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モンスターの襲来
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ガイアが来て二週間が経った。
来た当初は仕事をどうしようかと悩んでいたようだが、今は街に行ってその日できる仕事をしている。例えば、大工の手伝いといったものから、隣街に荷物を届けてほしいといったちょっとしたことまで、困っている人を見つけては、事情を聞いて、すすんで引き受けているようだった。なにせ、ここでは長期にわたる安定的な仕事が少ない。
ガイアにとって物足りないのではないかと思い、剣を扱えるなら冒険者組合に入って冒険稼業をしたらどうかと訊いてみたことがある。
そしたら渋い顔をされてしまった。冒険者になったら、モンスターの盗伐や護衛の仕事などで数日間家を空けるかもしれない。それが嫌なのだそうだ。騎士団の仕事も、夜の仕事や遠征があり、寄宿舎にいる時間は少なかったらしく、結婚した今、もっと家庭を大事にして愛する人とゆったりと暮らしたいと言われた。
俺もかつては忙しい毎日を送っていて、ここで暮らすようになってから、やっと心と体を休めることができた。だからガイアの気持ちはよくわかる。
ただ、毎朝剣を振って鍛錬を欠かさない姿を見ていると、もったいないと思ってしまう。彼の能力が活かせる仕事があればと考えてしまうが、本人がそれでいいのであれば何も言うまい。
それに、どんな小さな仕事でも引き受けてくれるから、街の人とかなり溶け込んだと聞いている。報酬として金銭をもらう他にも野菜や果物などを持って帰ってくる。
俺はといえば、ガイアがいてもいなくても生活はほとんどかわりない。
食事も一人分増えただけだし、掃除や洗濯は、ガイアが外出したすきに浄化の魔法で済ませている。たまに馬の世話もするが、まだどうやったらいいのかわからないので、ガイアと一緒に行うことも多い。
その日も、一緒に起きて朝食を食べると、愛情たっぷりのキスを残してガイアは酒場の手伝いに行ってしまった。俺は、あまり暑くないうちに夏野菜を収穫して畑の雑草を抜いていた。キキはその側で蝶を追いかけたり、走り回ったりしている。
「キキ! 休憩しようか?」
声を張り上げて呼ぶと、キキは一目散に俺のそばに走ってきた。
キキにはビスケットとハーブ水を与え、俺は水を飲みながら、干した杏子ととりたての形の悪いきゅうりを食べる。
「今日も暑いな」
「キュン」
日陰にキキと並んで涼みながら、ぼんやりと空を見上げる。
「あー素麺食いたい」
「キュン?」
「素麺はな、こう細くて長いまっすぐな麺で、つるつるって啜って食べるんだ。薬味にねぎとか生姜を入れて食べると、これまた最高にうまくて……」
身振り手振りで食べる様子を伝えようとするが、キキは首を傾げるばかりだ。
「考えると余計食べたくなってきた。ここには麺はないんだよなー」
汗をぬぐって水を飲み干すと、立ち上がった。
「午後にはガイアが帰って来るから、二人で薪割りだ」
「キュン」
冬の準備は着々に進んでいる。手が空いたらとりあえず薪割り。乾燥する必要があるから、風通しがよく日当たりのいい場所に積み上げている。
それから食料の確保。秋に収穫できる野菜の種をまき、収穫した大量の夏野菜は食べるもの以外は地下倉庫へ保管。お金にはならないが、やることは腐るほどある。
ゲームの中では簡単だったことも、現実になると、まあ大変だ。でも毎日が充実して楽しい。
畑のほうへ歩いて行こうとしたら、山側から何か音がするのに気づいた。
立ち止まって振り向くと、どすんどすんという音がこちらに近づいてきているのがわかる。キキが俺の足元で山の方向に向かって唸り声をあげた。
「何か来るのか!?」
俺は固唾を呑み、懐から鮮血の黒扇を取りだした。他には解体用のナイフと草を刈っていた鎌しかない。以前は茂みから飛び出してきたのはうさぎだったが、この音からして確実に大きな生き物だ。もしかしたらモンスターかもしれない。
そう考えていた瞬間、木々をなぎ倒し、大きな白い熊がどすんと現れた。
「な、なんだ!?」
実際の熊を見たことはないが、こんなにも大きいものなのだろうか?
