ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第46話 生還

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「目覚められましたか」

 目を開くと、桜庭さくらばの顔がどアップが見えた。
 朝、目覚めると、いつも桜庭の顔がある。
 最初の一週間は、毎朝ビビッてたけど。
 最近は、すっかりれてしまった自分がいる。
 慣れたっつーより、慣らされたって感じが正しい気もしなくはないが。

 しかし、いつもと何か違う。
 キングサイズのベッドじゃない、シングルベッドだ。
 ツルツルすべすべの、シルクシーツじゃない。
 病院とかで使われている、ごく普通の真っ白いシーツだ。

 顔には、プラスチックで出来た酸素マスクが、ひもで固定されている。
 なんだか全身が重くてだるくて、間接かんせつがあちこち痛い。
 心臓のドクドクと鼓動こどうする音が、やけにうるさい。

 なんで?
 目が覚めたばかりで、状況が把握出来はあくできていない。
 まだぼんやりしているけど、思い出そうと頭をめぐらせる。

 えっと、確か、「Great Old Onesグレードオールドワン」に、毒を打たれたんだっけか。
 で、俺の命と引き換えに、ミッチェルの遺産いさん要求ようきゅうされた。
 正直なところ、遺産なんてどうでも良いと思っていた。
 むしろ、喜んで手放すぐらいの気持ちだった。

 だって、遺産を手放せば、ただの川崎かわさき虎河たいがに戻れる。
 遺産をがされたせいで、俺の人生は大きく変わってしまった。
 いきなり執事が五人も付いて、豪奢ごうしゃ(ムダぜいたく)な豪邸ごうていに住まわされてさ。
 しなくても良かった大出世だいしゅっせたし、命までねらわれて、死に掛けて。

 本音をいえば、あちこちに多額たがく寄付きふしたのだって、とっととこの莫大ばくだいな遺産から開放かいほうされたかったからだ。
 世界を変えたいと思ったのは、事実じじつ
 貧困ひんこんあえいでいる人々を助けたいって気持ちも、ウソじゃない。
 でも、金を持てあまし、金に振り回されている感が、いなめない。

「金の切れ目が、えんの切れ目」
 そんなうすっぺらい人間関係にんげんかんけいなんて、欲しくない。
 純粋じゅんすいに「俺」という存在そんざいを認めてくれる人間と、仲良くなりたい。
 だから、金でやとわれている執事なんて、うっとおしいと思っていた。
 金がなくなったらいなくなる執事なんて、らないと思っていた。

 でも、桜庭は違ったらしい。
 コイツは、俺を主人としてではなく、ひとりの人間として見てくれていた。
 真剣な桜庭の言葉が俺の心に突き刺さり、気持ちを大きく揺さぶった。
 だから、確かめないと気が済まない。

「なぁ、桜庭」
「なんです? ご主人様」

 心配そうな顔で、桜庭が俺の顔をのぞき込んできた。
 本当に綺麗きれいな顔をしてるんだよな、コイツ。
 執事なんかじゃなくて、もっと表舞台おもてぶたいに立てば良いのに。
 芸能人になったら、スゴく人気が出るに違いない。
 もったいないよな、俺の執事なんか。

「俺が一文無しになっても、側にいたいって、本当?」
「何をおっしゃっているのですか」
 
 そうだよな、こんな質問バカげている。
 ホント、何言ってるんだ、俺は。
 あんなの、「言葉ことばい言葉」ってヤツだよな。
 その場限ばかぎりの言葉に決まっている。
 そんな言葉を安易あんいに信じた俺が、バカだったんだ。
 と、思ったら、桜庭はとても綺麗な微笑みを見せた。

「例え、ご主人様が一文無いちもんなしになろうとも、ご主人様がいらないとおっしゃるまで、ずっとおそばにいます」
「マジで?」
「マジです」

 あんまり真剣な顔で忠誠ちゅうせいちかうから、俺は信じるしかなかった。
 信じて……良いんだよな?
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