ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第29話 猫は魚が好き?

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 海をながめて波音を聞きながら、海岸線かいがんせんに沿って歩いて行く。
 空と海と砂浜以外、ビックリするほどなんにもないな。
 ここが小さな島だとしたら、砂浜をずっと歩いて行けば島を一周出来るかもしれない。 
 ここが大陸だったとしたら、きっと一生かかっても歩ききれない。

 この砂浜がどこまでもどこまでも果てしなく続いていたら、イチモツの集落しゅうらくへ帰れない。
 やっぱり、帰れないのはイヤだなぁ。
 いつか必ず、イチモツの集落へ帰りたい。
 そんなことを考えながら、しばらく歩いていると。
 
 見上げるほど大きな岸壁がんぺきが、行く先に立ちふさがっていた。
 大きくて高いがけが、海へ向かって突き出している。
 がけから陸地りくちの方へ目を向けると、山につながっていた。
 この先に行くのは、無理そうだ。

 どうやら、ここが終着点しゅうちゃくてんらしい。
 ぼくの旅は、意外とあっさり終わっちゃったな。
 高い岸壁がんぺきを見上げて、お父さんとお母さんが聞いてくる。

「シロちゃん、行き止まりみたいニャー」
「シロちゃん、どうするニャ?」
「そのまま引き返すのはつまらないから、今度は反対回りで帰ろうミャ」

 ふたりとも「分かった」と、笑顔でうなづいてくれた。
 さようなら、海。
 次来れるのは、いつになるかな。

 ぼくたちは海を背にして、砂浜から草原へ向かって歩いて行く。
 すると、草原に茶トラがらに黒が混ざったまだら模様もようのべっこう猫が、香箱こうばこ座りをして目を閉じていた。
 近づいて行くと、べっこう猫が目を開けた。

「おや~? どちらさまニィ~?」
「お休み中のところ、起こしちゃってすみませんミャ。初めまして、ぼくたちはあの山の向こうからやって来ましたミャ」
「へぇ~? あの山を越えてきたニィ~? スゴいニィ~」

 べっこう猫は山を見上げて、目を大きく見開いて驚いた。
 とても大きくてけわしい岩山だから、登る猫はいないんだろう。

「あなたは、この辺りの縄張なわばりにんでいる猫ですミャ?」
「そうニィ~」
「もし良かったら、あなたの縄張りまで連れて行ってもらえませんミャ?」
「良いニィ~。ついて来るニィ~」

 そう言って起き上がったべっこう猫は、ヒョコヒョコと片足を上げて歩いている。

「ケガしているんですミャ?」
「これニィ~? これはさっき、ちょっと引っかけちゃったんだニィ~」
「信じてもらえないと思いますが、ぼくはお医者さんですミャ。傷をせてもらって、良いですミャ?」
「お医者さんニィ~ッ? だったらすぐ、うちの縄張りへ来てニィ~ッ!」

 ぼくが「お医者さん」と言った直後、べっこう猫はめちゃくちゃ驚いて大急ぎでどこかへ向かって走り出す。
 べっこう猫の縄張りで、何か大変なことが起きているのかもしれない。
 ぼくたちは急いで、べっこう猫の後を追いかけた。
 べっこう猫の後をついて行くと、10匹前後の猫が倒れて苦しんでいた。

「みんな~! お医者さんを連れて来たニィ~ッ!」

 べっこう猫が叫ぶと、倒れていた猫たちが顔を上げてこちらを見る。
 猫たちは一斉いっせいに、ニャーニャーと悲痛な声で鳴き出す。

「お医者さん、お願いしますニィ~! みんなを助けてニィ~ッ!」

 べっこう猫は、お父さんとお母さんに向かって言った。
 まぁ、そうだと思っていたよ。
「お医者さん」の部分しか、聞こえていなかったっぽいもんね。

 お父さんとお母さんはニコニコ笑って、ぼくの頭をでる。

「お医者さんは、この子ですニャー」
「シロちゃんは、可愛くて優しいお医者さんなんですニャ」

 べっこう猫は、ぼくを見てキョトンとする。

「えっ? この仔猫こねこが、お医者さんニィ~? ま、まぁ、助けてくれるなら、仔猫でもなんでも良いニィ~」
 
 とにかく、苦しんでいる猫たちをほうっておけない。
 まずは、猫たちに何があったのか調べなくちゃ。
 この状況だと、集団感染しゅうだんかんせんかもしれない。 
 一番近くで倒れていた猫に向かって、『走査そうさ

『病名:チアミン欠乏症けつぼうしょう黄色脂肪症おうしょくしぼうしょう腸炎ちょうえんビブリオ食中毒しょくちゅうどく
処置しょち:プレドニゾロン、ビタミンB1製剤せいざい、ビタミンE製剤せいざい抗酸化剤こうさんかざい抗生物質こうせいぶっしつ制吐剤せいとざい整腸剤せいちょうざい投与とうよ

 うわ……、見たことないも聞いたこともない病名と薬がいっぱい出てきた。

 後半の抗酸化剤こうさんかざい抗生物質こうせいぶっしつ制吐剤せいとざい(吐き気止め)、整腸剤せいちょうざいは、なんとなく分かるけど。
 前半のプレドニゾロン、ビタミンB1製剤せいざい、ビタミンE製剤せいざいってのが、全然分からない。

 プレドニゾロンって、何?

