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第50話 新番組の売り込み
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小さく「ふーむ」と唸ると、加藤先生は腕を組み、目を閉じて考え込む。
「新番組は、製作会社やスポンサーにとって、大きな賭けです。成功すれば天国、失敗すれば地獄……」
さすがは、弁護士先生。
社会のしくみに、詳しくていらっしゃる。
まずメディアが、この話に乗ってくれるか。
最初の一歩でコケたら、何も始まらない。
いや、待てよ?
今の俺は名ばかりとはいえ、総合メディア企業の専務。
金なら、有り余るほどある。
金と権力を使えば、特撮番組のひとつくらい作れるんじゃないか?
金と権力に頼るって、あんま好きじゃないんだけど。
使える手は、いくらでも使う。
「加藤先生! 『やらない後悔より、やった後悔』です。俺の手で『ブレイカータイガー』の特撮番組を作りますっ!」
「そうですね。楽しみにしていますので、頑張ってください。応援しています」
「はいっ!」
☆
昼休みの終わりを告げるチャイムと共に、俺は部長の執務室を訪ねた。
「はい」
「お忙しいところをすみません、川崎です」
俺が答えると、硬い声が猫撫で声に早代わりする。
「ああ、川崎君? どうぞどうぞ、入って」
「失礼します」
俺と桜庭がドアをくぐると、ニコニコ笑う部長が、いそいそと来客用のカップを準備し始める。
「どうしたの? 川崎君。君の方から出向いてくるなんて、珍しいじゃない」
「実は、今日は大事な相談に参りまして」
「相談?」
俺が神妙な面持ちで言うと、部長は不思議そうな顔をした。
すぐ笑顔に戻り、俺らに応接セットへ座るように促してくる。
「まぁまぁ、座りなさい。飲み物は、コーヒー? それとも、紅茶?」
「えーっと、じゃあ、コーヒーで」
どうも、部長のこの態度に慣れないなぁ。
もう、下心が見え見えなんだよね。
権力を持っている人間や金のある人間に、ヘコヘコするタイプ。
典型的なゴマすり中間管理職なんだよ、この人。
ややあって、コーヒーが入ったカップが俺と桜庭の前に置かれた。
「はい、コーヒー。ミルクと砂糖も、良かったらどうぞ」
「どうも」
俺は礼を言って、コーヒーに砂糖を入れた。
部長も自分のカップにコーヒーを作って、俺の向かいのソファに腰掛ける。
「で? 相談というのは、何かな?」
「部長は、『ブレイカータイガー』をご存知ですか?」
俺が探りを入れるように聞くと、部長は大きく頷く。
「もちろん、知っているに決まっているじゃない。近頃、メディアを賑わす、正義のヒーローでしょ」
「その『ブレイカータイガー』が、俺だって言ったら、信じます?」
「えぇっ?」
イタズラが成功した子供みたいに笑って見せると、部長は一瞬驚いた顔をしたが、楽しげに笑い出す。
「そうかそうか、あれは川崎君だったのか。そうだよねぇ、莫大な遺産を継いだんだもんね。あらゆる児童養護施設に、寄付金とプレゼントを贈ったんだって? さらに、支援団体や弱小企業や被災地にも義捐金を贈ったそうだね。いやぁ、実に、君らしいよ」
「いえ、元を正せばピート・ミッチェルさんのお金で、俺の金じゃないですから。正直、どう使えばいいか持て余し気味で」
俺は「ははは……」と、乾いた声で笑った。
部長は拍手して、俺を褒め称える。
「いやいや、偉いよ。普通成り上がりなら、金に物を言わせて豪遊するもんでしょ」
「そんな金があっても、俺、小心者なんで豪遊なんて……」
褒められ慣れない俺は、照れ笑いをして手を大きく横に振った。
おっと、世間話をしにきたんじゃなかった。
本題を、忘れるところだったぜ。
俺は緩んだ顔を引き締めると、部長に提案する。
「その『ブレイカータイガー』の知名度をもっと高めたいんですけど、協力してくれませんか?」
「新番組は、製作会社やスポンサーにとって、大きな賭けです。成功すれば天国、失敗すれば地獄……」
さすがは、弁護士先生。
社会のしくみに、詳しくていらっしゃる。
まずメディアが、この話に乗ってくれるか。
最初の一歩でコケたら、何も始まらない。
いや、待てよ?
今の俺は名ばかりとはいえ、総合メディア企業の専務。
金なら、有り余るほどある。
金と権力を使えば、特撮番組のひとつくらい作れるんじゃないか?
金と権力に頼るって、あんま好きじゃないんだけど。
使える手は、いくらでも使う。
「加藤先生! 『やらない後悔より、やった後悔』です。俺の手で『ブレイカータイガー』の特撮番組を作りますっ!」
「そうですね。楽しみにしていますので、頑張ってください。応援しています」
「はいっ!」
☆
昼休みの終わりを告げるチャイムと共に、俺は部長の執務室を訪ねた。
「はい」
「お忙しいところをすみません、川崎です」
俺が答えると、硬い声が猫撫で声に早代わりする。
「ああ、川崎君? どうぞどうぞ、入って」
「失礼します」
俺と桜庭がドアをくぐると、ニコニコ笑う部長が、いそいそと来客用のカップを準備し始める。
「どうしたの? 川崎君。君の方から出向いてくるなんて、珍しいじゃない」
「実は、今日は大事な相談に参りまして」
「相談?」
俺が神妙な面持ちで言うと、部長は不思議そうな顔をした。
すぐ笑顔に戻り、俺らに応接セットへ座るように促してくる。
「まぁまぁ、座りなさい。飲み物は、コーヒー? それとも、紅茶?」
「えーっと、じゃあ、コーヒーで」
どうも、部長のこの態度に慣れないなぁ。
もう、下心が見え見えなんだよね。
権力を持っている人間や金のある人間に、ヘコヘコするタイプ。
典型的なゴマすり中間管理職なんだよ、この人。
ややあって、コーヒーが入ったカップが俺と桜庭の前に置かれた。
「はい、コーヒー。ミルクと砂糖も、良かったらどうぞ」
「どうも」
俺は礼を言って、コーヒーに砂糖を入れた。
部長も自分のカップにコーヒーを作って、俺の向かいのソファに腰掛ける。
「で? 相談というのは、何かな?」
「部長は、『ブレイカータイガー』をご存知ですか?」
俺が探りを入れるように聞くと、部長は大きく頷く。
「もちろん、知っているに決まっているじゃない。近頃、メディアを賑わす、正義のヒーローでしょ」
「その『ブレイカータイガー』が、俺だって言ったら、信じます?」
「えぇっ?」
イタズラが成功した子供みたいに笑って見せると、部長は一瞬驚いた顔をしたが、楽しげに笑い出す。
「そうかそうか、あれは川崎君だったのか。そうだよねぇ、莫大な遺産を継いだんだもんね。あらゆる児童養護施設に、寄付金とプレゼントを贈ったんだって? さらに、支援団体や弱小企業や被災地にも義捐金を贈ったそうだね。いやぁ、実に、君らしいよ」
「いえ、元を正せばピート・ミッチェルさんのお金で、俺の金じゃないですから。正直、どう使えばいいか持て余し気味で」
俺は「ははは……」と、乾いた声で笑った。
部長は拍手して、俺を褒め称える。
「いやいや、偉いよ。普通成り上がりなら、金に物を言わせて豪遊するもんでしょ」
「そんな金があっても、俺、小心者なんで豪遊なんて……」
褒められ慣れない俺は、照れ笑いをして手を大きく横に振った。
おっと、世間話をしにきたんじゃなかった。
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