ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第74話 猫の巣穴を覗く時、猫もまたこちらを覗いているのだ

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 アオキ先生は木に登って、枝に薬草の束を干しているところだった。
 ぼくが声を掛けると、ニコニコ笑いながら降りてくる。

「シロちゃん、今日も元気かにゃあ?」
「アオキお父さん、長い間お世話せわになりましたミャ。この通り元気になりましたので、集落しゅうらくから旅立ちますミャ」
「にゃにゃっ? 君のような弱い仔猫こねこが、集落から出るなんて危ないにゃあ! また、天敵てんてきおそわれちゃうにゃあっ!」

 ぼくの話を聞いて、アオキ先生は引きめるようにギュッと抱き締められた。

「集落の外が危ないのは、知っていますミャ。ですからおとなりの集落まで、サビーさんとタビーさんに送ってもらう約束をしていますミャ」
「それでも、ダメにゃあ。シロちゃんが、お父さんとお母さんに会いに行きたい気持ちは分かるけど、危なすぎるにゃあ」

 アオキ先生は、集落から出ることを許してくれそうにない。
 う~む、どうしたものか。

「せめて、成猫おとなになるまで待ちなさいにゃあ」
「ぼくはもう、成猫ですミャ!」
「にゃはははっ、シロちゃんは仔猫こねこにしか見えないにゃあ」

 確かにぼくは、体の大きさが成猫の半分くらいしかないけど。
 もう2歳だから、立派な成猫なんだよね。
 猫の2歳は、人間で例えると24歳くらい。
 人間だった頃の感覚が残っているから、ぼくの精神的にはまだまだ子どもなんだけどね。

 それに半年以上、お父さんとお母さんと一緒に旅をしている。
 集落の外がどれほど危険かは、アオキ先生よりも知っていると思う。
 ぼくがどんなに説明しても、アオキ先生はちっとも信じてくれなかった。 
 これじゃ一生、この集落から出られないぞ。

 どうしたものかと、悩んでいた時だった。
「ウォ~ン……」と、オオカミの遠吠とおぼえが聞こえてきた。
 集落の猫たちはみんな、ビックリして大きくび上がった。

「この声は、トマークトゥスにゃあっ!」
「大変ニャウッ!」
「早く逃げるにゃおっ!」

 猫たちはパニックになって逃げまどい、大慌おおあわててで巣穴すあなへ飛び込んでいく。
 その場には、ぼくひとり取り残された。
 ぼくだけは、その声に聞き覚えがあったからだ。

 スンスンとにおいをぐと、風に乗ってけものの臭いがただってくる。 
 猫にとっては、とてつもなく嫌な天敵の臭い。
 だけどぼくは、どこかなつかしいと感じた。
 きっと、この声と臭いはグレイさんに違いない。
 そうだよね? 『走査そうさ

対象たいしょう食肉目しょくにくもくイヌ科イヌ目トマークトゥス』

個体名なまえ:グレイ』

位置情報いちじょうほう:直進500m』

 やっぱり、グレイさんだっ!
 ぼくは大喜よろこびで、集落を飛び出した。
 走っている時に、体のあちこちに草や枝が引っ掛かるのも気にしない。
 とにかく早くグレイさんに会いたくて、全力で走る。
 走る練習をしておいて良かった。
 息が苦しくなっても足が痛くなっても、必死になって走り続けた。

 そうしてようやく、グレイさんを見つけた。
 グレイさんは、相変あいかわらず凛々りりしくてカッコ良かった。
 たった1ヶ月半くらい離れていただけなのに、なつかしさで胸がいっぱいになる。
 ぼくは嬉しくて、グレイさんの胸に飛び込む。

「グレイさんっ!」
『シロちゃん! 無事だったんだなっ? 良かった、本当に良かったっ!』
「グレイさん、会いたかったミャ! 探しに来てくれて、ありがとうミャッ!」
『オレもずっと会いたくて、仕方なかったぞっ! もう離さないからなっ!』

 グレイさんも、ぼくをギュッと抱き締めてくれた。
 ぼくとグレイさんは、気が済《す》むまで抱き合いながらスリスリし続けた。
 グレイさんの後ろから、お父さんとお母さんもけ寄って来た。
 どうやらぼくがいない間も、3匹で行動していたようだ。
 お父さんとお母さんも大喜びで、ぼくを抱き締めてくれた。

「シロちゃんっ、やっと見つけたニャー! 会いたかったニャーッ!」
「シロちゃんなら、絶対生きていると信じていたニャッ!」
「ぼくもずっと、お父さんとお母さんに会いたかったミャッ!」

 久し振りに、お父さんとお母さんにサンドウィッチされた。
 ふたりのなつかしいにおいとあたたかさに、ホッとする。

 アオキ先生とハチミケも、良く抱っこしてくれたけど。
 お父さんとお母さんとは、全然違う。
 アオキ先生もハチミケも、とっても優しくて良い猫なんだけどね。
 やっぱりぼくは、お父さんとお母さんが大好きなんだ。
 感動の再会をたした後、グレイさんがここまでのことを話し始めた。

『シロちゃんが大きな鳥にさらわれた時は、めちゃくちゃビックリしたぞ。急いで追いけたのだが、見失みうしなってしまってな。ずっと、シロちゃんを探していたんだ。無事で、本当に良かった』

