ボクが死にそうだったところを、助けてくれたお医者さんたちニャン」

 患者さんがぼくたちを紹介してくれると、縄張りの猫はニッコリ笑ってお礼を言ってくる。

「お医者さんニャオ? うちの子を助けてくれて、ありがとうございましたニャオ。良かったら、ゆっくりしていって下さいニャオ」

 そう言って、ぼくたちを縄張りへむかえ入れてくれた。
 新しい縄張りに来たら、必ず聞くことがある。

「ここには、お医者さんはいますミャ?」
「ハチ先生がいますニャオ」

 やった! ついに茶トラ先生以外のお医者さんを見つけたぞっ!

「本当ですミャ? 同じお医者さんとしてぜひお話ししたいんで、会わせてもらえませんミャ?」
「では、ハチ先生をご紹介しますニャオ」

 患者さんのお父さんが、お医者さんがいる場所まで案内してくれた。
 案内された場所ではハチワレネコが、地面に寝そべった猫にアロエの汁をっていた。

 ハチワレネコだから、ハチ先生なのか。
 アロエをり終わると、ハチ先生は寝そべっている猫に説明する。

「お薬をめたらおなかが痛くなりますから、乾くまでは絶対に毛づくろいはしないで下さいニャフ」
「分かったナ~ォ」

 治療が終わるまで待ってから、ハチ先生に話しかける。

「ハチ先生、初めましてミャ。ぼくは森の集落しゅうらくからやって来た、シロと言いますミャ。ぼくもあなたと同じ、お医者さんですミャ」
「おや、初めましてニャフ。仔猫こねこきみも大きくなったら、お医者さんになりたいニャフ? 優しい良い子ニャフ」

 ハチ先生は優しい笑顔で、ぼくの頭をでしてくれた。
 やっぱり仔猫だから、お医者さんだとは信じてもらえなかったようだ。
 別に信じてもらえなくても、お医者さんと会えただけで充分だ。

「ハチ先生は、アロエを傷薬に使っているんですミャ」
「アロエの汁を傷にれば、すぐ治るニャフ。この辺りの猫たちは、みんなよくケガをするからアロエはかせないニャフ」
「ハチ先生は、薬草にくわしいんですミャ?」
「アロエとヨモギしか、知らないニャフ」
「そうですミャ……」

 ちょっと、ガッカリ。
 お医者さんなら、色んなことを知っていると思ったけど。
 茶トラ先生なんか、ヨモギしか知らなかったもんな。
 確かに、ヨモギとアロエがあれば、だいたいのケガや病気は治る。

 この山には良い薬草がたくさん生えているのに、知らないなんてもったいないなぁ。
 この世界では薬草にくわしくなくても、なろうと思えば誰でもお医者さんになれるのかもしれない。
 でも、ほとんどの猫がお医者さんになる気がない。

 野生生物は基本的に、自然治癒力しぜんちゆりょくで治らなければ死ぬだけ。
 弱っていれば、天敵てんてきおそわれて食われる。 
 それが、自然の摂理ルールなんだ。

 今はちょうど治療が終わって患者さんがいなくなったみたいなので、ハチ先生とお話しすることにした。

「この縄張なわばりには、ハチ先生以外のお医者さんはいますミャ?」
「お医者さんではないけど、お手伝いをしてくれている茶ブチくんがいるニャフ。ほら、茶ブチくんご挨拶あいさつしてニャフ」
「どうも~、茶ブチニィ~。いつも、ハチ先生のお手伝いをしているニィ~」

 白毛に茶色い模様もようのある茶ブチネコが、明るく挨拶あいさつをしてきた。 

「初めましてミャ、茶ブチさん。茶ブチさんは、どんなお手伝いをされているのですミャ?」
「ハチ先生は患者さんの手当で忙しいから、ボクが代わりにヨモギをつぶして薬を作っているんだニィ~」 

 茶ブチさんは手を休めずに、石でヨモギをトントンつぶしながら答えた。
 茶ブチさんの両手はヨモギ色に染まって、緑の靴下猫くつしたねこになってしまっている。
 ぼくもよくヨモギを使うから、靴下猫になるんだよね。

 ハチ先生が、ニコニコ笑いながらうなづく。

「茶ブチくんが薬を作ってくれるから、いつも助かっているニャフ」
「いえいえ~、どういたしましてニィ~」

 ヨモギのペーストを手作りするって、地味に大変なんだよね。
 ヨモギは繊維質せんいしつが多いから、つぶすのに結構時間がかかるんだ。

 ミキサーとかフードプロセッサーとかがあれば、簡単にペースト状に出来るんだろうけど。
 この世界にはそんなもんないし、時間を掛けてつぶすしかない。

「薬の作り方や使い方は、誰から教わったのですミャ?」
「ワタシに、薬の使い方を教えてくれたお医者さんがいたニャフ。でももうずいぶん前に、亡くなってしまったニャフ」

 ハチ先生は、悲しそうな顔で答えた。
 そういえば茶トラ先生も、先代のお医者さんに教えてもらったと言っていた。
 ぼくも茶トラ先生の助手になって、お医者さんの知識を学んだ。
 お医者さんがいる集落しゅうらくや縄張りでは、こうして次の世代せだいのお医者さんを育てているんだ。

 今はお手伝いの茶ブチさんも、そのうちお医者さんになるのだろう。
 人間だって医学を勉強しなければ、お医者さんにはなれない。
 きっとお医者さんがいない集落や縄張りは、最初からお医者さんがいなかったんだ。

 どんなに良い薬草がえていたとしても、知らなければただの雑草ざっそうだもんな。
 今までおとずれた集落でもやってきたように、ぼくが薬草の使い方を教えて次のお医者さんを育てていけばいいんじゃないかっ!
 この縄張りにはハチ先生と茶ブチさんがいるから、出来ることは何もない。

「ところでハチ先生は、山を登ったことはありますミャ?」
「登ったことは、あるニャフ。でも、途中で疲れて、降りてきちゃったニャフ」
「山の向こうには、何があるんでしょうミャ?」
「さぁ? 行ったことがないから、知らないニャフ。もしかしたら知っている猫がいるかもしれないから、他の猫に聞いてみると良いニャフ」

 茶ブチさんは、知らないですか?

「ごめんニィ~。ボクもこの縄張りから出たことがないから、知らないニィ~」

 ハチ先生も茶ブチさんも、聞けばなんでも答えてくれた。
 でも縄張りから出ないから、外のことはあまり知らないそうだ。

 猫は環境の変化を嫌う動物だから、基本的に縄張りの中で生活する。
 何か事情がない限り、産まれて死ぬまで同じ縄張りに居付いつくだそうだ。

 イチモツの集落の猫たちも、「狩り以外では集落の外へ出ない」と言っていたな。
 例外は旅好きだったイチモツの集落のミケさんと、ぼくくらいだろうか。

 話が途切とぎれたところでケガをした患者さんが来たので、邪魔じゃましないようにその場を離れた。
 他の猫たちに話を聞いてみたけど、山を登った猫は1匹もいなかった。
 山の上に何があるのか山の向こうに何があるのか、誰も知らない。

 もしかしたら、あの山を登れば海が見えるかもしれない。
 ますます、山の向こうへ行ってみたくなった。
 だけど、山には登らずに山のふもとに沿って歩いていくつもりだからな。
 いつかきっと、山の向こうへ行けるはずだ。
 ぼくたち家族は次の旅へ出る為に、たっぷりと眠って、体力を回復させることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

ヤンデレ女神と征く開拓スローライフ。

山椒
ファンタジー
両親に、友達に、恋人に、嫁に裏切られ続けた男、神室千照は絶望して自ら命を絶った。 すべてが終わるという安堵感であったが次に目覚めた時には女神が目の前にいた。 千照のことをずっと見ていた女神、アマテラスは千照に異世界転生を提案する。 まだ人生に未練があった千照はそれを受け入れ、二度目の人生を送ることになる。 だが千照は知らなかった。千照にはとてつもない才能が秘められていることを。 千照は知らなかった。アマテラスがヤンデレであることを。 千照は知らなかった。彼を裏切らないものはとてつもない人格の持ち主であることを。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

スケルトンなボクは君にテイムされたい!

うなぎ358
ファンタジー
~もふもふじゃなくても可愛いと言ってくれた君をボクは守ると決めた~ 七十七階層あるダンジョンの最下層。ここには猫スケルトンのニャーと、ドラゴンスケルトンの爺ちゃんが二人だけで住んでいる。 ニャーは人間と地上に興味深々で、いつも爺ちゃんに外の世界の話をせがんだ。 そんなある日、いつかダンジョンの外に行ってみたいと言っていたニャーの願いを、爺ちゃんは叶えることにした。 ついに外の世界へ飛び出したニャーは盲目の少女サアヤと出会う。 毎週金曜日お昼ごろ更新。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...