その後も幸せに暮らしました

山吹レイ

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結婚後

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 街の人のお節介パワーとは恐ろしい。
 昨日まで独身だった俺が、今日には結婚してしまったのだから、人生とはわからないものだ。
 とぼとぼ歩く俺の後を、馬を引いたガイアが清々しい表情でついてくる。キキは俺の隣で嬉しそうにジャンプをして歩き、時折ガイアと馬の周りを勢いよく走り回った。
「ははは、元気だな」
 ガイアがそう言って笑うと、キキは褒められたと思ったのか嬉しそうに側に寄って行く。キキは誰に対しても友好的だ。たとえ見ず知らずの相手であろうとも人見知りしない。俺と違ってはじめてガイアと挨拶したときも、その大きさに怯えることもなく、尻尾をふりふりしながら愛嬌たっぷりに「キュンキュン」鳴いて近づいていったのだ。すぐに仲良くなってしまったのは言うまでもない。
 ガイアから離れたキキが急に俺の側に戻ってくる。
「お前は誰でもいいんだな」
 恨みがましくキキに言って、はあと深いため息をつく。
 どうして、こうなったんだろうな、と思わずにはいられない。
 結婚する気はなかったのに、教会に行ったら逃げられなくなった。感極まったガイアから抱きしめられても、なんというか……もう抵抗する気さえなくなってしまった。
 結婚とは人生においてもっとも大事なことだと思ったが、あまりにも呆気なくこうも簡単にできるとは信じられなかった。
「本当に大きい家だ」
 背後にいたガイアが俺の隣に並んで、家を見上げている。
 ここまで連れてきたのだから、今さら帰れなどと言えない。
 もう夕方だし、これから王都に戻るとしても危険極まりない。たとえ騎士団であってもだ。モンスターを侮ってはいけない。
 馬を近くの木に繋いだガイアは周囲を見回した。
「この辺もモンスターが出現するのか?」
「ええ。ここに来てから見たことはないですけど、いるでしょうね。馬は街で預けたほうがよかったのでは?」
 この家に馬小屋は設置していない。外におけばモンスターに襲われる可能性もある。
「以前、そのようにしたら馬を売られたことがあって……信頼していないわけではないんだが、なるべく手元に置くようにしている。丈夫で強い馬だ。何かあれば知らせてくれるだろう」
 俺は宙を睨んで暫し考える。
 家の中に入れば、物音は聞こえづらい。キキを家族と考えるようになって、他の動物に対する意識が随分変わった。前は犬猫に興味がなかったのに、今では目につくと手を伸ばして積極的に触れるようになった。動物であろうとも大切な存在に変わりないのだ。
「錬金する作業場があるんですけど、外から出入りする大きなドアがあります。中は意外と広いんですが、そこでよければ……」
 家の側面に向かい、今まで数回しか入ったことがない作業場のドアの前に立った。
 外にもドアをつけたのは、家の中を通って作業場に向かうより、外から直接入るほうが便利だと思ったからだ。
 鍵を開けて中に入ると色々な道具が壁際に並んでいる。
「広いな」
 ガイアは部屋の中を見回してから天井を見上げる。
「狭いと物も置きにくいし、窮屈に感じるので広く作ったんです。天井も高く換気ができるように窓もつけました。まだ、使ったことはないので薬品とかの匂いもしないと思います」
「確かに」
「問題は馬が入ってくれるかどうかですが……」
 なるべく床に物を置かないようにして、棚に置けるものは片付けた。足元に置いて怪我をしたら大変だ。
 ガイアは馬を連れて、両開きにした大きなドアからゆっくりと中に入ってきた。大きいと感じていたドアもぎりぎり通った。
「よし、いい子だ」
 馬は大人しくガイアに従う。
「利口ですね」
「馬は賢い」
 馬の体を撫でて近くにある頑丈そうな鉄の棚に手綱を結んだ。
