流行りのオモチャを買わされたら、そのオモチャが擬人化しました!

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第一章 日常ラブコメ編

第39話 俺は、物書きにはならない

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 昼休みデートは……何だろう? あんまりデートって感じがしなかった。だって、学校の中をただ歩いているだけなんだもん。時折喋る事と言ったら、勉強の事とか、進路の事しかないし。正直、仲の良い(かは、微妙だが)クラスメイトとただ駄弁っているだけだった。

 話の内容が限りなく真面目なだけで、「恋愛」の文字はもちろん、「恋」の文字すら浮かんでこない。至って普通の会話。時折見せる笑顔も、俺の考えに共感しただけ、間違っても下世話な話に盛り上げるモノではなかった。
 流石は、清廉潔白の風紀委員。自分の好きな男と喋っている時でも、その話題は上品な、高尚極まる内容だった。下品な言葉はもちろん、下世話な話は一切出て来ない。
 
 俺はその光景に感心しつつ、改めて隣の少女を「すげぇ」と思った。
 
 神崎は、楽しげに話しつづけた。

「私の夢は、官僚でね。社会の為に貢献するのが夢なの」

「へぇ。それは、すげぇな。社会の為に貢献しようなんて」

 今の俺には、逆立ちしたって出来ねぇよ。自分が生きるのに精一杯で。自分の近くにいる奴なら何とかできるが、それ以上の人は、「助ける事」も、ましてや、「救う事」もできなかった。あの時……神崎の事を助けた時と同じように。

 俺は様々な要因が重なって、その要因から逃げられない時しか、相手の事を助けられないのだ。それ以外の時は……残酷だが、傍観者になってしまう。「自分には、関係のない事だ」と。それに苛立ちを覚えながら、その光景をただただ見ている事しかできないのだ。
 
 俺はそんな自分の事を恥じる一方……いや、恥じるからこそ、隣の少女がより神々しく、そして、魅力的に見えた。
 
 彼女は、俺には無い物を持っている。今の俺には、決して手に入らない物を。彼女は「それ」を自然として、自分の夢に真っ直ぐ、その道程を進み出そうとしていた。

「貴方は」

 神崎は穏やかな顔で、俺の顔に視線を向けた。

「やっぱり、物書きになるの?」

「え?」

「文芸部に所属しているから。物を書くのが好きじゃなかったら、文芸部になんか入らないじゃない?」

 俺は、彼女の言葉に押し黙った。彼女の言葉にどう応えて良いのか分からなくて。俺は憂鬱な顔で、彼女の言葉に黙りつづけた。

 彼女は、その様子に首を傾げた。

「時任君?」の声に「ハッ」とする。ついでに「アハハハ」と笑って、右の頬を掻き、彼女の顔に視線を向けた。

「俺は、物書きにはならない」

 彼女はその答えに驚いたが、それ以上の反応は見せなかった。

「ふうん。なら……どうして、文芸部に入っているの?」

「何となく、かな? 他にやりたい事もなかったし」

「ふうん」

 彼女は、つまらなそうに笑った。

「貴方には、夢が無いのね」

「そうだよ」と答えた自分が、妙に情けなかった。「俺には、夢が無い」

 俺は憂鬱な顔で、廊下の天井を見上げた。

「まあ、それでも生きていけるからさ。俺としては、別に良いんだけど。普通に卒業して、普通に就職する。就職する会社が、何処になるのかは分からないけどさ」

 神崎は、俺の手を握った。

「時任君」

「ああん?」

「夢はやっぱり、持った方が良いわ。じゃないと、後で後悔する。私達はもう、高校生なのよ?」

 俺は、その言葉に苦笑した。

「俺にとっては、まだ高校生だよ」

 神崎は、その言葉に俯いた。それから先は、無言だった。学校の廊下を歩いている時はもちろん、自分達の教室に戻ってきた時も。
 俺達は一言も喋らず……でも、相手への思いは変わらずに、それぞれの席に座って、五時間目の授業が始まるのを待った。
 五時間目の授業が始まった後は、その授業に集中し、それ以外の事はまったく考えなかった。五時間目の授業が終わって、六時間目の従業が始まり、その六時間目の授業が終わった後も。
 
 俺達は互いの目こそ見るが、特に話し掛ける事はなく、それぞれの分担場所に別れて、学校の中を掃除し、それが終わったら、教室の中にまた戻って、帰りのホームルームを聞き、自分の鞄に必要な物を入れて、それぞれの席から立ち上がった。神崎が俺に話し掛けて来たのは、それからほんの数秒後の事だった。

 神崎は教室の外に俺をいざなって、その目をじっと見つめた。

「時任君」

「あん?」

「夢が無くても、私は貴方の事が好きよ?」

 俺は、彼女の言葉にドギマギした。

「な、なんだよ? 急に」

「クスッ」と笑った彼女の顔は、まるで女神のようだった。「言葉通りの意味よ。ただ」

 彼女は、俺の頬に触れた。

「物書きになった貴方は、それよりもっと素敵かもね? 私は、物書きの夫を持ちたい」

「うっ」

 神崎は「クスッ」と笑って、俺の前から歩き出した。

 俺は、その背中をアホみたいに眺めつづけた。
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