ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第45話 執事たちの矜持《きょうじ》

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桜庭さくらば視点】

 ご主人様に処置しょちほどこしたところで、たちばなさんと椿つばきさんと田中さんが帰って来た。
 散々暴さんざんあばれ回ってきたのか、3人ともボロボロ。
 ボロボロというのは服であって、怪我けがは大したことなさそうだ。

「ただいま! ご主人様はご無事ですかっ?」
「ご主人様は、大丈夫かしらっ?」
「ご主人様は、生きていらっしゃいますかっ?」

 3人は必死ひっし形相ぎょうそう(顔付き)で、桔梗ききょうさんにめ寄った。
 自分よりデッカイ三人に、詰め寄られて、桔梗さんはタジタジとなる。

「皆さん、お帰りなさい。ひとまず、出来る限りの処置は、施しました。あとはご主人様の体力と抵抗力次第ていこうりょくしだいです……」

 桔梗さんのはっきりしない答えに、3人はご主人様に視線を向けた。
 ベッドに横たわったご主人様は、蒼白あおじろい顔で浅い呼吸を繰り返している。
 僕は、ベッドの上に力なく投げ出されたご主人様の右手を拾い上げて、祈るように握り締めた。
 橘さんも僕のマネをして、僕がいるベッドの反対側に回り、ご主人様の左手を拾い上げた。
 その手を握りながら、ご主人様に向かって声を掛ける。

「ご主人様! 私たちは、帰って参りましたっ! ですから、ご主人様も元気になって下さいっ!」

 椿さんは目に涙を浮かべながら、いつになく真剣な表情でうったえる。

「そうよぉっ、せっかくご主人様のお近付きになれたのに、これでお別れなんて、絶対にイヤ! 死んだら、承知しょうちしないんだからっ!」

 田中さんは、ご主人様の布団にすがり付いて、男泣おとこなきしている。

「ご主人様、どうかこれからも、貴方の側でお仕えさせて下さいっ! お願いですから、死なないで下さい、ご主人様ぁ……っ!」

 そんな彼らに励まされたのか、桔梗さんは強い決意けつい宿やどる目で、僕らにはっきりと言い放つ。

「ご主人様は、ぼくが助けます! ですから、皆さん安心して下さいっ!」
「頼むよ、桔梗君っ! 君は私達の、最後の希望だからねっ!」

 橘さんはにっこりと微笑み返し、桔梗さんに近付いて肩に手を置いた。
 桔梗さんは、少し嬉しそうに微笑む。

「そんな……最後の希望だなんて……」
「あらぁ、そんなに謙遜けんそんすることないじゃないの。桔梗ちゃんがいなかったら、ご主人様は助けられなかった……違う?」

 はげます椿さんに、田中さんが便乗びんじょうする。

「そうだぞ。お前は自分が思ってるよりも、スゴイんだ。もっと自分に自信を持て」

 田中さんは、鼻をグズグズ言わせながら、大きな手で桔梗さんの頭をでた。
 桔梗さんも釣られるように、嬉しそうに涙をこぼして、深々とお辞儀をする。

「皆さん……ありがとうございます……」

 涙をぬぐった後、気を取り直して、桔梗さんは三人に声を掛ける。

「そういえば、皆さんも、お怪我なさっているではありませんか。手当てをしなくては……」
「ああ、そうだった。こちらも、お願いしよう!」

 明るい声で、橘さんが桔梗さんに怪我を見せ始めた。
 一方、椿さんは、手鏡てかがみを取り出して顔をしかめる。

「あ~ん、もうっ、乙女おとめ柔肌やわはだが傷だらけになっちゃったわぁっ。桔梗ちゃん、こっちもお願いっ!」
「あ、はい。橘さんの次にしますから、少々お待ち下さい」

 桔梗さんが、橘さんの傷の手当てあてをしながら、答えた。
 椿さんは少し考えて、パッと顔を明るくする。

「だったら、先お風呂行って来るわね☆ 汗掻あせかいちゃったし、汚れちゃったんですもの。じゃ、またあとでね~♪」

 椿さんはひらひらと手を振って、ご機嫌きげんで処置室を出て行った。
 それを見た田中さんが、立ち上がる。

「そうだ、こうしてはいられない。ご主人様がお目覚めになられた時に、おし上がりになれそうなものをご用意しておかなければ」

 そう言って、田中さんも出て行った。
 秘書ひしょの僕に、今出来ることは何もない。
 ただ、ご主人様が目覚めざめることを待つしかなかった。

 ☆ 

 一時間後、桔梗さんが心音しんおんを確認し、渋い顔でため息を吐く。

快復傾向かいふくけいこうは見られますが、まだ安心は出来ません」
「そう……ですか」

 桔梗さんの言葉に、肩を落とす。
 幼少期に両親をくし、半年前にミッチェル様が亡くなった。
 僕の大事な人は、みんな死んでいった。
 これ以上、大事な人を亡くしたら、きっと僕は誰も愛せなくなる。
 だから、どうか死なないで下さい、ご主人様。
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