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第52話 春の訪れと別れの時
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ミケさんが、長老として、集落の猫たちを守りたい気持ちは分かる。
だけどこれじゃ、あまりにもグレイさんが可哀想じゃないか。
せめてぼくだけでも、グレイさんに優しくしたい。
ションボリしているグレイさんに、体をすり寄せる。
「グレイさん! ぼくはずっと、グレイさんのお友達ミャッ!」
『ありがとう。やはり、オレが愛しているのは、シロちゃんだけだ。その優しさと愛くるしさに、また惚れ直したぞ。何度惚れさせれば、気が済むんだ、まったく……』
グレイさんはすぐに機嫌を直して、しっぽをブンブンと振って、ぼくの顔を舐め始めた。
じゃれ合うぼくとグレイさんを見て、ミケさんは呆れた顔をしていた。
しばらくして、ぼくはミケさんに向き直り、真面目な顔を作って話し掛ける。
「まさかまたぼくに、『グレイさんとお別れしろ』と言いませんよミャ?」
「シロちゃんが、グレイさんとお友達だったおかげで、ワシらは助かったにゃ。仕方がないから、お友達でいることだけは許してあげるにゃ」
「グレイさん、やったミャ! グレイさんとお友達でいることは、ミケさんに許してもらえたミャッ!」
『本当か? これからもずっと、シロちゃんと一緒にいられるのか?』
「そうミャ! これからも、ずっと一緒ミャッ!」
『そうか! オレたちは、このまま永遠に愛し合えるんだな? 良かった、本当に良かったっ!』
抱き合って喜び合うぼくとグレイさんを見て、ミケさんは呆れた顔でボソリと何かを言い残して集落の中へ戻って行った。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
こうして、グレイさんはイチモツの集落を守ってくれる番犬となった。
しかし、集落の近くにいることは許されていない。
集落から少し離れた場所に、巣穴を掘って暮らしている。
本来オオカミが巣穴を掘るのは、母親が子供を守る為なんだけど。
グレイさんは、猫たちから隠れる為に巣穴を掘ったそうだ。
ミケさんに「出来る限り、猫たちの目に付かないで欲しい」と、言われているから。
猫が狩りで集落から出て来たら、巣穴に飛び込むようにしているらしい。
オオカミは嗅覚が鋭いから、猫が近付いてきたらすぐ分かるそうだ。
猫も臭いで天敵の居場所が分かるから、グレイさんの巣穴には近付かない。
せっかく猫の集落の近くに棲んでいるのに、猫を見ることもかなわないなんて。
そんなグレイさんが可哀想で、ぼくはお父さんとお母さんと3匹でグレイさんの巣穴へ毎日遊びに行くことにしている。
一緒に狩りをして、ごはんを食べて、お散歩したり、追いかけっこしたり、お昼寝したりして、仲良く楽しく過ごしている。
いつの間にかグレイさんは、自分の歯でお肉を噛みちぎって食べられるようになっていた。
「グレイさん、歯は大丈夫ミャ?」
『ちゃんとシロちゃんに言われた通り、角をガジガジしているからな。だいぶ、痛みは治まったぞ』
「ちょっと見せてもらって良いミャ? あ~んしてミャ」
『いいぞ。あ~……』
グレイさんに大きく口を開けてもらって、歯の状態を調べる。
虫歯で開いた穴は、専用の道具で削って詰め物をしない限り治らない。
だけど、硬い角を噛むことで、歯の表面が削れて黄色かった歯は白くなっていた。
歯石や歯垢が少なくなったのを確認して、ぼくは嬉しくなる。
「角を噛んでいる効果が、ちゃんと出ているみたい良かったミャ」
グレイさんは口を閉じると、ぼくを見つめて嬉しそうに笑う。
『シロちゃんのおかげで、美味しくお肉を食べられるようになったんだ。本当に、感謝してもしきれないよ』
「ぼくは、感謝されるようなことはしてないミャ」
『何を言うか。オレはシロちゃんと出会ってからというもの“こんなに幸せでいいのか”と、いつも思っているんだ』
「グレイさんは、幸せなのミャ?」
『ああ、もちろん』
「グレイさんは猫たちに嫌われてて、悲しくないミャ?」
『トマークトゥスは、猫に嫌われるのが当然だ。それでもシロちゃんは、こうしてオレに会いに来てくれるだろう? シロちゃんだけがオレの悲しみを理解して、癒してくれる。シロちゃんがいてくれるだけで、オレはとても幸せなんだよ』
グレイさんはそう言って、本当に幸せそうに笑った。
グレイさんが、イチモツの集落の番犬になってから、集落は平和そのもの。
