寤寐思服(gobi-shihuku) 会いたくて会いたくて

伊織 蒼司

文字の大きさ
19 / 42

ペアリング

しおりを挟む




「旦那、そこのお若い旦那がた」

二人が呼ばれたほうを見ると『占』と書かれた古汚い紙を、これまた小汚い机に貼り付けただけの、到底店屋とは思えぬ妖しさをかもし出していた一角に、その男は立っていた。

その男は薄い布で鼻から首元を隠し、余計に胡散臭さを演出しているようにも見えた。

「そう、そこの旦那がたのことでっせ」
男はもみ手をしながら小さな会釈を繰り返した。

「俺たちに何か用か?」
柔と剛がスリか置き引きの類ではないかと警戒しながら、怪しい男に近づいた。

「あっしはね、遠く離れた『インド』ってとこで占いと星見の修行をちょいとしましてね。
まあ、こう言っちゃあなんですが、かなり腕は確かでね。

そんでね、つい見えちまったんですわ。
なっ、なな、なんと、大吉相が出てまっせー。
旦那方が身を焦がすほど好いたお相手はあの別嬪さん方でっしゃろ?」
怪しい男はあごをしゃくって花色と勝色をチラリと見た。

「そんでそのお相手になにか送りたい、思って町へ来た。
しかし、なかなか良いものが無い。違いまっか?
そんな旦那方に、取っておきのええもんがありまっせ。
その名も『ペアリング』と申します。
これを贈ればああーら不思議。
喧嘩も焼もちも、まあるくおさまるっちゅう優れもの。
なにせこのペアリングは、『一生お前と添い遂げるぜ』という意味合いがあるんでっせ」

怪しい男は『一生お前と添い遂げるぜ』のくだりを、なぜか初対面の柔の声色で真似をした。

「それに、なな、なんとこのペアリングは本場インドでも滅多に取れない最高級の『サファイア』っちゅう石で作られた世界にたった一つの一点ものでっせ。今ならなんと半額ーー」
妖しい男はやはり妖しい話をした。

柔と剛が無言で立ち去ろうとした。

「あいや、待たれい。
あっしは本当に腕がいいんでっせ。
旦那がた、双子でっしゃろ?
そしてあっちの別嬪さん方も双子やおませんか?
そんで、そっちの旦那」

ビシッ、怪しい男が柔を指差した。

「最近、あのお団子の別嬪さんの色気が駄々漏れで困ってやおませんか?
中身は女子はんみたいやけど、男はんでもあんだけの美貌や…苦労しますな、旦那。
そんな旦那にはこのペアリングがよお似合いまっせ」

怪しい男の手のひらの中心に二つの指輪があった。それは強い青色で平安の頃には『はなだ色』とも呼ばれていた『花色』と呼ばれる色の石で作られた指輪だった。
怪しい男は気に入らないが、指輪に関しては一瞬にして柔の心を捉えた。

「でもあの別嬪さん、普段は指輪を付けられないお仕事やおまへんか?
せやからこの『チョーカー』もお付けしまっせ。
このチョーカー、本場インドの聖なる牛から作られた本皮。使い込むほどに馴染むまさに最・高・級・品。
しかーもこのチョーカーに指輪を通して首からぶら下げた日にゃあ、もう。
『俺はお前に首ったけなんだぜ』ってな意味になるんですわ。ひゃっ、ひゃっ」

腹を抱えて大笑いしながら、『俺はお前に首ったけなんだぜ』のくだりをまたも柔の声色で男が真似た。それを聞いた柔が軽く殺意を覚えたように睨んでいたが、怪しい男が気に留めることはなかった。

「次にそちらの大きな旦那。
最近あの、ふわふわ髪の別嬪にえらく焼もちやかれて困ってまへんか?
そんな旦那にはこれがお勧めでっせ」

剛の目の前に出された指輪は、紺よりも更に濃い一見黒に見えるほど暗い藍色をしていた。

「この色は本場インドでも珍しいんでっせ。なんて言うたかな、『なんとか色』って言う」
「『勝色』だろ」
「そうそう、そんな名前でしたわ。旦那、よくご存知で。
さすが染め職人目指してるだけありますなあ。
でな、あっちの旦那と同じようにチョーカーもお付けしますわ。
ほんでな…」
男が剛を少し奥に引き込み、なにやらひそひそ話をすると、剛が「気に入った、それもくれ」と、即決で指輪を購入した。

柔も『花色の指輪』が気に入ったので男から購入し、互いにそれぞれ懐にしまって目配せをした。

四人の後姿を見送った怪しげな男が、「毎度あり~。しっかし、こんだけ順風満帆な色恋はなかなかお目にかかれませんわ、お幸せに~」と手を振った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

処理中です...