ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話

橋元 宏平

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第106話 もしかしてだけど

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 なんだか分からないけど、お父さんとお母さんはグレイさんと話がしたいらしい。
 とりあえず言われるまま、ふたりをグレイさんのもとへ連れて行った。
 グレイさんは、ぼくが「待て」をした場所で大人しく待っていた。

「グレイさん!」
『シロちゃん、早かったな。もう別れの挨拶あいさつは済んだのか?』

 近付いて行くと、グレイさんは立ち上がってしっぽを振り始めた。
 ぼくの後ろにお父さんとお母さんがいるのを見て、グレイさんは不思議そうに首をかしげる。

『ん? お父さんとお母さんも一緒じゃないか。ふたりはもう、旅へ出られないんじゃなかったのか? それとも、行けるようになったのか?』
「お父さんとお母さんは、グレイさんとお話しがしたいって言っているミャ」
『お話し?』

 グレイさんはトマークトゥスだから、猫の言葉はしゃべれないし聞き取れない。
 お父さんとお母さんも猫だから、トマークトゥスの言葉は分からない。
 両方の言葉を理解出来るのは、ぼくだけ。

「ぼくが伝えるから、みんなお話ししてミャ」

 ぼくが話をうながすと、お父さんがグレイさんに向かって口を開く。

「グレイさんは、うちのシロちゃんをどう思っていますニャー?」
『シロちゃんは、オレのつがいだ。心から愛している』

 お母さんはぼくを抱き締めながら、グレイさんに頼み込む。

「私たちにとっても、シロちゃんはとっても大事な子ですニャ。だからどうか、守ってあげてくださいニャ」
『大事な番を守るのは、当然だ。オレの命に代えても、守ると誓おう』
「ふたりとも、必ず生きて帰ってきてくださいニャー」
『必ずや、シロちゃんを連れて帰る。だから、お父さんもお母さんも安心して待っていてくれ』

 3匹の会話を通訳しながら、困惑こんわくした。
 いやいや、ちょっと待ってっ!
 確かに普段から、愛しているだのなんだのとよく言われているけど。
 いつの間に、グレイさんと番になったのっ?
 ぼくとグレイさんは種族が違うから、番にはなれないよっ!
 もしかしてグレイさんは、種族が違っても番になれると思っている?

 そもそも、番の条件って何?
 犬科の動物は一夫一妻制いっぷいっさいせいで、家族のきずなが強い。
 一方、猫はつがわないし、家族の概念がいねんもない。
 ぼくのお父さんとお母さんみたいに仲良しで、ずっと一緒にいる猫もいるけどね。

 冷たいようだけど、普通の父猫は子育てをしない。
 母猫も離乳期りにゅうき頃になると、オスの仔猫こねこは突き放すようになる。
 逆にメスの仔猫は、側に置いておくらしい。

 ぼくのお父さんとお母さんだけが、異常に過保護かほごなんだよね。
 あれ? もしかしてだけど、ぼくってメスだと思われている?
 今まで気付いてなかっただけで、実はメスだった?

 ぼくは大きくなれない病気で、ずっと仔猫のまま生きてきた。
 転生してから自分がオスかメスかなんて、気にしたことがなかった。
「やったー! 猫だーっ! 可愛い~っ!」としか思わなかった。
 メスだったら、性同一性障害せいどういつせいしょうがいになるのかな?

 生後まもない仔猫は、オスメスを見分けるのがとても難しい。
 獣医さんでも、仔猫のオスメスの識別率しきべつりつは80%くらいと言われている。 
 どうしてかって言うと、産まれたばかりの仔猫には〇〇タマタマがないから。
 生後3ヶ月頃になると、〇〇タマタマえてくる。 

 オスのイチモツは通常時つうじょうじ、穴の中にしまわれていて見えない。
 必要な時だけ、ピョコッと出てくる。
 他にも顔の大きさとか体付きとか、見分ける方法はいろいろあるんだけどね。
 それでも猫にも個体差こたいさがあるから、判別はんべつは難しいんだ。

 ぼくの体には〇〇タマタマがないし、メスのように発情期が来たこともない。
 正直、オスでもメスでもどっちでもいいと思っている。
 だって、ぼくはぼくだから。

 今までもこれからも、何も変わらない。
 お医者さんとして猫を救う、それだけだ。
 それに猫は、性別も年齢も関係なくみんな可愛い。
 つまり、可愛いは正義。

 🐾ฅ^・ω・^ฅ🐾  

 お父さんとお母さんは、ぼくが心配で心配で仕方がないらしい。
 グレイさんは絶対にぼくを守ると約束してくれたけど、それでも心配は尽きないみたい。
 小さな仔猫だから、ふたりが心配する気持ちも分かるけどね。

「シロちゃん、グレイさんとふたりで大丈夫かニャ……」
「そうニャー! ここから近い集落までだったら、送って行くニャーッ!」
「それが良いニャッ!」

 話し合いの結果、途中までお父さんとお母さんがついて来てくれることになった。
 それをグレイさんに伝えたら、しっぽを振って喜んでくれた。

『そうか! またお父さんとお母さんと一緒に、旅が出来るのかっ!』
「次の集落までだけどミャ」
『それでも、嬉しいぞ!』
「じゃあ、今度こそ集落のみんなとお別れの挨拶あいさつをしてくるから、ここで待っててミャ」
『ああ、分かった! 待っているっ!』

 グレイさんをその場に残して、ぼくとお父さんとお母さんはもう一度イチモツの集落へ戻った。
 イチモツの集落の猫たちは、ぼくたちが旅へ出ることはもうすっかり慣れっこだ。
 お別れの挨拶をしに行けば、「また行くの?」くらいの反応。
 長老の茶トラ先生もキャリコも、みんなでお見送りしてくれた。

「シロちゃん、元気でいってらっしゃいニャ~」
「シロ先生、絶対に帰ってきてくださいにゃう」
「皆さんも、どうか元気でミャ。寒くなる前に、帰りますミャ。いってきますミャ~」

 こうして、最後の旅が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
性同一性障害せいどういつせいしょうがいとは?】
 体は男で心は女、あるいは体は女で心は男という状態。
 英語だと、Genderジェンダー Identityアイデンティティ Disorderディソーダー=略してGID
 近年は、ジェンダー(性別の役割)問題が問いただされている。
 ちなみに性転換せいてんかんあつかった作品は、Transトランス Sexualセクシャル Fantasyファンタジー=略してTSF
 一般的には、TSと言うことが多い。
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