ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第72話 番のお医者さん

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「アオキお父さんが、お茶を作っているところが見たいですミャ」
「じゃあ、ボクの工房こうぼう(物作りする場所)にれて行ってあげるにゃお」

 そう言って、アオキ先生はぼくを抱っこしてくれた。
 ぼくはまだ、体中が痛くて歩けないから。
 たぶん、落ちた時に足の骨を何本か折っている。
 怖いけど、どこの骨がどのくらい折れているか知るべきだよね。
 ということで教えて、『走査そうさ

対象たいしょう食肉目しょくにくもくネコ科ネコ属リビアヤマネコ』

個体名なまえ:シロ』

『病名:全身打撲創ぜんしんうちみ右手頸靭帯損傷みぎてくびねんざ左足首靭帯損傷ひだりあしくびねんざ右前腕骨不全骨折みぎうでのほねにヒビ左手根骨不全骨折ひだりてくびのほねにヒビ右下腿骨不全骨折みぎあしのほねにヒビ右足根骨不全骨折みぎあしくびのほねにヒビ左大腿骨不全骨折ひだりふともものほねにヒビ尾椎完全骨折しっぽがおれている

処置しょち安静あんせいののち、自然治癒勝手に治る

 うわ~……、思った通り大変なことになっていた。
 だけど良く見たら、ほとんど不全骨折ほねにヒビだな
 折れているのは、しっぽの骨だけか。

 気になって見れば、しっぽが折れ曲がって「かぎしっぽ」になっていた。
 これはこれで、可愛いからまぁ良いか。
 しっぽの骨って、折れても治るの?

『約1ヶ月程度で、完治治る

 治るんだったら、良かった。
 でも、あと1ヶ月は安静あんせいにしなきゃいけないってことか。

 ぼくがこの集落しゅうらくに来てから、何日経ったのかな?
 お父さんとお母さんとグレイさんは、今頃どうしているのかな?

 ぼくがいなくなっちゃったら、3匹はどうするんだろう?
 お父さんとお母さんは、イチモツの集落へ帰るのかな?
 グレイさんは、どこへ行くのかな?
 早くケガを治して、3匹を探しに行きたい。
 
 そんなことを考えている間に、アオキ先生のお茶工房ちゃこうぼういた。

「ここが、ボクがお茶を作っている場所にゃお」

 大きな木の枝に、ハーブのたばがたくさん干してあった。
 木の根元ねもとには、大きな木皿きざらがいくつも置いてある。
 木皿の中には、ハーブが束ごと水にけてあった。

 ハーブティーの茶葉ちゃばは、風通りが良い場所に干して乾燥させる。
 水出しハーブティーは、水に茶葉ちゃばを3時間くらい浸ける。

 アオキ先生の話によれば、いつ何が必要になるか分からないからずっと作り続けているらしい。
 時間がちすぎて古くなっちゃったお茶は、もったいないけど捨てるしかないそうだ。

 ぼくが聞けば、アオキ先生はひとつずつ丁寧ていねいに答えてくれた。
 ・カモミール
 ・イヌハッカ
 ・ローズヒップ
 ・ローズマリー
 ・シソ
 ・ヨモギ
 ・ムラサキツメクサ
 ・エノコロクサ
 などなど、猫の食べられるハーブが並んでいる。

 茶葉が出来たら、保管用の横穴よこあなに移動させるそうだ。
 乾燥させて茶葉にしておけば季節関係なく、いつでも使える。
 アオキ先生は、これを全部ひとりで管理しているという。
 やっぱり、アオキ先生はすごい。

「お医者さんは、大変ですミャ?」
「ケガや病気の猫がいる時は、大変にゃお。でも、みんなが元気な時はひまにゃお。毎日のんびりお昼寝しながら、お茶を作っているにゃお」

 アオキ先生はそう言って、色んなハーブティーの味見あじみをさせてくれた。
 お茶工房を見学させてもらった後、アオキ先生に質問する。

「アオキお父さんは、なんでお医者さんになったんですミャ?」
「ボクは生まれつき体が弱くて、病気がちだったにゃお。ずっと、お医者さんのお世話になっていたにゃお。だからボクもお医者さんになって、誰かを救いたいと思ったにゃお」
「ぼくも、アオキお父さんと同じですミャ。お医者さんとして、ケガや病気で苦しむ猫たちを救いたいと思っていますミャ」
「シロちゃんも、お医者さんになりたいにゃお? とっても良い子にゃお」