あの夜以降、ヒアエノドン(ハイエナに似た動物)が襲って来ることもなくなった。
グレイさんの臭いがするおかげで、トマークトゥスを天敵とする動物たちは警戒して近付いて来ない。
オオカミは犬属の中で、最も狩りに特化した動物らしい。
大きな獲物に挑む身体能力、高度な表現行動などで群れの仲間たちと協力して狩りをする。
最高速度の時速約70km/hなら、約20分。
時速30km/h前後なら、7時間以上獲物を追い回すことが出来るといわれている。
大型哺乳類や小動物、草食動物や魚など、なんでも食べる。
この為、オオカミを天敵とする動物は多い。
逆に、オオカミの天敵は、この世界にはいない。
たぶん、この世界ではトマークトゥスが最強なんだ。
トマークトゥスより大きくて強い動物もいるけど、お互いを襲うことはほとんどない。
他に狩りやすい獲物がいるのに、強敵と戦う理由がないからだ。
ヘタに強い相手に挑んで、ケガをしたら死んじゃうからね。
野生動物は、生きることが何よりも大事。
戦闘民族じゃないんだから、強い相手を見てワクワクしたりはしないんだよ。
あえて言うなら、オオカミの天敵は人間かな。
日本のオオカミは、人間によって絶滅している。
ちなみに犬は、オオカミの亜種が人間によって飼い慣らされたものなんだよ。
そういえば、この世界に転生してから人間を一度も見たことがない。
それどころか、猿すら見たことがない。
どうやら、霊長類(猿や人間)が存在しない世界らしい。
なんで存在しないかは、分からないけれど。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
森のあちこちで色とりどりの花が咲き、すっかり春めいてきた。
グレイさんがタンポポの花を見つけて、嬉しそうにぼくに伝えてくる。
『シロちゃん、黄色くてふわふわした可愛い花を見つけたぞ。これが、タンポポか?』
「そうミャ、これがタンポポミャ」
『シロちゃんは、この花が咲いたら迎えに来てくれと言っていたな。そろそろ、一緒に旅へ行けるのか?』
グレイさんは、「今すぐ旅立ちたい!」と言いたげなワクワクした顔をしている。
ぼくだって、行けるなら今すぐ行きたい。
だけどぼくには、集落を出られない理由があった。
このところずっと、ミケさんが寝たきりなんだ。
大きな葉っぱで作った皿に水を入れて、ミケさんの口元へ持って行くんだけどあまり飲んでくれない。
『走査』によると、老衰死の前兆(前触れ)らしい。
老衰死とは、年老いてだんだんと体が弱って亡くなること。
だからぼくは、ミケさんの最期を看取るまで旅へ出ないと決めた。
ずっと付きっきりだと、体力的にも精神的にも疲れてしまう。
集落の猫たちにも「ミケさんはもう長くない」と伝えて、みんなでミケさんのお世話をしている。
今はお医者さんの茶トラ先生が、ミケさんに付き添《そ》ってくれている。
ぼくは交代で、グレイさんと一緒にごはんを食べているところだ。
「ごめんミャ。もうすぐミケさんがお亡くなりになりそうから、行けないミャ」
『そうか……。オレに出来ることがあれば、なんでも言ってくれ』
「気持ちは嬉しいけど、ぼくにもグレイさんにも出来ることは何もないミャ。あとは、ミケさんの最期を看取るだけミャ」
『じゃあ、シロちゃんは早く集落へ戻ってミケさんの側にいるんだ。オレのことは、気にしなくて良い。オレはいつまでもずっと、待っているからな』
「グレイさん、ありがとミャ。じゃあ、またミャ」
『ああ、またな。オレも、ミケさんを看取ることが出来たら良かったんだがな……』
グレイさんは寂しそうに笑って、ぼくを見送ってくれた。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
それから1週間。
ぼくはグレイさんに会いに行くことなく、ずっとミケさんの側にいた。
ミケさんはほとんど1日中、眠っている状態が続いた。
ぼくはただ側にいるだけで、何もしてあげられなかった。
そして最期にミケさんは目を覚まして、ぼくを悲しそうな目で見つめて力なく笑った。
「シロちゃん……。ワシは長老として、集落を守らなくてはならなかったにゃ……。グレイさんを受け入れられず、冷たい態度を取ってしまって本当にすまなかったにゃ……。シロちゃんは、これからもグレイさんと仲良くにゃ……」
そう言い残して、ミケさんは息を引き取った。
――――――――――――――――――
【どうして、この世界には霊長類がいないの?】
猫の天敵だから。
猫が猿に襲われて食べられる描写は、読みたくないでしょ?
