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壷湯 R18
しおりを挟むセツとみ空が他の旅人の倍以上の時間をかけて熊谷領を目指していた。
それはみ空の体力を気遣った事と、紅がセツに一つの仕事を与えたからだった。
山ノ内領を出た二人は峠の入り口にある宿場で人気の宿を三つほど聞き、泊まり歩いたのだった。人気というだけあり、使用人たちも料理も部屋も、どれもが素晴らしく二人を満たした。
『面倒くせー仕事はやんねーよ』
『なに、それほど難しい事ではない。
今度新しい店を出す事になってな、俺が目星をつけているいくつかの宿場町の評判と客足をお前の目で見るだけでよい。
嫌ならそれでもよいぞ。
だが、やってくれるなら小遣いはその倍に弾むが』
『やるよ、やればいいんだろ。やれば。小遣い倍、忘れんな』
セツがむくれて、そっぽを向いた。
『み空と楽しんで来い』
セツの髪をクシャリと撫で、紅がニカッと笑った。
熊谷領へ向かう上りの峠道。
「僕、もう歩けるよ」
背負われたことを恥ずかしがるようにみ空が呟いた。
「遠慮すんな。疲れた嫁を労わるのは夫たる俺の役目。
本当はいつもみたいに横抱きにしたいのにお前は嫌がるし。
黙って俺にしがみ付いてろ」
「でも…」
「俺が嬉しくて、楽しくてたまんないんだ」
急に走り出したかと思うと、立ち止まり、その場をぐるぐると回った。
「どうだ、楽しいか?」
「僕…目が回って駄目みたい」
ぐったりとしてしまったみ空に、後悔をしたセツであった。
峠の頂上には秘湯がある宿場がぽつんと一軒あった。
熊谷領へ続く街道の中ほどにあるこの峠は、さほどきつい峠道ではなかった。女の足でも半日かければ超えられるため、熊谷領と山ノ内領側の峠の入り口にある賑やかな二つの宿場町に客足が取られていた。
二人は、予定外にその宿に泊まる事になった。
「み空、大丈夫か?」
み空の手を握りながらセツが心配そうに見ていた。
「うん、だいぶ元気になった。お水飲みたい」
セツは迷わず口移しで飲ませた。
「もっと」
当然のようにみ空が嚥下すると、再び目を閉じて眠りについた。
宿の女将に二人分の握り飯を頼むため、セツが宿の奥へと足を進めた。
そのセツの耳に、宿の女将と主人の会話が聞こえてきた。
「やっと何日かぶりの泊まりだよ。
どうする?あんた。
通いの使用人たちもみんないなくなって、今じゃこの宿はあたしとあんたしかしないし」
二人の会話からこの宿が潰れるのは時間の問題だった。
次の日の朝、み空が何事も無かったかのように元気を取り戻した。
「良かった。じゃあ朝の風呂の時間だよ」
セツがさっさと自分の浴衣を脱ぎ、布団に横になっているみ空も脱がせた。
自分たちの離れでいつもそうしているように、み空を横抱きにして立ち上がった。
「セツどこ行くの?」
「風呂って言ったろ?」
「だって裸」
「脱がないと風呂に入れないだろ?」
「だって他の人たち」
「俺たちだけだって、泊り客」
「そういう問題じゃなくて、裸で部屋を出るなんて…」
恥ずかしそうにみ空が俯いた。
「安心して、み空。
俺がお前の裸を誰かに見せるはずなんて無いだろ。
この宿は客室ごとに風呂があるんだ、俺たちの離れみたいに」
「え…そうなの?」
み空が驚きと好奇の目を向けた。
「ああ、この宿は街道沿いに横長に建っていて、街道と平行した一本の廊下がこの建物の真ん中を分断して、左右に分かれた造りをしてるんだ。
街道に面した側は茶屋と食事処、日帰り入浴の大浴場、宿夫婦の居室がある。
そして廊下の奥、つまり街道とは反対側横一列に俺たちのいる客室が並んでいるんだ」
そう言うと、セツがみ空を抱きかかえたまま部屋を出た。
「壷に湯が張ってあるなんて粋だな」
木々を眺めながら二人で浸かると、ザザーーーッと勢いよく湯があふれ出た。
壷湯は二つあったが、セツには一人で入る概念は無かった。
斜めに口を切り落とした竹から、湯が絶え間なく壷に注ぎ込んでいた。
「極楽極楽。夫婦水入らずっていいな」
呑気とも取れる発言の後、セツがギュッとみ空にしがみ付いた。
「み空…したい。もう四日も『オレ』に触ってない」
背後からセツのしんみりした声がした。
今まで泊まった宿の風呂には二人とも入らなかった。湯を溜めた桶で体を拭いて、湯に浸した手で髪を梳いてやっていた。だらしなくくたびれたオスと、だいぶ小さくなった二つの丸みを気にしているみ空を気遣ってのことだった。
その事を知っているみ空が「僕も」とはにかんで答えた。
壷湯はまるで『動かない揺り椅子』の様だった。
「こういう露天でするって興奮するな。
この温泉、何に効くんだろうな?
もしかして『オレ』に効くかもな、な、み空」
セツが腰を揺らしつつ、セツがオレを可愛がる手を休めない。
「ああっ、あんっ」
さっそくみ空が湯を汚した。
「み空も興奮してるね。今度はオレも一緒に」
バシャバシャと勢いよく湯が踊りながら壷から落ちる。
「気持ちいいか、み空」
新たにオレの一員になったツボも、セツが忘れるはずはなかった。
「いい、んああ。気持ちいい、セツ」
屋外と言う趣向に、二人は興奮していた。
「早いけどそろそろ限界、俺」
「あ、あ、僕もまた」
阿吽の呼吸で二人は体を震わせた。
「露天、壷湯、最高だ」セツが感嘆した。
「このまま…繋がったままみ空と布団に行きたい」
セツが飛び切り甘えた声でみ空に囁いたが、返事が戻ってくることはなかった。
湯あたりをしたみ空のため、もう一泊を余儀なくされた二人であった。
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