ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第47話 天敵の臭い

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 イチモツの集落しゅうらくへ戻ってくると、お父さんとお母さんはホッとした顔で毛づくろいを始める。

「怖かったニャー……」
「シロちゃん、毛づくろいしてあげるニャ」
「ミャ」

 ふたりはぼくの体にトマークトゥスの臭いが付いているのが、気になって仕方がないらしい。
 猫は、人間の数万倍以上の嗅覚きゅうかくを持つと言われている。
 自分の子供から、天敵てんてきの臭いがしたらストレスに違いない。
 ぼくは毛づくろいをしてもらいながら、お父さんとお母さんに相談する。

「グレイさんが『集落へ入りたい』って言っていたんだけど、ダメミャ?」
「いくら可愛いシロちゃんのお願いでも、それはダメニャー」
「私たちが良くても、集落のみんながムリニャ」

 まぁ、そうだよね。
 分かってて聞いたんだ、ごめん。

 一応、長老のミケさんにもグレイさんの話をしてみたんだけど、厳しい顔で叱られてしまった。
 本来ほんらいうものと喰われるものは分かり合えない。
 喰うものと喰われるものが言葉が通じないのは、しゃべる必要がないからだ。
 トマークトゥスなのに、愛猫家あいびょうかのグレイさんだけが例外なんだ。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 それからぼくたちは毎日、グレイさんの元へ通った。
 グレイさんは歯が痛くて、狩りが出来ないから。
 代わりに、お父さんとお母さんとぼくが狩りをしている。

 狩った獲物えものを、グレイさんのところへ持って行って一緒に食べている。
 ちゃんと食べやすいように、ひとくちサイズに切ってあたえているよ。
 おかげで、さらにグレイさんになつかれてしまった。

 ちゃんと食べているから体力も戻ってきたらしく、元気に歩き回れるようになった。
 お父さんとお母さんも毎日会ううちに、だんだん慣れてきたらしい。
 グレイさんとの距離が、ちぢまってきている。

 しばらくすると、ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんの4匹で森の中をお散歩出来るようになった。
 なんか、大きなわんこを飼っているような気持ちだな。

 グレイさんは歯磨はみがき代わりに、シカの骨とつのかじってもらっている。
 歯磨きじゃ、虫歯は治らない。
 かといってぼくがいつまでもずっと、グレイさんの代わりに狩りをしてごはんを食べさせ続けることも出来ない。
 もしぼくが狩りを出来なくなったら、グレイさんはおなかがいて死んでしまう。

 どうしたら良いと思う? 『走査そうさ

『鹿の角を噛むことにより、歯垢しこう歯石しせき軽減へった

 え? グレイさんの虫歯が、治っているの?

『歯は治療ちりょうしない限り、自然治癒勝手に治ること不可ない。ただし、初期齲蝕むしばは再石灰化が起これば回復する可能性がある』

 へぇ、初期の虫歯だったら自然に治ることもあるんだね。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 ある日、ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんの4匹でのんびりとお散歩していると。
「ドドドッ」という感じで、モノスゴいいきおいで何かが走って来る足音が聞こえてきた。

「みんな、逃げるニャーッ!」

 けわしい顔をしたお父さんが叫んだので、ぼくたちはうなづき合って逃げ出した。
 グレイさんが、ぼくの首根くびねっこをくわえて走る。

『シロちゃんは、オレが守るっ!』
「ありがとうミャ」

 森の中には、猫の天敵てんてきがいっぱいいる。
 ヘビ、クマ、キツネ、タヌキ、サル、アライグマ、イタチ、コヨーテ、オオカミ、カラス、猛禽類タカやフクロウなど。
 小さな仔猫こねこは、特にねらわれやすい。
 ぼくを咥えたグレイさんを先頭せんとうに、お父さんとお母さんが後に続く。

 しばらく走って大きな岩壁いわかべ辿たどくと、グレイさんは岩陰いわかげに身を潜《ひそ》めた。
 お父さんとお母さんも、グレイさんの後ろに隠れる。
 グレイさんはぼくを下ろすと、お母さんにあずけて優しく笑う。

『シロちゃん、お父さんとお母さんと一緒に隠れているんだ。ヤツは、オレがなんとかする』
「グレイさん、大丈夫ミャ?」
『ああ、オレに任せろ』
 
 グレイさんはぼくを落ち着かせるように顔をひと舐めした後、岩陰で待つ。
 まもなく、足音がせまって来た。
 タイミングを合わせて、グレイさんが低いうなり声を上げながら飛び出した。

