拗らせリアコネクト

山吹レイ

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「生田くん」
 買い物を終えてスーパーから出ようとしたとき、いきなり背後から声をかけられた。振り向くと、大家の鈴木さんが買い物袋を片手に持ち立っている。
「こんにちは」
 挨拶をすると、鈴木さんも「こんにちは」とにっこり笑った。
「今日はいいお天気ね」
「そうですね」
 見上げると、空は晴れ渡り、柔らかくも温かい風が吹いている。ベランダに布団を干している家もあって、洗濯物もよく乾きそうだ。
 アパートに帰るという鈴木さんと俺は並んでゆっくりと歩いた。
「生田くんにはとても感謝してるのよ」
 突然言われた言葉に、俺はなんと返せばいいのか困った。
 鈴木さんとは、会えば挨拶や二言三言交わすぐらいで、こうして並んで歩いたことも感謝されるようなこともした覚えはない。あるとしたら健斗のことだ。
「ちゃんとゴミも出しているようだし。最初はどうなるかと思ったけど……色々ご迷惑かけてごめんなさいね」
「あー……うん、まあ……見ていられなかったんで……」
 はじめの頃はすげない態度だったこともあり、歯切れ悪く答えると、鈴木さんは「ふふふ」と微笑んで、俺を見上げる。その目は優しさに満ちていて、健斗に対して厳しかったがやはり心配だったのだろう。
「けんちゃんも色々あってね」
 本人から色々と聞いている俺としては、ただ頷くしかない。
「あまり話さない大人しい子だけど、これからも仲良くしてやって」
「俺の方こそ、健斗には色々世話になってるんで……」
 そこまで言いかけた時、健斗が向こう側から歩いてくるのを見つけた。日差しから避けるように、俯き加減でだるそうにしている。
 一時、リリちゃんが死んで、彼女が描かれた服を着られないと悲しそうな様子でしょんぼりしていたが、それも何日か経つと幾分元気を取り戻していた。億劫そうに歩いているのは、ただ単に日差しが苦手なだけだ。
「けんちゃん」
 鈴木さんが声をかけると、健斗はやっと顔をあげた。俺の姿を捉え、ほっとしたように唇が上向く。
「こ、こ、こんにちは」
 近づくと、健斗はどもりながらも鈴木さんに小さく頭を下げた。
「お買い物?」
 鈴木さんの問いかけに頷くだけで返事をした健斗は、俺の隣に来て買ってきた荷物を手から取った。そして、俺たちの行く方向に一緒に歩こうとしていたので「お前、買い物に来たんじゃなかったのかよ」と訊いた。「ん」といつもの短い返事をして頷いた健斗は、俺が買った袋の中身を見て「カレー?」と呟く。長い前髪の下の目が輝いて見えるのは気のせいではない。カレーライスは健斗の大好物だ。
「仕事が終わったら、食いに来いよ」
 コンビニ弁当を主食としている健斗と夕食を一緒に食べるのも珍しくなくなった。
「すぐ行く」
 前のめりになって健斗はすでに駆け出しそうにしている。俺は呆れてため息をついた。
「これから作るんだよ。来てもすぐ食えないから」
 鈴木さんは俺と健斗のやり取りを見て、笑って言った。
「一緒に作ったら?」
 俺は困惑した健斗と顔を見合わせた。
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