 アオキ先生は優しく微笑ほほんで、ぼくの頭をでてくれた。
 なりたいんじゃなくて、もうすでにお医者さんなんだけどね。  

 お医者さんじゃないぼくは、ただの仔猫こねこ
 しかも今はケガで、自分で動くことも出来ない。
 ぼくがお医者さんだと言っても、誰も信じてくれないだろう。

「アオキお父さんは、なんでそんなにくわしいんですミャ?」
「ボクがお医者さんになりたいと言ったら、お医者さんが教えてくれたにゃお」

 お医者さんがいる集落には、先代のお医者さんがいる。
 ぼくも、ミケ先生からお医者さんの知識を教えてもらった。
 ミケ先生は、ヨモギしか知らなかったけどね。

走査そうさ』から教えてもらった薬草の知識は、ミケ先生にも共有きょうゆうした。
 色んな薬草を教えたけど、結局使いれているヨモギを使うことが多い。
 ぼくも、ヨモギとアロエを使うことが多いかな。
 ほとんどのケガや病気は、ヨモギで治るからね。

「先代のお医者さんは、どちらにいらっしゃいますミャ?」
「前のお医者さんは、とっくに亡くなってしまったにゃお」

 アオキ先生は、さみしそうにうつむいた。
 アオキ先生が生まれた頃からお世話になっていた猫なら、年齢的にもう亡くなっているか。
 野生の猫の命は、あまりにも短い。
 次のお医者さんを育てないと、お医者さんがいない集落になってしまう。

「アオキお父さんの次に、お医者さんになってくれる猫はいるんですミャ?」
「ハチミケさんが、薬草に詳しいにゃお。ここにある干してある薬草は全部、ハチミケさんがって来てくれた薬草にゃお」

 ハチミケは、ぼくを見つけてくれたハチワレミケネコか。
 ぼくのお母さんになると、言っていたメスネコだ。
 ハチミケにも、話を聞いてみたいな。
 ぼくとアオキ先生が話しているところへ、薬草をいっぱい抱えたハチワレミケネコがやって来た。
 ぼくを見ると、心配そうに声を掛けてくる。

「仔猫ちゃん、やっと起きたナォン? ケガはどうナォン?」
「アオキ先生のおかげで、だいぶ良くなりましたミャ。今はまだ、体が痛くて動けませんけどミャ」
「そう、それは良かったナォン。アオキは腕の良いお医者さんだから、きっとすぐ治るナォン。仔猫ちゃん、お名前は?」
「ぼくは、シロといいますミャ」
「ワタシはアオキのつがいで、ハチミケナォン。ワタシのことは、『お母さん』って呼んでナォン」

 ハチミケはニッコリと笑って、ぼくの頭を撫でてくれた。
 アオキ先生とハチミケは、つがいでお医者さんをやっているのか。

 患者かんじゃ診断しんだんし、薬を作って飲ませるのがアオキ先生。
 薬草を見分みわけて、ってくるのがハチミケ。

 考えてみれば、ぼくも家族でお医者さんをやっていた。
 最初は、診断から薬作りまで全部ひとりでやっていたんだけど。
 お父さんとお母さんが手伝ってくれるようになって、本当に助かった。

 今にして思えば、ふたりが薬草を見分けられるようになってくれていて良かったな。
 ケガをっても病気になっても、ふたりなら治せるはずだ。
 ぼくがいなくなっても、ふたりならきっと大丈夫。
 ぼくが連れ去られた場所からイチモツの集落はかなり距離があるけど、イチモツの集落へ帰れることを祈ろう。

 そういえば、ここはあそこからどれくらい離れているんだろう?
 Argentavisアルゲンタヴィス(巨大な鷹)の飛行速度ひこうそくどは、時速40km/hくらいだったはず。
 ぼくの記憶が確かなら、数分で落とされたよね?
 もしかしたら、あそこからそれほど離れていないかもしれない。
 ここからあそこまで、どのくらい離れているか教えて『走査そうさ

errorエラー:目的地未設定みせってい

 ちゃんとした目的地を言わないと、ダメってこと?
 あそこから一番近い集落は、ノアザミの集落だったはず。
 ここからノアザミの集落までは、どのくらい距離があるの?

『直進3.3km先、右折1.1km、左折800m』

 うわっ、思ったより離れていた!
 知らない集落に辿たどいている時点じてんで、気付くべきだった。
 アルゲンタヴィスはぼくたちが目指していた場所とは、別の方角へ飛んでいた。

 近くだったとしても、おむかえに来てもらえる可能性は低い。
 3匹は、ぼくがこの集落にいることを知らない。
 ぼくが生きていることすら、知らないんだから。
 やっぱりケガを治して、自力じりきでイチモツの集落まで帰るしかないか。

――――――――――――――――――――――――
【かぎしっぽとは?】

 かぎしっぽは、しっぽが途中で折れ曲がっている猫のこと。
 遺伝いでん突然変異とつぜんへんいで生まれつきの場合と、事故やケガで骨が曲がってしまった場合の2パターンがある。
 かぎしっぽは、全部で3種類。
 くの字に折れ曲がっているKinkedキンクド Tailテイル
 体に巻き付くように、くるんと丸まっているCurlカール Tailテイル
 短いしっぽが丸まった、Bobボブ Tailテイル
「しっぽに幸運を引っかけてくる縁起の良い猫」として、愛されている。
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