 ぼくも3匹に、今までのことを話した。
 Argentavisアルゲンタヴィス(巨大なたか)から、逃げ延びたこと。
 空中くうちゅうで放り出されたせいで、落ちて重傷をったこと。
 この集落の猫たちに、拾われたこと。
 元通り動けるようになるまで、1ヶ月半も掛かったこと。

 ぼくの話を聞いて、お父さんとお母さんは笑顔でぼくの頭をでる。

「シロちゃんが、アルゲンタヴィスに食べられなくて良かったニャー」
「優しい猫たちに助けてもらえて、良かったニャ。シロちゃんがお世話になった猫たちに、お礼を言わないとニャ」
「この集落には、ぼくよりも腕の良いお医者さんがいるミャ。お父さんとお母さんにも、ぜひ会って欲しいミャ」
「シロちゃんより、腕の良いお医者さんニャー?」
「私たちもシロちゃんを治してくれたお医者さんに、ご挨拶あいさつしなきゃニャ」

 ふたりもアオキ先生に会いたいと言うので、案内することにした。

「悪いんだけど、グレイさんはいつものように見張みはりをお願いするミャ」
『オレもシロちゃんを助けてくれた猫たちに、お礼が言えたら良いんだがな。ここで待っているから、行ってらっしゃい』
「行ってきますミャ、またあとでミャ」

 グレイさんをその場に残し、ぼくとお父さんとお母さんはアオキ先生の集落へ戻った。
 しかし、集落へ戻ると誰もいなかった。

「あれ? 誰もいないニャー」
「シロちゃん、本当にここなのニャ?」

 静かな集落を見渡みわたして、ふたりは不思議そうに首をかしげた。
 みんなグレイさんの遠吠えを聞いて、トマークトゥスが襲って来ると思って逃げちゃったんだ。
 さっき猫たちが、大慌ててで巣穴へ飛び込んで行くところを見た。
 みんな巣穴の中で、息をひそめているんだ。
 ぼくは猫の巣穴をひとつずつのぞき込み、声を掛けていく。

「皆さん、トマークトゥスは襲ってきませんミャ。だからもう、出てきて大丈夫ですミャ」
「ほ、ホントかにゃあ?」
「シロちゃん、ずっと外にいたニャウ?」 

 ぼくの言葉を聞いて、半信半疑はんしんはんぎといった顔で猫たちが顔を覗かせた。
 恐る恐るといった感じで、猫たちは巣穴から出てくる。
 キョロキョロと周りを見回したり、鼻をフンフン鳴らして臭いを嗅いだりしながら、やんのかステップをしている。
 しばらくして安全を確認出来たらしく、ホッとした顔で緊張をいた。

 アオキ先生が、心配そうな顔でぼくに向かって走って来る。

「シロちゃん! 大丈夫だったにゃあっ?」
「トマークトゥスは、この集落に来ませんから大丈夫ですミャ」
「にゃにゃっ? シロちゃんの体から、トマークトゥスの臭いがするにゃあっ!」

 あ、しまった。
 グレイさんと抱き合ったから、臭いがうつっちゃったんだ。
 ぼくは、どうにか言い訳を考える。

「トマークトゥスがこの集落を襲わないか、調べに行ったんですミャ。その時に、臭いが付いちゃったかもしれませんミャ」
「シロちゃんひとりで、調べに行ったのにゃあっ? そんな危ないことは、しちゃダメにゃあっ!」

 途端とたんにアオキ先生は怒り出して、ぼくをしかり付けた。
 ぼくがしょんぼりすると、ぼくの後ろにいたお父さんとお母さんが前に出てくる。

「うちのシロがご迷惑めいわくをおけして、すみませんニャー」
「シロちゃんが大変お世話になったそうで、ありがとうございましたニャ」

 お父さんとお母さんを見て、アオキ先生は首をかしげる。

「おや? 見ない顔にゃあ。おふたりは、どちらさまにゃあ?」
「アオキ先生、こちらがぼくの本当のお父さんとお母さんですミャ。ぼくを探して、ここまでおむかえに来てくれたんです」
「にゃんとっ? このおふたりが、シロちゃんの本当のお父さんとお母さんにゃあっ? 本当に、生きていたんだにゃあっ!」

 アオキ先生の驚きの声を聞いて、集落の猫たちも「なんニャなんニャ?」と、集まって来る。
 集まって来た猫たちにも、「ぼくのお父さんとお母さんです」と紹介した。

「お父さんとお母さんが、お迎えに来てくれて良かったにゃお」
「じゃあ、シロちゃんはもうこの集落からいなくなっちゃうニャウ? さびしくなるニャウ……」

 猫たちは「良かった」と言いながらも、ぼくとの別れをしんでくれた。
 約1ヶ月半も、この集落でらしていたんだ。
 100年近く生きられる人間と、どんなに頑張がんばっても5年も生きられない野生の猫とでは月日つきひの体感が違う。
 ぼくはもうすっかり、この集落の猫として、受け入れられていた。

 この集落の猫たちは、みんな良い猫ばかりだった。
 見ず知らずのぼくを拾って、助けてくれた。
 ぼくだって、仲良くなった猫たちとの別れはつらい。
 だけど、ずっとここにはいられない。
 ぼくには旅の目的があり、帰る場所がある。
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