霊長類が存在しない、IF世界線とさせてください。
だけどこれじゃ、あまりにもグレイさんが可哀想じゃないか。
せめてぼくだけでも、グレイさんに優しくしたい。
ションボリしているグレイさんに、体をすり寄せる。
「グレイさん! ぼくはずっと、グレイさんのお友達ミャッ!」
『ありがとう。やはり、オレが愛しているのは、シロちゃんだけだ。その優しさと愛くるしさに、また惚れ直したぞ。何度惚れさせれば、気が済むんだ、まったく……』
グレイさんはすぐに機嫌を直して、しっぽをブンブンと振って、ぼくの顔を舐め始めた。
じゃれ合うぼくとグレイさんを見て、ミケさんは呆れた顔をしていた。
しばらくして、ぼくはミケさんに向き直り、真面目な顔を作って話し掛ける。
「まさかまたぼくに、『グレイさんとお別れしろ』と言いませんよミャ?」
「シロちゃんが、グレイさんとお友達だったおかげで、ワシらは助かったにゃ。仕方がないから、お友達でいることだけは許してあげるにゃ」
「グレイさん、やったミャ! グレイさんとお友達でいることは、ミケさんに許してもらえたミャッ!」
『本当か? これからもずっと、シロちゃんと一緒にいられるのか?』
「そうミャ! これからも、ずっと一緒ミャッ!」
『そうか! オレたちは、このまま永遠に愛し合えるんだな? 良かった、本当に良かったっ!』
抱き合って喜び合うぼくとグレイさんを見て、ミケさんは呆れた顔でボソリと何かを言い残して集落の中へ戻って行った。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
こうして、グレイさんはイチモツの集落を守ってくれる番犬となった。
しかし、集落の近くにいることは許されていない。
集落から少し離れた場所に、巣穴を掘って暮らしている。
本来オオカミが巣穴を掘るのは、母親が子供を守る為なんだけど。
グレイさんは、猫たちから隠れる為に巣穴を掘ったそうだ。
ミケさんに「出来る限り、猫たちの目に付かないで欲しい」と、言われているから。
猫が狩りで集落から出て来たら、巣穴に飛び込むようにしているらしい。
オオカミは嗅覚が鋭いから、猫が近付いてきたらすぐ分かるそうだ。
猫も臭いで天敵の居場所が分かるから、グレイさんの巣穴には近付かない。
せっかく猫の集落の近くに棲んでいるのに、猫を見ることもかなわないなんて。
そんなグレイさんが可哀想で、ぼくはお父さんとお母さんと3匹でグレイさんの巣穴へ毎日遊びに行くことにしている。
一緒に狩りをして、ごはんを食べて、お散歩したり、追いかけっこしたり、お昼寝したりして、仲良く楽しく過ごしている。
いつの間にかグレイさんは、自分の歯でお肉を噛みちぎって食べられるようになっていた。
「グレイさん、歯は大丈夫ミャ?」
『ちゃんとシロちゃんに言われた通り、角をガジガジしているからな。だいぶ、痛みは治まったぞ』
「ちょっと見せてもらって良いミャ? あ~んしてミャ」
『いいぞ。あ~……』
グレイさんに大きく口を開けてもらって、歯の状態を調べる。
虫歯で開いた穴は、専用の道具で削って詰め物をしない限り治らない。
だけど、硬い角を噛むことで、歯の表面が削れて黄色かった歯は白くなっていた。
歯石や歯垢が少なくなったのを確認して、ぼくは嬉しくなる。
「角を噛んでいる効果が、ちゃんと出ているみたい良かったミャ」
グレイさんは口を閉じると、ぼくを見つめて嬉しそうに笑う。
『シロちゃんのおかげで、美味しくお肉を食べられるようになったんだ。本当に、感謝してもしきれないよ』
「ぼくは、感謝されるようなことはしてないミャ」
『何を言うか。オレはシロちゃんと出会ってからというもの“こんなに幸せでいいのか”と、いつも思っているんだ』
「グレイさんは、幸せなのミャ?」
『ああ、もちろん』
「グレイさんは猫たちに嫌われてて、悲しくないミャ?」
『トマークトゥスは、猫に嫌われるのが当然だ。それでもシロちゃんは、こうしてオレに会いに来てくれるだろう? シロちゃんだけがオレの悲しみを理解して、癒してくれる。シロちゃんがいてくれるだけで、オレはとても幸せなんだよ』
グレイさんはそう言って、本当に幸せそうに笑った。
グレイさんが、イチモツの集落の番犬になってから、集落は平和そのもの。
あの夜以降、ヒアエノドン(ハイエナに似た動物)が襲って来ることもなくなった。
グレイさんの臭いがするおかげで、トマークトゥスを天敵とする動物たちは警戒して近付いて来ない。
オオカミは犬属の中で、最も狩りに特化した動物らしい。
