ある日突然、知らないおじいちゃんから莫大な遺産を相続させられて、全裸の執事と地獄がもれなくセットでついてきた

橋元 宏平

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第49話 新番組の発案

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 加藤先生は例によって、ボールペンで紙に棒人間ぼうにんげんき始めた。
 棒人間に×を描き足して、ペン先でトントンと叩く。

「例えば、ある人が無実むじつの人を殺したとします。これは『正義』ですか? それとも『悪』ですか?」
「普通に考えたら、『悪』ですよね」
「では、この殺人者を死刑にしたら、それは『悪』ですか?」
「それは……『悪』ではないですね。かといって、『正義』かって言われると、それも違うような」
「殺人犯を、死で|罪をつぐなわせる。結果的に、人を殺しているのに『悪』でも『正義』でもない。変ですねぇ」
「確かに、変ですね」

 加藤先生は紅茶をひとくち飲み、話題わだいえる。

「それはさておき。本日は、川崎さんに良いアイデアを、ご提供ていきょうしようかと思いまして」
「良いアイデア?」
「ええ。昨日、半身浴はんしんよくをしている際に、ふと思いついたんです」
「半身浴するんですか?」

 また、意外いがい一面いちめんを発見して、俺は目を丸くした。
 加藤先生は、楽しげな口調で語り出す。

半身浴はんしんよくは、体にも心にも良いのですよ。アロマキャンドルを灯したり、アロマオイルや入浴剤にゅうよくざいなどを入れて、ゆっくりとぬるめのお湯にかるんです」
「それは、良さそうですね」

 興味津々きょうみしんしんといった顔で、桜庭が大きくうなづいた。
 俺に顔を向けると、桜庭はもんのすげぇ良い笑顔えがおで俺に声を掛けてくる。

「ご主人様、さっそく今夜にでもやりましょうっ!」
「お、おう……」

 俺が若干引じゃっかんひき気味で答えると、加藤先生もうなづく。

「ぜひ、おためし下さい」
「はぁ……」

 正直俺は、長い時間風呂じかんふろに入ってるってのが、苦手にがてなんだよな。
からす行水ぎょうずい」みたいに、パッと入って、パッと出るタイプ。
 アパート暮らしだった頃は、手軽にシャワーのみで済ませていた。

 出来れば、全身にみついてくるような熱~い風呂に入りたい。
 限界げんかいまで我慢がまんして、冷水を頭から浴びるのが気持ち良いんだ。
 サウナで大量たいりょうの汗を流して、水風呂みずぶろにドボンッてのも最高だね。

「おっと、話が脱線だっせんしましたね」

 加藤先生が、閑話休題《かんわきゅうだい》とばかりに、話し出す。

「私が思いついたアイデアというのは、『ブレイカータイガー』についてです」
「それは以前、加藤先生が否定ひていしたではありませんか。『ほどこしは、正義せいぎではない』と」

 桜庭がやや不機嫌ふきげんそうに、聞き返した。

「それとこれとは、話が別なんです」

 加藤先生は、首を横にって続ける。

「せっかく、ヒーローとして市民権しみんけんたんです。これを、使わない手はありません」
「どういうことですか?」

 俺は加藤先生が言いたいことが分からず、首をかしげた。
 やれやれとひとつため息を吐くと、加藤先生はかたり始める。

「今、『ブレイカータイガー』の特撮ヒーロー番組を作れば、高視聴率こうしちょうりつを叩き出すのではないでしょうか」
「あ、そっか」

 特撮番組とくさつばんぐみって、かなりたくさんの企業と金が動くんだよ。
 金が循環じゅんかんして景気けいきが良くなれば、治安ちあんも良くなる。
 大人も子どもも、ヒーローから正義の心を学ぶ。
 良いことくめじゃないか。
 上手くいけば、の話だけど。

「加藤先生の話が上手くいけば、景気けいき回復かいふくするでしょうね。しかし、大失敗した時が、かなり痛いんじゃないすか?」

 俺が加藤先生の顔をのぞき見ながら探りを入れると、加藤先生の顔からスッと笑みが消えた。
 静かな口調で、加藤先生が語り出す。

「ええ、確かに。今までに視聴率しちょうりつ獲得出来かくとくできなかった特撮とくさつは、悲惨ひさん末路まつろ辿たどっています。製作会社せいさくがいしゃはもちろんのこと、出資しゅっししたスポンサーも大きな痛手いたでいますし、株価かぶかを下げることになります。出演俳優しゅつえんはいゆうも仕事をされ、いつしか人々の記憶きおく片隅かたすみに残る黒歴史くろれきしとなること間違まちがいなしです」

 それを聞いて、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
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