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反射する陽光
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いたるところなく朱色に染められた、68年製のピックアップトラックが儚い遠心力を巻き起こしながら大きく左折する時まだ小さな身体の僕は、理屈では知らなくとも、それが起きるという事をとうに理解しているで、右の脚にあらん限りの力をかけて車の底を踏んづけてやり、綿毛のようにふわりと舞い上がってしまわぬように、また身体が左右に投げ出されないように、運転している母の傍から離れなくて済むように、思いっ切り床を踏みつけるのだ。
隣に座るお母さんは、濃い色合いのレンズを嵌めたピンク柄の派手なサングラスを掛けて、長い赤髪は形の良い頭の天井で一纏めにしている。
これは、僕のお気に入りのヘアースタイルのひとつだ。
この髪型をしている時は、普段長い髪の毛に隠されてしまっている小振りでいて妙な形をした可愛らしい耳が、見えるようになるのが好きだ。
お母さんはこの耳を、人に見られる事を恥ずかしがっていて大抵いつも隠してしまう。
だから、この耳は僕だけが特別に見ることを許された素晴らしい特権なのだ。
運転席側の、少しだけ降ろされたサイドウインドウから外の空気が流れ込んできて、お母さんの髪の毛をサラサラと揺らしている。
まるで、意志を持ってのたうち回っているようにも見えるその後れ毛達は、クシャクシャの身をひっそりと屈めていた。
「ほら見て、サムザ。ずっと右の方に湖が見えるわよ。」
母は純真無垢な子供のような笑顔を見せて笑う。
そこに、妖精達の秘密の花園を見つけ出したかのようなはしゃぎよう。
僕のお母さんはそういう人だ。
どんな時でも、この世の中で最も綺麗なものを即座に見いだして、新大陸を発見したコロンブスのように全身を震わせて喜ぶことができる人。
一方の僕は残念ながら母のその性質は受け継がれることなく、すでに記憶の片隅へと溶け込んでしまった、顔も思い出せない父親の方に似てしまった。
寡黙で、素っ気なくて、人嫌いで、人間を信じることが出来ない。
ざっと纏めると、はみ出し者といったところか。
母は時々、僕の顔をまじまじと見つめて儚げな微笑みを浮かべることがある。
そんな時はきっと、父の事を思い出しているのかもしれない。
前の小学校を転校することが決まっても、誰も悲しんでくれることは無く、それどころか僕がその教室に居た事すらも、とうに忘れられているのかもしれない。
僕はどうも、人の記憶に残り辛いみたいだ。
でも、お母さんだけが僕の事を覚えていてくれたらそれで充分だと思っている。
あと2ヶ月という時を経たら、僕は10歳になる。
それまで僕はどうあっても9歳のままだ。
10歳の僕はきっと、今よりもずっと賢くて、今よりもずっと大人びているんだろうということが、僕には想像出来る。
でも、10歳の僕を9歳の僕が真似することはできない。
その逆もまた同じであるように。
フロントガラス越しに飛び込んでくる景色は、驚く程に神秘的な壮大さを醸し出している。
沈みゆく黄金の太陽が分厚い雲河の絨毯を徐々に染めて、湖と空の境界線を曖昧にぼやかし、まるで空がふたつあるように錯覚させる。
波を打つ事に一瞬光を反射する水面が、唯一その違いを証明している存在だ。
世界がいつまでも、この黄金色に染まってくれていたら良いのにと僕は願うのだが、その願いは誰に届けるべきなのかさえ9歳の僕はまだ知らない。
これも、10歳になったら分かるようになるのかもしれない。
僕にとって、ひとつ歳をとるという事は、それくらい物凄い変化なのだ。
隣に座るお母さんは、濃い色合いのレンズを嵌めたピンク柄の派手なサングラスを掛けて、長い赤髪は形の良い頭の天井で一纏めにしている。
これは、僕のお気に入りのヘアースタイルのひとつだ。
この髪型をしている時は、普段長い髪の毛に隠されてしまっている小振りでいて妙な形をした可愛らしい耳が、見えるようになるのが好きだ。
お母さんはこの耳を、人に見られる事を恥ずかしがっていて大抵いつも隠してしまう。
だから、この耳は僕だけが特別に見ることを許された素晴らしい特権なのだ。
運転席側の、少しだけ降ろされたサイドウインドウから外の空気が流れ込んできて、お母さんの髪の毛をサラサラと揺らしている。
まるで、意志を持ってのたうち回っているようにも見えるその後れ毛達は、クシャクシャの身をひっそりと屈めていた。
「ほら見て、サムザ。ずっと右の方に湖が見えるわよ。」
母は純真無垢な子供のような笑顔を見せて笑う。
そこに、妖精達の秘密の花園を見つけ出したかのようなはしゃぎよう。
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どんな時でも、この世の中で最も綺麗なものを即座に見いだして、新大陸を発見したコロンブスのように全身を震わせて喜ぶことができる人。
一方の僕は残念ながら母のその性質は受け継がれることなく、すでに記憶の片隅へと溶け込んでしまった、顔も思い出せない父親の方に似てしまった。
寡黙で、素っ気なくて、人嫌いで、人間を信じることが出来ない。
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母は時々、僕の顔をまじまじと見つめて儚げな微笑みを浮かべることがある。
そんな時はきっと、父の事を思い出しているのかもしれない。
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でも、お母さんだけが僕の事を覚えていてくれたらそれで充分だと思っている。
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でも、10歳の僕を9歳の僕が真似することはできない。
その逆もまた同じであるように。
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