四本足でのっしのっしと歩いてくる姿は、あまりにも巨大で、歯を剥いている姿は、膝が震えるほど怖い。
後退りすると足が縺れて尻もちをつく。隣でキキが小さな体で立ち向かうように吠えている。
熊がぐおっと雄叫びをあげた瞬間、口から雪交じりの風が吹き付けてくる。熊ではない。モンスターだったのだ。
咄嗟にキキを抱き上げて、横に転がる。
俺たちがいた場所は雪がびっしりとはりつき凍り付いていた。
熊に似たモンスターはベアキングと呼ばれ、山に生息している。過去に何度か討伐したことがある。ただし、体毛は茶色か黒。黒のほうが茶色い個体より体力も攻撃力も強い。
こんな白いモンスターは見たことがなかった。レア個体なのか?
俺はキキを抱き上げたまま逃げようとしたが、はっとして動きを止める。逃げられるのか? という恐怖に体が震える。それに、逃げるにしても助けを呼ぶにしても、こんな凶暴なモンスターを引き連れて街へは行けない。
モンスターから目を離さないようにして、腕に抱いたキキをおろし、後ろに押しやる。
「キキ。街に行って助けを呼んで来てくれ」
倒せるかどうかわからない。もしかしたら殺されるかもしれないが、キキには助かってほしい。そんな思いもあって、キキを追い払うように「行け!」と叫んだ。
だが、キキは俺の側から離れない。
「キキ! 行ってくれ!」
もう一度言ってもキキは従わなかった。こんなことはじめてだ。
キキは俺を守るように前に出ると、ぶるっと体を震わせる。すると、キキの体がみるみるうちに大きくなった。
「キキ!」
唸り声をあげてキキがモンスターに飛びかかって行った。
モンスターが二本足で立ち、キキの攻撃を腕で振り払う。
キキがモンスターから離れたタイミングで、俺も鮮血の黒扇を振るった。
モンスターの腹に当たって戻ってくるが、ふさふさの体毛が擦れただけでたいしたダメージにはならない。
「くっそ」
モンスターが再び雄叫びをあげて、雪を口から吐き出した。キキは右に俺は左に逃げた。
態勢を直すと、すぐさま鮮血の黒扇を打ち込んだ。
首に当たったが、モンスターは痛くもかゆくもないのか、邪魔そうに首を振っただけだった。
これがゲームならば、敵の頭上に赤いゲージが出てどのくらい削ったのか見えるのに、まったく体力がわからない。
ただ、これは俺が敵う相手ではないとすぐにわかった。
でも戦闘をはじめてしまった。今更引けない。
「永遠の眠り!」
ぎゅっと握った鮮血の黒扇を内側に向けて、ひらりと宙に舞う。
踊り子の攻撃力などたいしたことはない。本領は、敵にかけるデバフ効果にある。
永遠の眠りは、敵を数秒間眠らせて行動を制限させる。ただこれが効かない敵もあるので要注意ではあるが……このモンスターはうまく作用したようだ。
異常を察したモンスターが俺に向かって突進しようとして……急に体が傾いて前に倒れていく。その目はしっかりと閉じられ、一瞬で気を失うように眠りへと落ちたことがわかる。恐ろしいスキルだ。
すかさずキキがモンスターの首に飛びかかる。
俺も加勢しようと、近づきナイフを首元に突き刺そうとした。そのとき、モンスターの目がぱっと開いた。覚醒が早い。
モンスターがもがいて首に歯を立てているキキを振るい落とした。
「キキ!」
うまく着地したキキを見てほっとしたが、すぐに俺は「漆黒の闇!」と唱えた。立て続けに「大地の錘!」と叫んだ。