一般薬品名いっぱんやくひんめい:プレドニゾロン』
薬効分類やっこうぶんるい合成副腎皮質ごうせいふくじんひしつホルモン製剤せいざい
薬効やっこう炎症反応えんしょうはんのう抑制よくせい

 つまり、抗炎症薬こうえんしょうやくってことか。
 それなら、そう言ってくれれば良かったのに。

 猫でも飲ませられる抗炎症薬こうえんしょうやくなら、ヨモギがある。
 抗酸化剤こうさんかざい抗生物質こうせいぶっしつ制吐剤せいとざい整腸剤せいちょうざいも、全部ヨモギでいけるな。

 あと「ビタミン」って言葉は聞いたことがあるけど、BとかEとかって何?

一般薬品名いっぱんやくひんめい:チアミン塩化物塩酸塩えんかぶつえんさんえん
薬効分類やっこうぶんるい:ビタミンB1製剤せいざい
薬効やっこう:チアミン欠乏症けつぼうしょう

一般薬品名いっぱんやくひんめい:トコフェロールニコチンさんエステル』
薬効分類やっこうぶんるい:ビタミンE製剤せいざい
薬効やっこう高血圧症こうけつあつしょう高脂血症こうしけっしょう動脈硬化症どうみゃくこうかしょう

 説明されても全然分からなかったし、そんなもの手に入らない。
 そもそもチアミン欠乏症けつぼうしょう黄色脂肪症おうしょくしぼうしょう腸炎ちょうえんビブリオ食中毒しょくちゅうどくって、どんな病気?

『チアミン欠乏症けつぼうしょう原因げんいん魚介類ぎょかいるい甲殻類こうかくるい過剰摂取かじょうせっしゅ(食べすぎ)』
黄色脂肪症おうしょくしぼうしょうの原因:青魚あおざかな過剰摂取かじょうせっしゅ
腸炎ちょうえんビブリオ食中毒しょくちゅうどくの原因:腸炎ちょうえんビブリオきんが付いた、魚介類ぎょかいるい生食なましょく

 あ~、なるほど。
 ここの猫たちは、魚介類ぎょかいるい甲殻類こうかくるいを食べすぎちゃったんだ。

 1匹だけ元気そうなべっこう猫に、質問しつもんしてみる。

「ここにいる猫たちは、お魚をよく食べられるんですミャ?」
「みんなお肉が好きで、お魚はあんまり食べないニィ~」

 あれ? 『走査そうさ』が、誤診ごしんした(間違えた)?
 でも『走査そうさ』は今まで一度も、診査しんさを間違ったことはない。

 べっこう猫は少し考えた後、思い出したように話し出す。

「そういえば、浜辺にお魚がたくさん落ちていたことがあったニィ~。みんな、そのお魚を食べた後に病気になったニィ~」

 それだーっ!
 人間だった頃に「大量のイワシのれが、浜辺に打ち上げられた」というニュースを、何度か見たことがある。
 あれは大きな魚に追われて逃げ回っているうちに逃げうしなって、浜辺に打ち上げられてしまったイワシの群れらしい。

 この猫たちは、打ち上げられたイワシを何も知らずに食べてしまった。
 ほとんどの青魚あおざかなは、海から上がるとすぐに弱ってくさってしまう。
 くさりかけのイワシを食べすぎたせいで、食中毒しょくちゅうどくになったってワケか。

 だけど、なんでべっこう猫だけはピンピンしているのだろう?
 もしかして、べっこう猫だけ魚を食べなかったのかな?

「あなたは、そのお魚を食べましたミャ?」
「ワタシは、お魚はきらいニィ~」

 べっこう猫は魚ぎらいだったから、助かったんだ。

「ちなみに、好きな食べ物はなんですミャ?」
「アルケオテリウムとコペプテリクスのお肉が、大好きニィ~」

 コペプテリクスは、この間食べた首の長いペンギン。
 アルケオテリウムは、まだ見たことがない。

「アルケオテリウムは、この辺りにいるんですミャ?」
「すぐ近くの森に、たくさんいるニィ~。美味しいから、みんなと一緒に狩ってよく食べるニィ~」

「美味しいお肉か、良いなぁ……」と思ったら、おなかが鳴った。
 ぼくのおなかの音を聞いて、お父さんとお母さんとべっこう猫がクスクスと笑う。

「シロちゃん、おなかすいたニャ?」
「シロちゃんの為に、そのアルケオテリウムを狩ってくるニャーッ!」
「じゃあ、アルケオテリウムがいるところへ連れてってあげるニィ~。仔猫のお医者さんは、みんなを頼むニィ~」
「分かりましたミャ」
  
 やる気満々まんまんの3匹の猫たちは、森へ向かってけて行った。
 残されたぼくは食中毒しょくちゅうどくで苦しんでいる猫たちの為に、ヨモギの薬を作り始めた。
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