ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

文字の大きさ
53 / 129

第53話 ボス猫の条件

しおりを挟む
 ぼくにとってミケさんは、おばあちゃんのような存在だった。
 いつもやさしくて、ぼくが悪いことをしたらちゃんとしかってくれた。
 お父さんやお母さんと同じくらい、大好きだった。
 かけがえのないミケさんがくなったことは、やっぱりとても悲しかった。

 野生の猫の寿命じゅみょうは、長くても5歳。
 長く生きられないことは、最初から知っていた。
 分かっていても、悲しいものは悲しい。

 旅の途中とちゅうで、何度か猫が死ぬところを見たけれど。
 ミケさんを失った悲しみは、あの時の何倍も大きい。
 ぼくはまだぬくもりが残るミケさんのご遺体いたいに抱き着いて、大声で泣きじゃくった。

 集落しゅうらくの猫たちもミケさんが命を落としたことを知り、深く悲しんでいる。
 みんなも、ミケさんの死をしんでいた。

 穴掘あなほりが得意な猫たちは、ミケさんをめる穴をってくれた。
 猫たちは協力きょうりょくして、ミケさんを穴の中に入れた。
 ぼくはたくさんお花をんできて、ミケさんを囲んだ。

 花をささげるのは亡くなった相手の冥福めいふく(死後の幸せ)を祈る気持ちを込めた、最期さいごおくり物だそうだ。
 花を捧げるぼくを見て、猫たちは不思議そうに首をかしげていた。
 説明をしても、猫たちにはきっと分からないだろう。
 お葬式そうしきをするのは、人間だけだから。

 集落の猫たちが、ミケさんに土を掛けて埋めていく。
 少しずつ、ミケさんの体が見えなくなっていく。
 ミケさんの体が完全に見えなくなるまで、目を離せなかった。
 ミケさんの姿を見られるのは、これが最後だから。

 ミケさんが亡くなってから、涙が止まらない。
 思い返せば、ぼくは小さい頃からミケさんに心配や迷惑ばかり掛けていた。
 ぼくは優しいミケさんに甘えてばかりで、何もおんを返せなかった。

 もっと、一緒にいたかった。
 もっと、側にいてあげれば良かった。
 いくらいても、もう遅い。
 
 だけど最期を看取ることが出来て、本当に良かった。
 看取ることが出来なかったら、きっともっと後悔していたから。

 「シロちゃん、大丈夫ニャ? 毛づくろいしてあげるニャ」

 涙でぐしょぐしょになってしまったぼくを心配して、お母さんが優しくなぐさめてくれた。
 お父さんも、ぼくの頭をで撫でしながら言う。

「ミケさんは、仲間想いのとっても優しくて立派な長老だったニャー。早く次の集落のおさ(リーダー)を、決めなきゃいけないニャー」

 お父さんが言う通り、悲しんでばかりもいられない。
 集落を守る為には、次のおさを決めなければならない。
 全員集まって「誰が次のおさになるべきか」を、真剣に話し合い始めた。
 集落のおさ、つまり、「ボス猫」になるにはさまざまな条件がある。

 ①勇気があること。
 敵をおそれず、逃げるどころかみずから立ち向かっていく勇気を持っていなければならない。

 ②信頼しんらいされていること。
 仲間をまとめる役割やくわりがあるから、みんなから信頼しんらいされていなければならない。

 ③精神メンタル肉体フィジカルが強いこと。
 集落を守る為には、心も体も強くなければならない。

 ④縄張なわばり意識が強いこと。
 誰よりも集落を愛し、仲間を守りたい気持ちが強くなければならない。

 ⑤恐れられること。
 仲間から一目置いちもくおかれる(誰よりもすぐれていると思われる)くらい顔や体が大きく、強くなければならない。

 ⑥優しいこと。
 誰かが困っていたら、すかさず助ける優しさを持っていなければならない。

 ⑦安心させられること。
 いつも仲間や周囲に気を配り、みんなが安心して暮らせる環境かんきょうを作らなくてはならない。

 理想りそうのボス猫になるには、たくさんの条件があるんだ。
 ボス猫=オスというイメージがあるけど、条件さえたしていればオスメスは関係ない。

 おさがいないと、集落の猫たちは安心して暮らすことが出来ない。
 おさが亡くなったら、なるべく早く次のおさを決める必要があるんだ。

 集落の猫たちは「誰がおさ相応ふさわしいか」と、頭をなやませているようだ。
 ぼくは黙って、みんなの話を聞いていた。
 ぼくは集落を守ってくれるなら、正直誰でも良いと思っている。

 それに、ぼくが選ばれることは絶対ないと分かっている。 
 だってぼくは、条件をたしていないからね。
 生まれつき病弱びょうじゃくで、体が小さい。
 心も体も弱いから、逆にみんなから守られている。
 集落は愛しているけど、信頼しんらいはされていないんじゃないかな?
 だから、ぼくは絶対に選ばれない。

 🐾ฅ^•ω•^ฅ🐾

「シロちゃんは、どうニャ~?」と、茶トラ先生が笑いながら言った。
 そのひとことで、みんなの視線しせんがぼくに集まる。
 予想外よそうがいの展開に、めちゃくちゃビックリした。

「ぼ、ぼくですミャッ?」
「シロちゃんはとっても良い子で、お医者さんとしてもとっても優秀ゆうしゅうニャ~。体が小さくても頑張がんばって狩りへ行くし、みんなから信頼しんらいされているニャ~。あのトマークトゥスをしたがえる、強さと勇気も持っているニャ~。だから、私はシロちゃんを推薦おすニャ~」

 茶トラ先生の話を聞いて、他の猫たちが「ニャるほど、確かに」と納得なっとくした顔で何度もうなづいている。
 いやいや、ぼくは集落のおさになる気なんてないんですけどっ?