 するどい動物の鳴き声が聞こえて、ドスンバタンと激しくあらそう音が聞こえてくる。
「隠れていろ」と言われたけど、グレイさんが心配でそっと顔をのぞかせる。

 グレイさんと戦っていたのは、大きな鳥だった。
 フクロウみたいな見た目なのに、足がやたら長い。
 お父さんがぼくを後ろから抱きかかえて、教えてくれる。

「あれは、オルニメガロニクスニャー。鳥だけど、狩れない怖い鳥ニャー」

 様子をうかがっていれば、やがてグレイさんがオルニメガロニクスを地面に叩きせた。
 あれ? グレイさんって弱いんじゃなかったの?
 オルニメガロニクスが大人しくなったところで、岩陰から出てグレイさんにけ寄る。

「グレイさん!」
『シロちゃん! 隠れていろと言ったじゃないかっ!』
「ごめんなさいミャ。でも、グレイさんが心配だったんだミャ」

 オルニメガロニクスはまだ生きているけど、グレイさんの前足で押さえつけられて動けなくなっている。
 それを見て、ぼくはグレイさんに笑い掛ける。

「グレイさんは、強いミャ!」
『これでもオレは、トマークトゥスだからな。愛するものを守る為なら、強くもなるさ』

 そう言って、グレイさんは得意げに笑った。

『コイツは、シロちゃんの集落の猫たちへお土産みやげにしてくれ』

 グレイさんは笑顔で、仕留しとめたオルニメガロニクスをぼくの前にし出してきた。

「いいのミャ?」
『ああ。シロちゃんのお父さんとお母さんには、いつも美味おいしいお肉を食べさせてもらっているからな。お礼だから、遠慮えんりょなく受け取って欲《ほ》しい』
「そういうことなら、ありがたくいただくミャ」

 ぼくはお父さんとお母さんに、「グレイさんからもらったよ」と伝えた。
 ふたりはオルニメガロニクスを受け取ると、グレイさんに向かってにっこりと笑ってお礼を言う。

「グレイさん、ありがとうございますニャ」
「オルニメガロニクスは、初めて食べるから、どんな味がするか楽しみニャー」
『猫たちが喜んで食べてくれれば、オレも嬉しいよ』

 お互い言葉は通じなくても、思いは伝わっているらしい。
 ここのところ毎日ずっと一緒にいるから、グレイさんと仲良くなってくれて嬉しい。
 最近はグレイさんに寄りって仲良くお昼寝をしたり、グレイさんの毛づくろいをしていたりする。
 集落の猫たちも、グレイさんと仲良くなれたらいいのにな。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

 グレイさんと別れて、ぼくたち3匹の猫はイチモツの集落へ戻った。
 
「みんな~! 今日は珍しいお肉を狩ってきたニャーッ!」

 お父さんの大きな呼び声を聞いて、猫たちが一斉いっせいに集まって来る。
 しかしみんな少し手前で立ち止まって、フンフンとにおいをいでいる。

 まもなく、なんとも言えない変な顔になった。
 猫が臭いを嗅いだ時にする、『フレーメン反応』
 たまにしか見られないから、見られた時はちょっと得した気持ちになる。

 どうしたのかと思ったら、猫たちは「きらいな臭いがする」と言っている。
 嫌いな臭い?

 あ、そうか。
 野生動物は本能的ほんのうてきに、天敵てんてきの臭いを嗅ぎ分けることが出来る。
 天敵の臭いを嗅ぐと、恐怖やストレスを感じるらしい。
 野生動物が生き残る為に、必要不可欠ひつようふかけつな能力なんだ。

 トマークトゥスも猛禽類フクロウも、猫の天敵。  
「嫌いな臭い」と感じるのは、当たり前なんだ。

 せっかくグレイさんがくれたのに、誰も食べてくれない。
 グレイさんは、大好きな猫たちに喜んで欲しかっただけなのに。
 こんなこと、グレイさんに言えないよ……。

 ぼくはとても悲しくなって、涙を流しながらひとりでオルニメガロニクスを食べ始めた。
 泣きながら食べるぼくを見て、お父さんとお母さんも一緒に食べてくれた。
 初めて食べたオルニメガロニクスの味は、涙のせいでよく分からなかった。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――
Ornimegalonyxオルニメガロニクスとは?】
 今から8000年くらい前に生息せいそくしていたといわれている、最大級一番大きいのフクロウの祖先そせん
 やたら足が長いフクロウ。
 体が重くて、飛ぶのが苦手(一応飛べる)。
 ダチョウのように豪速ごうそくで走って獲物えものを追い、猛禽類もうきんるい特有とくゆうするどつめ仕留しとめる。
 |推定体長約1m
 推定体重約9kg 
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