「後で水と食料を持ってきます。あ、藁とかも必要ですか?」
「あれば助かる」
「馬は何を食べるんですか? 人参とか?」
「人参や果物も食べるが基本は草でいい」
「えっと果物って林檎とか? 梨は?」
「梨も大好物だ」
 そんな会話をしながら、作業場から室内に入った。ドアを開けると俺より先にキキが走り抜ける。真っ先にクッションが置かれたソファの上に座った。最近はお気に入りの場所だ。
 ガイアは室内を見て驚いたように足を止めた。
 暖炉の前にソファやテーブルがあって、下には美しい刺繍が施されたラグが敷かれている。まったりとくつろげるように倉庫を漁って色々と持ってきた家具たちだ。
 奥のキッチンにはこの世界では見慣れない電化製品が並んでいる。
 突っ立ったまま吹き抜けの天井や、二階の様子などをつぶさに観察していたガイアは「こんな家見たことない」と呟いた。
 現代風のインテリアなど、この世界の住人には目にすることはないだろう。はじめて見たものも多いはずだ。
 ガイアをこの家に泊まらせることになったとき、インテリア……特に電化製品をどうしようか悩んだ。この世界にはあり得ない異物だからだ。移動して隠すことも考えたけど……まあ、無理だ。システムキッチンは流石に隠せない。それに俺の家なのに誰かに気を使う必要はないのだ。
「まずはお風呂に入ってきたらどうですか?」
 目を瞠って眺めているガイアに声をかける。
 なんでも夜通し馬を走らせて、馬車では二週間以上かかる王都からここまでの距離を五日で来たらしい。体も汚れているだろう。
「風呂があるのか?」
 ガイアは振り向いた。この世界に風呂がある家など多分ない。宿屋ですらないのだ。体が汚れたら井戸の水か夏場は川で洗ったりする。驚くのも当然だ。
「ええ、こちらです」
 案内すると感心したように言った。
「すごいな。家にこんな立派な風呂があるとは」
「ゆっくりと浸かってください」
 ガイアを風呂場に残してドアを閉める。その間、地下倉庫に行って必要な食料や干し草などを持ってきた。藁もあったはずだ。
 両手に抱えきれないほどの藁を持って、作業場の隅に置いておく。干し草や食料も与えていいのか悩んだので、ガイアに訊いてからにしようと隣に置いた。
 そして、夕食の準備にとりかかった。
 地下倉庫にあった調理済みの料理は冬の間に全部食べてしまったので、最近では野菜や肉を使ったスープか炒め物にパン、あとはデザートに果物というのが定番になりつつある。
 味付けはほとんど塩のみ。鶏ガラスープや味噌や醤油が恋しい。それとお米が無性に食べたいが、今のところ見かけたことはなかった。
 側に来たキキに肉の端切れをあげて、肉と野菜を煮込んだスープを作る。パンは手籠に山盛りにしてテーブルに置く。果物も適当に切って皿に並べた。
 ガイアがどれくらい食べるのかわからないので、スープは多めにする。
 もし、ガイアがここで暮らすなら、これからは食事の量が二倍になる。地下倉庫にある食料が今までの倍で減っていく計算だ。
 あんなにあった食料が、少しずつでも確実に減っていき、気が付けば木箱は空になっているものもあった。
 見込みでは食料はあと半年ももたない。冬までになくなる。その前にまた冬の間に食べる食料を蓄えておかなければならない。もう少しすれば積雪はなくなる。そうなれば畑を作ったり自給自足の方法も考えていかなければならない。
 それに馬小屋も必要になる。モンスターが出るかもしれないから、頑丈な作りの小屋を新しく建てたほうがいいだろう。ゲーム中では簡単に作ることができた建物も、現実には大工でもない限り無理だ。確か街に大工はいたはずなので仕事の依頼をしなければならないし、あとはこの家にガイアの部屋も必要だろう。
 空いている部屋はあったはずだから、そこに最低限ベッドを置けばいい。
 考えることが山積みだった。
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