漆黒の闇は盲目に、大地の錘は敵に自身の重量をかけて動きを遅くするスキルだ。
ともに数秒しか持たないため、鮮血の黒扇を掲げ「死神の微笑み!」と必殺技を行う。
連続ダメージと出血の状態異常でどのくらい体力ゲージが削れるかわからない。
目が見えないモンスターは闇雲に暴れている。でも動きは遅く、俺はナイフを頭に突き立てた。
その瞬間、体が吹き飛ばされた。地面に叩きつけられて、あまりの痛さにうめき声しか出ない。
「キュンキュン!」
キキが側で心配そうに鳴いている。
「だ、大丈夫だ」
息をするたびに胸が痛い。でも、こうしている間にモンスターにかけたデバフは解けてしまった。動きをとめて俺を見据える目に殺気が宿る。ナイフが頭に刺さったまま顔面を赤い血で濡らし、モンスターが空に向かって咆哮した。
氷の矢が降ってきた。
広範囲の攻撃に逃げられないと悟る。
キキが俺の前に立ち、いつもの愛らしい鳴き声とは違い、低い地を這うような声をあげた。俺とキキを中心に風が渦巻いた。空から降ってきた氷の矢はあらぬ方向へ飛び散り砕けて、落ちた氷は溶けてなくなる。
「キキ?」
俺はキキの体にそっと手を当てる。キキはちらっと俺を見て大丈夫だというように一瞬だけ笑った。その直後、体を低くしたキキが恐ろしいスピードでモンスターに突進した。
「キキ!」
キキの爪がモンスターの体を切り裂く。モンスターの体から首がぼとりと落ちて、血が噴き出した。
モンスターは倒れて、ぴくりとも動かない。
キキはどこに行ったのかと探せば、モンスターの後ろでまるで力尽きたように崩れ落ちた。
「キキ!」
急いで近寄ると、大きかったキキの体がゆっくりと縮んでいく。元の小さくて可愛いキキの姿がそこにあった。
震える体を抱きしめ、俺はごほごほと咳き込んだ。口から血が溢れてくる。
死ぬかもしれない。
痛む胸にキキを抱き、目を閉じると、体から力が抜けていく。
「…………」
キキと名前を呼ぼうにも、ヒューヒューとしか音が出ない。血の味が口に広がり、顎から滴り落ちる。
意識が遠のいていく。
頭の中に浮かんだのは、毎朝おはようと口づけてくるガイアの笑顔だった。
来た当初は仕事をどうしようかと悩んでいたようだが、今は街に行ってその日できる仕事をしている。例えば、大工の手伝いといったものから、隣街に荷物を届けてほしいといったちょっとしたことまで、困っている人を見つけては、事情を聞いて、すすんで引き受けているようだった。なにせ、ここでは長期にわたる安定的な仕事が少ない。
ガイアにとって物足りないのではないかと思い、剣を扱えるなら冒険者組合に入って冒険稼業をしたらどうかと訊いてみたことがある。
そしたら渋い顔をされてしまった。冒険者になったら、モンスターの盗伐や護衛の仕事などで数日間家を空けるかもしれない。それが嫌なのだそうだ。騎士団の仕事も、夜の仕事や遠征があり、寄宿舎にいる時間は少なかったらしく、結婚した今、もっと家庭を大事にして愛する人とゆったりと暮らしたいと言われた。
俺もかつては忙しい毎日を送っていて、ここで暮らすようになってから、やっと心と体を休めることができた。だからガイアの気持ちはよくわかる。
ただ、毎朝剣を振って鍛錬を欠かさない姿を見ていると、もったいないと思ってしまう。彼の能力が活かせる仕事があればと考えてしまうが、本人がそれでいいのであれば何も言うまい。