大きな獲物に挑む身体能力、高度な表現行動などで群れの仲間たちと協力して狩りをする。
最高速度の時速約70km/hなら、約20分。
時速30km/h前後なら、7時間以上獲物を追い回すことが出来るといわれている。
大型哺乳類や小動物、草食動物や魚など、なんでも食べる。
この為、オオカミを天敵とする動物は多い。
逆に、オオカミの天敵は、この世界にはいない。
たぶん、この世界ではトマークトゥスが最強なんだ。
トマークトゥスより大きくて強い動物もいるけど、お互いを襲うことはほとんどない。
他に狩りやすい獲物がいるのに、強敵と戦う理由がないからだ。
ヘタに強い相手に挑んで、ケガをしたら死んじゃうからね。
野生動物は、生きることが何よりも大事。
戦闘民族じゃないんだから、強い相手を見てワクワクしたりはしないんだよ。
あえて言うなら、オオカミの天敵は人間かな。
日本のオオカミは、人間によって絶滅している。
ちなみに犬は、オオカミの亜種が人間によって飼い慣らされたものなんだよ。
そういえば、この世界に転生してから人間を一度も見たことがない。
それどころか、猿すら見たことがない。
どうやら、霊長類(猿や人間)が存在しない世界らしい。
なんで存在しないかは、分からないけれど。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
森のあちこちで色とりどりの花が咲き、すっかり春めいてきた。
グレイさんがタンポポの花を見つけて、嬉しそうにぼくに伝えてくる。
『シロちゃん、黄色くてふわふわした可愛い花を見つけたぞ。これが、タンポポか?』
「そうミャ、これがタンポポミャ」
『シロちゃんは、この花が咲いたら迎えに来てくれと言っていたな。そろそろ、一緒に旅へ行けるのか?』
グレイさんは、「今すぐ旅立ちたい!」と言いたげなワクワクした顔をしている。
ぼくだって、行けるなら今すぐ行きたい。
だけどぼくには、集落を出られない理由があった。
このところずっと、ミケさんが寝たきりなんだ。
大きな葉っぱで作った皿に水を入れて、ミケさんの口元へ持って行くんだけどあまり飲んでくれない。
『走査』によると、老衰死の前兆(前触れ)らしい。
老衰死とは、年老いてだんだんと体が弱って亡くなること。
だからぼくは、ミケさんの最期を看取るまで旅へ出ないと決めた。
ずっと付きっきりだと、体力的にも精神的にも疲れてしまう。
集落の猫たちにも「ミケさんはもう長くない」と伝えて、みんなでミケさんのお世話をしている。
今はお医者さんの茶トラ先生が、ミケさんに付き添《そ》ってくれている。
ぼくは交代で、グレイさんと一緒にごはんを食べているところだ。
「ごめんミャ。もうすぐミケさんがお亡くなりになりそうから、行けないミャ」
『そうか……。オレに出来ることがあれば、なんでも言ってくれ』
「気持ちは嬉しいけど、ぼくにもグレイさんにも出来ることは何もないミャ。あとは、ミケさんの最期を看取るだけミャ」
『じゃあ、シロちゃんは早く集落へ戻ってミケさんの側にいるんだ。オレのことは、気にしなくて良い。オレはいつまでもずっと、待っているからな』
「グレイさん、ありがとミャ。じゃあ、またミャ」
『ああ、またな。オレも、ミケさんを看取ることが出来たら良かったんだがな……』
グレイさんは寂しそうに笑って、ぼくを見送ってくれた。
🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾
それから1週間。
ぼくはグレイさんに会いに行くことなく、ずっとミケさんの側にいた。
ミケさんはほとんど1日中、眠っている状態が続いた。
ぼくはただ側にいるだけで、何もしてあげられなかった。
そして最期にミケさんは目を覚まして、ぼくを悲しそうな目で見つめて力なく笑った。
「シロちゃん……。ワシは長老として、集落を守らなくてはならなかったにゃ……。グレイさんを受け入れられず、冷たい態度を取ってしまって本当にすまなかったにゃ……。シロちゃんは、これからもグレイさんと仲良くにゃ……」
そう言い残して、ミケさんは息を引き取った。
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【どうして、この世界には霊長類がいないの?】
猫の天敵だから。
猫が猿に襲われて食べられる描写は、読みたくないでしょ?
霊長類が存在しない、IF世界線とさせてください。
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