ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第47話 危機感の自覚

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「ご主人様、お加減かげんはいかがでしょうか?」

 心配そうな顔をした桔梗ききょうがやって来て、体調をうかがってきた。
「いかが」って、言われてもなぁ。
 ヒドい風邪かぜを引いた後みたいに、ダルくて仕方がないんだ。
 心臓も、なんだかおかしな動きをしているし。
 規則正きそくただしい動きじゃなくて、不自然ふしぜんなリズムをきざんで、おどっているかのようだ。
 ときどき、胸がめ付けられるように痛むことがある。
 しかも、手足がいやに冷たくて、しびれを感じる。
 酸素マスクをしなきゃいけないほど、酸欠さんけつになることも、日常生活にちじょうせいかつではそうそう無い。
 これをどう伝えようかと、ちょっと考えて、出した結論けつろんは――

「大丈夫、寝てれば治るって」

 俺は桔梗にこれ以上心配掛けないよう、一人前いっちょまえに強がって笑って見せた。
 実際、治すには寝るしかないしな。

「本当ですか? 良かった」

 それを聞いた桜庭さくらばは、安心したように微笑んだ。
 でも桔梗は、笑わなかった。
 桔梗は下唇したくちびるみ締めて、少し目をせた。
 あ、バレてる。
 コイツ、時々、みょうさっしが良いんだよな。
 悲しそうな目と真剣な声で、語り掛けてくる。

「無理なさらないで下さい。ご主人様は、死に掛けたんです。ぼくの目は、ごまかせません」
「ごまかせないって……?」

 俺が聞き返すと、桜庭が訳知わけしり顔で大きくうなづく。

「ええ。桔梗さんは、医師免許いしめんきょ取得しゅとくしています。ご主人様の薬を中和ちゅうわして下さったのも、桔梗さんです」
「え? 桔梗が?」

 俺は驚きを隠せず、桔梗をじっと見つめた。
 人は見かけによらないとは、良く言ったもんだ。
 臆病おくびょうな仔犬みたいで、残念な美少年だと思ってたけど。
 コイツ、実は、スゲェ頭良かったのか。
 だって、医師国家試験いしこっかしけんって、むちゃくちゃ難しいんだぞ。

 確か、医者になるには、まず医学部正規課程六年制いがくぶせいきかていろくねんせい修了しゅうりょうする。
 医師国家試験いしこっかしけんに合格して、ようやく医師免許証が交付こうふされる。
 あれ? ってことは、桔梗って結構、年いってんのか。
 小柄こがらで美少女みたいな外見がいけんだから、年下かと思ってたんだけど。
 こう見えて、俺よりずっと年上かもしれない。

「そうだったのか……ありがとう、桔梗」
「いえ、ぼくは自分が出来ることを、出来る限りやっただけで。ご主人様がお命を取り留められたのは、ご主人様の体力があってこそで……」

 もじもじと手をいじりながらつぶやく桔梗が、見た目もあわせて、なんともいじらしい。
 ったく、可愛いヤツめ。
 俺はにっこりと笑って、桔梗をめる。

「桔梗が頑張ってくれなかったら、きっと俺は死んでた。お前は、命の恩人おんじんだ」
「そんな、命の恩人だなんて……」

 桔梗は顔を真っ赤にして、首を大きく横に振った。
 ホント、コイツは自分を過小評価かしょうひょうかしすぎなんだよな。
 きっと、子供の頃にめられる機会が少ない、要領ようりょうの悪いヤツだったんだ。

 俺がいた児童養護施設じどうようごしせつにも、要領の悪い子がいた。
 手柄てがらをあげても誰にも認められなかったり、手柄を横取よこどりされたり、ぎぬを着せられたり。
 不当ふとうあつかいを受けてきたから、自分に自信がないんだ。 
 真面目まじめ努力どりょくしても、その努力が認められないなんて、それじゃ可哀想かわいそうだ。

 だったら、これからは俺がいっぱいめてやろう。
 思い返せば、今まで俺は執事達に自分の考えを押し付けてばかりで、あまり褒めたことはなかったかもしれない。
 俺はご主人様として、ちゃんと良いことをしたら、褒められるということを教えてやらなくては。
 それで、少しでも自信を取り戻して、ネガティブを克服出来こくふくできたら良いな。
 俺は拳を作って、軽くトントンと桔梗の胸を叩く。

「何言ってんだよ。お前は、良くやったじゃないか。本当に心から感謝してる。だから、胸を張って良いんだ」
「そうですよ。僕からも、お礼を言わせて下さい。桔梗さん、ご主人様を助けて下さって、ありがとうございました」

 きっちりと礼儀正しく、桜庭が桔梗に向かってお辞儀じぎをした。
 俺と桜庭に礼を言われた桔梗は、今まで見たことがないくらい、ものスゴく嬉しそうな顔で笑った。

「どういたしまして」
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