それに、どんな小さな仕事でも引き受けてくれるから、街の人とかなり溶け込んだと聞いている。報酬として金銭をもらう他にも野菜や果物などを持って帰ってくる。
俺はといえば、ガイアがいてもいなくても生活はほとんどかわりない。
食事も一人分増えただけだし、掃除や洗濯は、ガイアが外出したすきに浄化の魔法で済ませている。たまに馬の世話もするが、まだどうやったらいいのかわからないので、ガイアと一緒に行うことも多い。
その日も、一緒に起きて朝食を食べると、愛情たっぷりのキスを残してガイアは酒場の手伝いに行ってしまった。俺は、あまり暑くないうちに夏野菜を収穫して畑の雑草を抜いていた。キキはその側で蝶を追いかけたり、走り回ったりしている。
「キキ! 休憩しようか?」
声を張り上げて呼ぶと、キキは一目散に俺のそばに走ってきた。
キキにはビスケットとハーブ水を与え、俺は水を飲みながら、干した杏子ととりたての形の悪いきゅうりを食べる。
「今日も暑いな」
「キュン」
日陰にキキと並んで涼みながら、ぼんやりと空を見上げる。
「あー素麺食いたい」
「キュン?」
「素麺はな、こう細くて長いまっすぐな麺で、つるつるって啜って食べるんだ。薬味にねぎとか生姜を入れて食べると、これまた最高にうまくて……」
身振り手振りで食べる様子を伝えようとするが、キキは首を傾げるばかりだ。
「考えると余計食べたくなってきた。ここには麺はないんだよなー」
汗をぬぐって水を飲み干すと、立ち上がった。
「午後にはガイアが帰って来るから、二人で薪割りだ」
「キュン」
冬の準備は着々に進んでいる。手が空いたらとりあえず薪割り。乾燥する必要があるから、風通しがよく日当たりのいい場所に積み上げている。
それから食料の確保。秋に収穫できる野菜の種をまき、収穫した大量の夏野菜は食べるもの以外は地下倉庫へ保管。お金にはならないが、やることは腐るほどある。
ゲームの中では簡単だったことも、現実になると、まあ大変だ。でも毎日が充実して楽しい。
畑のほうへ歩いて行こうとしたら、山側から何か音がするのに気づいた。
立ち止まって振り向くと、どすんどすんという音がこちらに近づいてきているのがわかる。キキが俺の足元で山の方向に向かって唸り声をあげた。
「何か来るのか!?」
俺は固唾を呑み、懐から鮮血の黒扇を取りだした。他には解体用のナイフと草を刈っていた鎌しかない。以前は茂みから飛び出してきたのはうさぎだったが、この音からして確実に大きな生き物だ。もしかしたらモンスターかもしれない。
そう考えていた瞬間、木々をなぎ倒し、大きな白い熊がどすんと現れた。
「な、なんだ!?」
実際の熊を見たことはないが、こんなにも大きいものなのだろうか?
四本足でのっしのっしと歩いてくる姿は、あまりにも巨大で、歯を剥いている姿は、膝が震えるほど怖い。
後退りすると足が縺れて尻もちをつく。隣でキキが小さな体で立ち向かうように吠えている。
熊がぐおっと雄叫びをあげた瞬間、口から雪交じりの風が吹き付けてくる。熊ではない。モンスターだったのだ。
咄嗟にキキを抱き上げて、横に転がる。
俺たちがいた場所は雪がびっしりとはりつき凍り付いていた。
熊に似たモンスターはベアキングと呼ばれ、山に生息している。過去に何度か討伐したことがある。ただし、体毛は茶色か黒。黒のほうが茶色い個体より体力も攻撃力も強い。
こんな白いモンスターは見たことがなかった。レア個体なのか?
俺はキキを抱き上げたまま逃げようとしたが、はっとして動きを止める。逃げられるのか? という恐怖に体が震える。それに、逃げるにしても助けを呼ぶにしても、こんな凶暴なモンスターを引き連れて街へは行けない。
モンスターから目を離さないようにして、腕に抱いたキキをおろし、後ろに押しやる。
「キキ。街に行って助けを呼んで来てくれ」
倒せるかどうかわからない。もしかしたら殺されるかもしれないが、キキには助かってほしい。そんな思いもあって、キキを追い払うように「行け!」と叫んだ。
だが、キキは俺の側から離れない。
「キキ! 行ってくれ!」
もう一度言ってもキキは従わなかった。こんなことはじめてだ。
キキは俺を守るように前に出ると、ぶるっと体を震わせる。すると、キキの体がみるみるうちに大きくなった。
「キキ!」
唸り声をあげてキキがモンスターに飛びかかって行った。
モンスターが二本足で立ち、キキの攻撃を腕で振り払う。
キキがモンスターから離れたタイミングで、俺も鮮血の黒扇を振るった。
モンスターの腹に当たって戻ってくるが、ふさふさの体毛が擦れただけでたいしたダメージにはならない。
「くっそ」
モンスターが再び雄叫びをあげて、雪を口から吐き出した。キキは右に俺は左に逃げた。
態勢を直すと、すぐさま鮮血の黒扇を打ち込んだ。
首に当たったが、モンスターは痛くもかゆくもないのか、邪魔そうに首を振っただけだった。
これがゲームならば、敵の頭上に赤いゲージが出てどのくらい削ったのか見えるのに、まったく体力がわからない。
ただ、これは俺が敵う相手ではないとすぐにわかった。
でも戦闘をはじめてしまった。今更引けない。
「永遠の眠り!」
ぎゅっと握った鮮血の黒扇を内側に向けて、ひらりと宙に舞う。
踊り子の攻撃力などたいしたことはない。本領は、敵にかけるデバフ効果にある。
永遠の眠りは、敵を数秒間眠らせて行動を制限させる。ただこれが効かない敵もあるので要注意ではあるが……このモンスターはうまく作用したようだ。
異常を察したモンスターが俺に向かって突進しようとして……急に体が傾いて前に倒れていく。その目はしっかりと閉じられ、一瞬で気を失うように眠りへと落ちたことがわかる。恐ろしいスキルだ。
すかさずキキがモンスターの首に飛びかかる。
俺も加勢しようと、近づきナイフを首元に突き刺そうとした。そのとき、モンスターの目がぱっと開いた。覚醒が早い。
モンスターがもがいて首に歯を立てているキキを振るい落とした。
「キキ!」
うまく着地したキキを見てほっとしたが、すぐに俺は「漆黒の闇!」と唱えた。立て続けに「大地の錘!」と叫んだ。
漆黒の闇は盲目に、大地の錘は敵に自身の重量をかけて動きを遅くするスキルだ。
ともに数秒しか持たないため、鮮血の黒扇を掲げ「死神の微笑み!」と必殺技を行う。
連続ダメージと出血の状態異常でどのくらい体力ゲージが削れるかわからない。
目が見えないモンスターは闇雲に暴れている。でも動きは遅く、俺はナイフを頭に突き立てた。
その瞬間、体が吹き飛ばされた。地面に叩きつけられて、あまりの痛さにうめき声しか出ない。
「キュンキュン!」
キキが側で心配そうに鳴いている。
「だ、大丈夫だ」
息をするたびに胸が痛い。でも、こうしている間にモンスターにかけたデバフは解けてしまった。動きをとめて俺を見据える目に殺気が宿る。ナイフが頭に刺さったまま顔面を赤い血で濡らし、モンスターが空に向かって咆哮した。
氷の矢が降ってきた。
広範囲の攻撃に逃げられないと悟る。
キキが俺の前に立ち、いつもの愛らしい鳴き声とは違い、低い地を這うような声をあげた。俺とキキを中心に風が渦巻いた。空から降ってきた氷の矢はあらぬ方向へ飛び散り砕けて、落ちた氷は溶けてなくなる。
「キキ?」
俺はキキの体にそっと手を当てる。キキはちらっと俺を見て大丈夫だというように一瞬だけ笑った。その直後、体を低くしたキキが恐ろしいスピードでモンスターに突進した。
「キキ!」
キキの爪がモンスターの体を切り裂く。モンスターの体から首がぼとりと落ちて、血が噴き出した。
モンスターは倒れて、ぴくりとも動かない。
キキはどこに行ったのかと探せば、モンスターの後ろでまるで力尽きたように崩れ落ちた。
「キキ!」
急いで近寄ると、大きかったキキの体がゆっくりと縮んでいく。元の小さくて可愛いキキの姿がそこにあった。
震える体を抱きしめ、俺はごほごほと咳き込んだ。口から血が溢れてくる。
死ぬかもしれない。
痛む胸にキキを抱き、目を閉じると、体から力が抜けていく。
「…………」
キキと名前を呼ぼうにも、ヒューヒューとしか音が出ない。血の味が口に広がり、顎から滴り落ちる。
意識が遠のいていく。
頭の中に浮かんだのは、毎朝おはようと口づけてくるガイアの笑顔だった。
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