49 / 68
第49話 新番組の発案
しおりを挟む
加藤先生は例によって、ボールペンで紙に棒人間を描き始めた。
棒人間に×を描き足して、ペン先でトントンと叩く。
「例えば、ある人が無実の人を殺したとします。これは『正義』ですか? それとも『悪』ですか?」
「普通に考えたら、『悪』ですよね」
「では、この殺人者を死刑にしたら、それは『悪』ですか?」
「それは……『悪』ではないですね。かといって、『正義』かって言われると、それも違うような」
「殺人犯を、死で|罪を償わせる。結果的に、人を殺しているのに『悪』でも『正義』でもない。変ですねぇ」
「確かに、変ですね」
加藤先生は紅茶をひとくち飲み、話題を替える。
「それはさておき。本日は、川崎さんに良いアイデアを、ご提供しようかと思いまして」
「良いアイデア?」
「ええ。昨日、半身浴をしている際に、ふと思いついたんです」
「半身浴するんですか?」
また、意外な一面を発見して、俺は目を丸くした。
加藤先生は、楽しげな口調で語り出す。
「半身浴は、体にも心にも良いのですよ。アロマキャンドルを灯したり、アロマオイルや入浴剤などを入れて、ゆっくりとぬるめのお湯に浸かるんです」
「それは、良さそうですね」
興味津々といった顔で、桜庭が大きく頷いた。
俺に顔を向けると、桜庭はもんのすげぇ良い笑顔で俺に声を掛けてくる。
「ご主人様、さっそく今夜にでもやりましょうっ!」
「お、おう……」
俺が若干引き気味で答えると、加藤先生も頷く。
「ぜひ、お試し下さい」
「はぁ……」
正直俺は、長い時間風呂に入ってるってのが、苦手なんだよな。
「烏の行水」みたいに、パッと入って、パッと出るタイプ。
アパート暮らしだった頃は、手軽にシャワーのみで済ませていた。
出来れば、全身に噛みついてくるような熱~い風呂に入りたい。
限界まで我慢して、冷水を頭から浴びるのが気持ち良いんだ。
サウナで大量の汗を流して、水風呂にドボンッてのも最高だね。
「おっと、話が脱線しましたね」
加藤先生が、閑話休題《かんわきゅうだい》とばかりに、話し出す。
「私が思いついたアイデアというのは、『ブレイカータイガー』についてです」
「それは以前、加藤先生が否定したではありませんか。『施しは、正義ではない』と」
桜庭がやや不機嫌そうに、聞き返した。
「それとこれとは、話が別なんです」
加藤先生は、首を横に振って続ける。
「せっかく、ヒーローとして市民権を得たんです。これを、使わない手はありません」
「どういうことですか?」
俺は加藤先生が言いたいことが分からず、首を傾げた。
やれやれとひとつため息を吐くと、加藤先生は語り始める。
「今、『ブレイカータイガー』の特撮ヒーロー番組を作れば、高視聴率を叩き出すのではないでしょうか」
「あ、そっか」
特撮番組って、かなりたくさんの企業と金が動くんだよ。
金が循環して景気が良くなれば、治安も良くなる。
大人も子どもも、ヒーローから正義の心を学ぶ。
良いこと尽くめじゃないか。
上手くいけば、の話だけど。
「加藤先生の話が上手くいけば、景気は回復するでしょうね。しかし、大失敗した時が、かなり痛いんじゃないすか?」
俺が加藤先生の顔を覗き見ながら探りを入れると、加藤先生の顔からスッと笑みが消えた。
静かな口調で、加藤先生が語り出す。
「ええ、確かに。今までに視聴率を獲得出来なかった特撮は、悲惨な末路を辿っています。製作会社はもちろんのこと、出資したスポンサーも大きな痛手を負いますし、株価を下げることになります。出演俳優も仕事を干され、いつしか人々の記憶の片隅に残る黒歴史となること間違いなしです」
それを聞いて、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
棒人間に×を描き足して、ペン先でトントンと叩く。
「例えば、ある人が無実の人を殺したとします。これは『正義』ですか? それとも『悪』ですか?」
「普通に考えたら、『悪』ですよね」
「では、この殺人者を死刑にしたら、それは『悪』ですか?」
「それは……『悪』ではないですね。かといって、『正義』かって言われると、それも違うような」
「殺人犯を、死で|罪を償わせる。結果的に、人を殺しているのに『悪』でも『正義』でもない。変ですねぇ」
「確かに、変ですね」
加藤先生は紅茶をひとくち飲み、話題を替える。
「それはさておき。本日は、川崎さんに良いアイデアを、ご提供しようかと思いまして」
「良いアイデア?」
「ええ。昨日、半身浴をしている際に、ふと思いついたんです」
「半身浴するんですか?」
また、意外な一面を発見して、俺は目を丸くした。
加藤先生は、楽しげな口調で語り出す。
「半身浴は、体にも心にも良いのですよ。アロマキャンドルを灯したり、アロマオイルや入浴剤などを入れて、ゆっくりとぬるめのお湯に浸かるんです」
「それは、良さそうですね」
興味津々といった顔で、桜庭が大きく頷いた。
俺に顔を向けると、桜庭はもんのすげぇ良い笑顔で俺に声を掛けてくる。
「ご主人様、さっそく今夜にでもやりましょうっ!」
「お、おう……」
俺が若干引き気味で答えると、加藤先生も頷く。
「ぜひ、お試し下さい」
「はぁ……」
正直俺は、長い時間風呂に入ってるってのが、苦手なんだよな。
「烏の行水」みたいに、パッと入って、パッと出るタイプ。
アパート暮らしだった頃は、手軽にシャワーのみで済ませていた。
出来れば、全身に噛みついてくるような熱~い風呂に入りたい。
限界まで我慢して、冷水を頭から浴びるのが気持ち良いんだ。
サウナで大量の汗を流して、水風呂にドボンッてのも最高だね。
「おっと、話が脱線しましたね」
加藤先生が、閑話休題《かんわきゅうだい》とばかりに、話し出す。
「私が思いついたアイデアというのは、『ブレイカータイガー』についてです」
「それは以前、加藤先生が否定したではありませんか。『施しは、正義ではない』と」
桜庭がやや不機嫌そうに、聞き返した。
「それとこれとは、話が別なんです」
加藤先生は、首を横に振って続ける。
「せっかく、ヒーローとして市民権を得たんです。これを、使わない手はありません」
「どういうことですか?」
俺は加藤先生が言いたいことが分からず、首を傾げた。
やれやれとひとつため息を吐くと、加藤先生は語り始める。
「今、『ブレイカータイガー』の特撮ヒーロー番組を作れば、高視聴率を叩き出すのではないでしょうか」
「あ、そっか」
特撮番組って、かなりたくさんの企業と金が動くんだよ。
金が循環して景気が良くなれば、治安も良くなる。
大人も子どもも、ヒーローから正義の心を学ぶ。
良いこと尽くめじゃないか。
上手くいけば、の話だけど。
「加藤先生の話が上手くいけば、景気は回復するでしょうね。しかし、大失敗した時が、かなり痛いんじゃないすか?」
俺が加藤先生の顔を覗き見ながら探りを入れると、加藤先生の顔からスッと笑みが消えた。
静かな口調で、加藤先生が語り出す。
「ええ、確かに。今までに視聴率を獲得出来なかった特撮は、悲惨な末路を辿っています。製作会社はもちろんのこと、出資したスポンサーも大きな痛手を負いますし、株価を下げることになります。出演俳優も仕事を干され、いつしか人々の記憶の片隅に残る黒歴史となること間違いなしです」
それを聞いて、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる