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ペアリング
しおりを挟む「旦那、そこのお若い旦那がた」
二人が呼ばれたほうを見ると『占』と書かれた古汚い紙を、これまた小汚い机に貼り付けただけの、到底店屋とは思えぬ妖しさをかもし出していた一角に、その男は立っていた。
その男は薄い布で鼻から首元を隠し、余計に胡散臭さを演出しているようにも見えた。
「そう、そこの旦那がたのことでっせ」
男はもみ手をしながら小さな会釈を繰り返した。
「俺たちに何か用か?」
柔と剛がスリか置き引きの類ではないかと警戒しながら、怪しい男に近づいた。
「あっしはね、遠く離れた『インド』ってとこで占いと星見の修行をちょいとしましてね。
まあ、こう言っちゃあなんですが、かなり腕は確かでね。
そんでね、つい見えちまったんですわ。
なっ、なな、なんと、大吉相が出てまっせー。
旦那方が身を焦がすほど好いたお相手はあの別嬪さん方でっしゃろ?」
怪しい男はあごをしゃくって花色と勝色をチラリと見た。
「そんでそのお相手になにか送りたい、思って町へ来た。
しかし、なかなか良いものが無い。違いまっか?
そんな旦那方に、取っておきのええもんがありまっせ。
その名も『ペアリング』と申します。
これを贈ればああーら不思議。
喧嘩も焼もちも、まあるくおさまるっちゅう優れもの。
なにせこのペアリングは、『一生お前と添い遂げるぜ』という意味合いがあるんでっせ」
怪しい男は『一生お前と添い遂げるぜ』のくだりを、なぜか初対面の柔の声色で真似をした。
「それに、なな、なんとこのペアリングは本場インドでも滅多に取れない最高級の『サファイア』っちゅう石で作られた世界にたった一つの一点ものでっせ。今ならなんと半額ーー」
妖しい男はやはり妖しい話をした。
柔と剛が無言で立ち去ろうとした。
「あいや、待たれい。
あっしは本当に腕がいいんでっせ。
旦那がた、双子でっしゃろ?
そしてあっちの別嬪さん方も双子やおませんか?
そんで、そっちの旦那」
ビシッ、怪しい男が柔を指差した。
「最近、あのお団子の別嬪さんの色気が駄々漏れで困ってやおませんか?
中身は女子はんみたいやけど、男はんでもあんだけの美貌や…苦労しますな、旦那。
そんな旦那にはこのペアリングがよお似合いまっせ」
怪しい男の手のひらの中心に二つの指輪があった。それは強い青色で平安の頃には『はなだ色』とも呼ばれていた『花色』と呼ばれる色の石で作られた指輪だった。
怪しい男は気に入らないが、指輪に関しては一瞬にして柔の心を捉えた。
「でもあの別嬪さん、普段は指輪を付けられないお仕事やおまへんか?
せやからこの『チョーカー』もお付けしまっせ。
このチョーカー、本場インドの聖なる牛から作られた本皮。使い込むほどに馴染むまさに最・高・級・品。
しかーもこのチョーカーに指輪を通して首からぶら下げた日にゃあ、もう。
『俺はお前に首ったけなんだぜ』ってな意味になるんですわ。ひゃっ、ひゃっ」
腹を抱えて大笑いしながら、『俺はお前に首ったけなんだぜ』のくだりをまたも柔の声色で男が真似た。それを聞いた柔が軽く殺意を覚えたように睨んでいたが、怪しい男が気に留めることはなかった。
「次にそちらの大きな旦那。
最近あの、ふわふわ髪の別嬪にえらく焼もちやかれて困ってまへんか?
そんな旦那にはこれがお勧めでっせ」
剛の目の前に出された指輪は、紺よりも更に濃い一見黒に見えるほど暗い藍色をしていた。
「この色は本場インドでも珍しいんでっせ。なんて言うたかな、『なんとか色』って言う」
「『勝色』だろ」
「そうそう、そんな名前でしたわ。旦那、よくご存知で。
さすが染め職人目指してるだけありますなあ。
でな、あっちの旦那と同じようにチョーカーもお付けしますわ。
ほんでな…」
男が剛を少し奥に引き込み、なにやらひそひそ話をすると、剛が「気に入った、それもくれ」と、即決で指輪を購入した。
柔も『花色の指輪』が気に入ったので男から購入し、互いにそれぞれ懐にしまって目配せをした。
四人の後姿を見送った怪しげな男が、「毎度あり~。しっかし、こんだけ順風満帆な色恋はなかなかお目にかかれませんわ、お幸せに~」と手を振った。
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