「シロちゃん、おさになってくれないかニャ~?」
「ぼくがおさになるなんて、絶対無理ですミャッ!」

 まさかのご指名しめいに、何度も首を横に振る。
 だってぼくは、おさになれるようなうつわ(その地位ちいにふさわしい才能を持っている者)じゃない。
 それに、この集落には、ぼくより年上の猫たちがたくさんいる。

「みんなから信頼されている」という点なら、茶トラ先生の方が相応ふさわしい。
 誰よりも優しく、お医者さんとしてケガや病気を治し、みんなから必要とされている。

「ぼくは、茶トラ先生を推薦おしますミャ」
「でも私はイチモツの木に登ることが出来なかった、弱い猫だからニャ~」

 茶トラ先生は、困り顔でそう言った。
 イチモツの集落の決まりで、1歳をむかえた猫は「成獣おとな儀式ぎしき」を受けなければならない。
 イチモツの木を登り、その実を取って来た猫だけが「立派な成獣おとな」とみとめられる。
 猫神ねこがみから特別な力をさずかる。

 ぼくもイチモツの実を食べて、『走査そうさ』を授かった。
 お父さんもイチモツの実を食べて、狩りが上手で動物にくわしくなった。
 他にもイチモツの実を食べて、強くなった猫がたくさんいる。

 だけど、イチモツの木に登れない弱い猫もいる。
 弱い猫は、力をられないばかりか、ひとりで集落の外へ出ることもゆるされない。
 単純に弱い猫が集落を出たら、天敵にねらわれやすいからって理由なんだけどね。

 イチモツの木に登れなかった茶トラ先生は、ほとんど狩りをしたことがないそうだ。
 そこで茶トラ先生は「せめてみんなの助けになりたい」と、お医者さんになったそうだ。
 ちょうど先代せんだいのお医者さんも、次のお医者さんになってくれる猫を探していた頃だったらしい。

「それに、イチモツの集落を守ってくれているのは、あのトマークトゥスニャ~。あのトマークトゥスをしたがえているのは、シロちゃんニャ~」
「そんなこと言われましても……。ぼくは近いうちに、グレイさんと一緒に旅へ出る約束をしているんですミャ。ぼくが旅へ出たら、誰が集落を守るんですミャ? それにグレイさんを『従えている』なんて言い方は、やめて下さいミャ。グレイさんは、ぼくの大事なお友達ですミャ」
「気を悪くしたなら、すまなかったニャ~。シロちゃんのお友達を、バカにしたつもりはないニャ~。集落を守れる力を持っているシロちゃんが、おさになるのが相応ふさわしいと思っただけニャ~」

 茶トラ先生は申し訳なさそうに謝り、深々とため息を吐いた。

 話し合いの結果、茶トラ先生が集落のおさになることが決まった。
 茶トラ先生は「私なんかでいいのかニャ~」と、困り顔で言っていたけど。
 茶トラ先生がお医者さんとして今まで集落を守ってきたことを、みんなが知っている。

 それに茶トラ先生は、誰よりもみんなのことを知っている。
 みんなも、誰よりも優しい茶トラ先生が大好きなんだ。
 茶トラ先生が弱くても、他の強い猫たちが外敵がいてきから集落を守れば良い。

 誰だって得意なこと、不得意なことがある。
 今までだって集落にむ仲間同士で、支え合って暮らしてきたじゃないか。
 これからも、みんなで助け合って生きていけば良いんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

ヤンデレ女神と征く開拓スローライフ。

山椒
ファンタジー
両親に、友達に、恋人に、嫁に裏切られ続けた男、神室千照は絶望して自ら命を絶った。 すべてが終わるという安堵感であったが次に目覚めた時には女神が目の前にいた。 千照のことをずっと見ていた女神、アマテラスは千照に異世界転生を提案する。 まだ人生に未練があった千照はそれを受け入れ、二度目の人生を送ることになる。 だが千照は知らなかった。千照にはとてつもない才能が秘められていることを。 千照は知らなかった。アマテラスがヤンデレであることを。 千照は知らなかった。彼を裏切らないものはとてつもない人格の持ち主であることを。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

迷宮遊戯

ヘロー天気
ファンタジー
ダンジョンマスターに選ばれた魂が生前の渇望を満たすべく、迷宮構築のシステムを使って街づくりに没頭する。 「別に地下迷宮である必要はないのでは?」

処理中です...